怪しいドリンク (Pixiv Fanbox)
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トレーニングマシンの唸りと、重りがぶつかる乾いた衝撃音。都心にある大型スポーツジムの一角で、筋肉自慢の男たちが汗に濡れた身体を光らせながら、無言で自分と向き合っている。
その中に、ひときわ屈強な男たちの姿があった。
牧田雄介(まきた ゆうすけ)、32歳。既婚で一人娘の父。188cm、112kgの元ラガーマンで、日に焼けた肌に短く刈り込んだ髪、太い眉と大きな目、通った鼻筋の男らしい顔立ち。首は太く、上半身と下半身には迫力のある厚みがある。遠目からでもわかる大きな胸と腕、そして腿の太さが、周囲の視線を引いている。
須山真司(すやま しんじ)、26歳。独身の元高校球児。179cm、85kgのがっしりとした体型で、短髪ツーブロックにやや細めの目が特徴的だ。垢抜けない素朴な顔立ちだが、捕手として鍛えた重厚な下半身は人目を惹き、特にショートパンツの上からでも目立つ丸みを帯びた尻は、同性からの視線すら集めるほどだ。
「っしゃ〜! 先輩、お疲れっした~」
「おう真司! お互い、今日も追い込んだなぁ」
汗を拭いながら、脱衣スペースで軽口を交わす二人。シャワー室の鏡の前では、結構な数の男たちが、裸の上半身を見せつけるようにポージングを繰り返したり、スマホで自撮りしたりしている。その光景をちらりと見やった真司は、開いた口が塞がらないといった様子で、鼻を鳴らした。
「……最近のやつら、鏡好きすぎじゃないっすか? あっちなんて、写真まで撮ってるっすよ」
「まあ、お前もちょっとはその気持ちわかるだろ? 鍛えりゃ自信もついて、ナルシストってまではいかねえが、見せたくなっちまうんだろうさ」
ロッカーで荷物をまとめ、二人がジムの出口に差し掛かったとき、受付カウンターからスタッフの一人が声をかけてきた。
「お疲れさまでした。これ、近くの銭湯のドリンク無料チケットです。最近、提携を始めまして……。今日から使えますので、良かったらどうぞ」
渡されたのは、二枚の小さな紙片。ジムに来る途中に目にした、少し古びた銭湯の名前と住所、それに有効期限のスタンプが押してある。
「へぇ、銭湯なんて久しぶりだな」
「オレ、銭湯って行ったことないっす。サウナあるなら行ってみたいかも」
雄介と真司の二人はチケットを受け取り、アレコレと銭湯談義に花を咲かせながら、ジムの外へと向かっていった。
その背中を、スタッフはじっと見送っていた。
営業スマイルのまま、その口角がわずかに吊り上がる。
「……良い器が、また二つ♥」
そのどこか人間離れした不気味な呟きが、二人の耳に届くことはなかった。
***
件の銭湯は、ジムからほんの徒歩数分ほどの、ビルが密集した土地の一角に建っていた。外壁はくすんだタイル張りで、看板の蛍光灯もちらついている。昭和の匂いが漂うその佇まいに、真司は顔を顰めずにはいられなかった。
「……マジでここっすか?」
「まあ、外観は年季入ってっけど……逆に当たりかもしれねえぞ。老舗ってやつだよ」
雄介もがっかりとしたように太い眉尻を下げたものの、すぐに気分を取り戻してあっけらかんと笑い、戸に手を掛けた。
中に入ると、二人は思わず顔を見合わせた。古さを感じさせないどころか、驚くほど清潔でスタイリッシュな内装。年季の入った杉の巨木でこしらえた、レトロな番台風のフロント。その横には、タッチパネル式の最先端の券売機がある。
壁には「ミストサウナ」「炭酸泉」「露天風呂」などの文字が並ぶ案内板が下がっている。
「なんか、思ったより全然いいっすね」
「だな。こういうのが一番嬉しいギャップだよな」
入浴券とドリンク無料チケットをフロントで渡し、リストバンド型の鍵を受け取った二人は、胸を躍らせながら男湯の暖簾をくぐった。
脱衣所に入った瞬間、浴場から漏れるムワリとした熱気と、微かなアロマの匂いが鼻をかすめる。
ロッカーの前では、すでに何人もの男たちが全裸で立ち、鏡の前に並んでいた。その全員が、筋骨隆々。フィジーク選手のように無駄のない体つきの男性や、逞しい筋肉の上に分厚い脂肪をのせた男性──、その誰もが自分の肉体を撫でたり、ポージングを繰り返したりして、恍惚とした顔で鏡を見つめている。
「……うわ。ここもナルシストの巣窟かよ」
真司が呆れたように小声で呟くと、雄介も口元を引きつらせた。
「たぶん、俺らと一緒でチケット貰ったから来た、ジムの会員のやつらだろ。まあ……鍛えてる奴は、多少見せたがりになるってもんだ。俺らには関係ねぇ。無視だ、無視」
二人は、なるべく彼らとは視線を合わせないようにして服を脱いだ。
ボクサーパンツを脱いで露になった、真司の丸く張った臀部。分厚い胸と腕が自慢の、雄介の上半身。それらを周囲の男たちが、熱い眼差しで見つめていた。
*
浴場の扉を開けた瞬間、二人の鼻腔をくすぐったのは、硫黄とハーブの混じりあったような濃密な香りだった。蒸気に満ちた屋内では、湯けむりがゆるやかに立ちこめ、裸の男たちが思い思いにそれぞれの湯を楽しんでいる。
正面には大きな主浴槽があり、広い湯舟にどっぷりと浸かった男たちの顔は皆、蕩けたように緩んでいる。その周囲には、電気風呂、炭酸泉、ジェットバス、そして奥にはサウナ室と水風呂も見えた。
「……すげえ。あの古びた外観からのギャップ、ありすぎだろ」
「ほんとっすね……。あそこなんて、滑り台まであるっすよ」
雄介が目を丸くしながら呟き、真司も深く頷いた。二人は洗い場へ向かい、横に並んで腰を下ろす。
「……ふぅ」
身体を洗いながら、ちらちらと辺りに視線を巡らせると、やはりここでも裸の男たちはどこか様子がおかしかった。湯船の縁に並んで座った男たちが互いに肩を組んだり、太股を撫でまわしたりしながら笑い合っていたり、湯の中で唇と唇を寄せ合っている客たちまでいる。
「……え? ちょっとあれ、ヤバくないっすか?」
「……ん、まあ……でも、男同士で仲良いって、最近は普通なのかもな」
心のどこかで何かが引っかかった。
【おかしい】、【異常だ】と本能は叫んでいるのに、それが湯気に紛れてどこかへ消え、数秒後には『まあ、これくらい普通か』と、雄介も真司も自然に受け入れてしまうようになっていた。
むしろそれこそが、当たり前のマナーのようにしか思えない。
ふわりと香る薬草のような香り、ポカポカと温まる皮膚、心地よい疲労とともに、現実感が薄れていく。
肩の力が抜け、違和感は霧散し、むしろこの空間が【正しい】ような気さえしてくる。
「……なんか、こういう空気も悪くないかもな」
「……っすね。せっかくだし、サウナにも行ってみましょうよ、先輩」
その背後では、むくつけき男たちがネットリとした眼差しで、彼ら二人を見やっていた。視線を感じて真司が振り返ったが、男たちはもう何事もなかったように湯船に肩まで浸かっていた。
ごく普通の男のふりをして──。
*
サウナ室の扉を開けると、熱波とともに濃厚な汗の匂いが二人を包み込んだ。高温の乾いた空間。胸がすくような檜の香り。
木張りの狭い室内は、間接照明に照らされて橙色に輝き、階段状に四段並んだベンチには、筋骨隆々の裸の男たちが整然と座っている。
じっと目を閉じて汗を垂らしている者、肩を寄せ合って話し込んでいる者。中には、お互いの股間に手を置いたまま見つめ合っている二人組の姿もあった。タオルを腰に巻いている者などおらず、みな生まれたままの姿を当たり前のように晒している。
雄介と真司は、空いていた上段のベンチに並んで腰を下ろした。ジリジリと肌を焼くような熱。定期的に天井から落ちてくる滴がサウナストーンに当たって、ジュッと音を立てては蒸気を発する。
「……これ、マジで当たりだったな」
「めちゃくちゃ整うっすわ……」
しばらくすると、隣に座っていた男がゆっくりと両腕を持ち上げ、自分の大胸筋を揉み始めた。
汗が流れ落ちるその手の動きは、どこか艶めかしく、彼は無言のまま快感を噛みしめるような悦に浸った表情を浮かべている。
(……こいつもナルシストかよ。いや、違うか。ここではこれも普通なんだよな、たぶん……)
真司の中で、【不自然だ】という警報が一瞬鳴ったが、次の瞬間にはその音は、汗と一緒に流れていった。
──ここは、こういう場所なんだ。
──ジムの延長みたいなもんだろ。
──裸の付き合いって、こういうことかも。
思考が【異常】を肯定するように、ゆるやかに塗り替えられていく。下段では肩を寄せ合っていた男たちが、寝転んでシックスナインの形になって互いのチンポをしゃぶり合い、股間に手を置き合っていた男たちは、サウナ室のど真ん中で堂々とセックスを始めていた。
「うお、アイツらすげぇな……」
雄介が目を丸くしながら思わず呟くと、隣の真司も顔を真っ赤にして息を荒げながら同調した。
「こんなあちぃサウナ室でヤるとか……、元気っすね」
目の前で繰り広げられる男性同士の性的な行為に、もはや二人も驚きはしなかった。もっと見たい、混ざりたいという好奇心がどんどん膨らんでくる。異性愛者なのに、男たちのまぐわう光景がなんとも淫靡で、気付けば二人はガニ股になった状態で、他の男性客たちにフェラチオをされていた。
独身の真司だけでなく、既婚者の雄介ですらチンポをしゃぶられる回数など、両手で数えられるくらいだというのに──。
「あ、あぁ……やべぇ、たまんねっ♥」
「んぐっ♥ あ゛ぁッ♥ 出るッ♥♥」
真司のチンポは、汗だくで固太りした中年男性の口に包まれ、雄介は自分の股間に吸い付いた大学生風の爽やかな男の頭を両手で抱えながら腰を振っている。サウナ室の中は男たちの野太い喘ぎ声やよがり声で、より一層卑猥な空間に仕上がっていた。
「お゛ッ♥ お゛ぉ~っ♥♥」
そして雄介は、誰よりも野太い声を上げながら射精した。彼のチンポから噴き出すザーメンは、あまりにも濃厚すぎた。大学生は飲み込めず、むせた勢いで彼の口から雄介のチンポが勢いよく解き放たれ、辺り一面にドロッとしたザーメンを撒き散らす。
「んっ……あぁ、悪ぃな。つい、思いっきり出しちまった」
そう言いながら雄介がふと周囲に目をやると、サウナ室内の男たちがみんな虚ろな目をしながら息を荒げ、チンポをシコシコしてオナニーをし始めていることに気がついた。その中には、真司も混ざっている。
「あ、あぁっ、先輩♥」
彼は恥ずかしがりもせずに自らの両乳首を親指と人差し指でコリコリ挟みながら腰をヘコつかせている。彼の手を強引にとると、雄介はサウナを後にした。
その後は、水風呂を経由して、露天風呂へ。そのどちらでも逞しい男たちが彼らに声をかけてきて、彼らもまた受け入れたいと思った相手に対しては、誠実に、また貪欲に性的な関係を求めた。
「は~~……、いい湯加減の風呂入って、サウナからの露天風呂での締めで、マジで生き返ったな!」
「こういう銭湯って、もっと流行っていいと思うんすけどね」
夜風が心地よく、頭上にはビルの灯がちらちらと瞬いている。湯気に包まれながら、二人は心から満足していた。サウナの余韻が、体の芯を疼かせる。湯の中では、ガチムチの男たちが激しく腰を振って野太い声で喘ぎ、大きなベンチの上では、一心不乱に勃起したチンポをしゃぶり合う者もいる。
そんな彼らを横目に、雄介と真司も互いの肉体をまさぐり合いながら、自然と舌を絡め合っていた。【奇妙さ】はもう、彼らの中では異物ではなかった。
*
脱衣所へ戻った二人を出迎えたのは、白熱灯に照らされた空間に漂う、熱気と汗の匂いだった。
ロッカー前では、相も変わらず何人もの客が全裸のまま鏡の前に立ち、ポージングを取っている。勃起した自身のチンポをスマホで撮影する者や、しゃがんだまま他人の尻をスマホ越しにズームして動画に収める者までいる始末だ。壁際へと視線を向けると、パンッパンッと音を立てつつ、男性同士で行う濃厚なセックスが目に入った。
だがすでに雄介も真司も、それを見て眉を顰めることはなかった。むしろ、「ああ、ここってそういう空間なんだな。俺たちもお互いに盛りあうか?」などと、茶化すほどだ。
二人とも全裸のまま、タオルも巻かずに堂々と歩いてすらいる。自分たちもまた、【そういう空気】の中に染まりはじめていることに、もはや気付きさえしない。
脱衣所の奥、飲料の自販機が並ぶ一角にたどり着いたとき、雄介が足を止めた。
「お、懐かしいな。風呂上がりの一本って言ったら、これだろ」
「コーヒー牛乳っすか?」
「いや、俺はフルーツ牛乳派」
二人は笑い合いながら、列に並ぶ瓶を眺める。コーヒー牛乳、フルーツ牛乳、サイダー、イチゴオレ……
その中に、ひときわ異彩を放つ一本があった。
透明の瓶にラベルは貼られておらず、中身はねっとりとした緑色の液体。冷えているはずなのに、なぜか瓶の表面には蒸気がついていない。
「……なんすかね、これ。ラベル貼ってないっすし」
不思議がる真司を横目に、雄介が笑いながら選択ボタンを押す。
「こういうの、試してみたくなっちまうんだよな~」
「ちょっと先輩! やめときましょうよ、腹壊したら洒落になんないっすよ!」
しかし、すでに瓶はゴトンという鈍い音とともに、取り出し口に落ちてきていた。
「ま、試してみてからでも遅くねえって」
雄介は瓶を持ち上げ、キュポンとキャップを外すと、口元に運んだ。
中身は、ゼリー状の液体が瓶の内側にねっとりとまとわりついており、光に反射して深い緑の輝きを放っている。
「この味、メロン……いや、なんだろ。ゼリーっぽい」
ドロリとした液体が舌に触れた瞬間、雄介の身体に電流が走った。
「っ……!!」
メロンジュースとも、サイダーとも違う。それは【果実】の味ではなかった。
濃厚で、甘く、ねっとりとした味わい。まるで誰かの身体から絞り取った【生命の蜜】のような、淫らで熱いエキスが、舌にまとわりつく。
喉奥へと滑り込む感触は、液体とは思えないほど生々しい。一気に流し込むと、雄介の喉仏が激しく上下に動いた。
ごくっ、ごくっ、と雄介の喉が液体を飲み下す音が、脱衣所の静寂の中で妙にうるさく響いた。
そして──
「ん、あっ……く……ッ、……っぅああ……ッ!!」
飲み干すと同時に、雄介の身体が大きくのけぞった。肩が跳ね、腹筋が痙攣し、勃起した陰茎がビクリと動いて黄みがかった精液が、亀頭の先端からビュルッと飛び出した。
「せ、先輩ッ!?」
突然の雄介の異変に、真司が慌てて駆け寄る。濡れた裸足が脱衣所の床を叩き、逞しい太腿と尻が揺れる。
「先輩、大丈夫っすか……? 顔、すげぇ赤いっすよ!」
雄介は壁に片手をついて、ゼェゼェと呼吸を整えていた。額には汗、胸は上下に激しく波打っている。
だが次の瞬間、彼はゆっくりと振り返り──、口角をニタリと吊り上げた。
「……おぉ、これ……ヤバ……。だいじょーぶだって。むしろ……」
その瞳には、見たことのない艶があった。爛々と光る黒目の奥に、何か異様な熱が宿っている。
「おい、真司。これ、マジでヤベェ。飲んでみ。……めちゃくちゃ、イイぞ。お前も、絶対気に入るから」
そう言うと、雄介は振り向き、ふらつきながら自販機の前に立った。全裸のまま、大きな胸と尻を揺らして。
「俺のおごりな♥」
ゴトリ、とまた落ちてきた瓶のキャップを外すと、がしっと後輩の肩を掴み、その手に握らせる。
「ほら……飲めよ、真司!」
真司は、一歩も動けなかった。
(先輩、なにか……おかしい。けど……)
瓶の口から立ち上る怪しい香りが、思考を麻痺させる。鼻腔を突く甘ったるい匂い。熟れすぎた果実、女性器を想起させる、むせかえるような芳香。
その香りに魅了されたかのように、真司は瓶を口元に運んでいた。
「……じゃあ、いただきます」
唇を近づけ、液体を流し込んだその瞬間──
「……っ、ん……あ、あぁ……っ……ん、あ゛あ゛……ッ!!」
一瞬で全身の感覚が裏返る。
ジュースが喉を通ると同時に、体の奥底が火照るように熱くなり、股間が勝手に勃ち上がった。足元が震え、大きく張り出した尻がヒクつき、睾丸がギュッと縮む。硬くなったチンポは激しく前後に動き、尿道を駆け抜けたザーメンが、勢いよく亀頭の先端から飛び出した。
「は……あっ……やべ……っ……あ、あ゛……ッ!!」
鏡に映る真司の顔が歪んだまま、絶頂するように白目を剥く。引き締まった肩、太い尻、男らしい筋肉のラインが、痙攣とともに汗に濡れて鈍く光っていた。
数秒の沈黙。
だが次の瞬間、真司は肩を揺らしながら、くくっ、と笑った。眼下に広がる大きな両の掌を見つめ、片手では胸を揉みしだいて、もう一方で反り返った肉棒に手を添える。
「うへへ……クセになるっすね先輩、これ……マジで♥」
彼の声のトーンは低く、艶を帯びていた。真司の仕草、視線、立ち方までが、さきほどまでとはまるで別人だった。二人は、全裸のまま、互いの肉体を見つめ合う。
「……その身体、気に入ったか、真司?」
「うっす、いい器っすよ。顔がちょっと芋っぽいところが、オレのタイプっす♥」
男同士のはずの会話に、妙な色気と興奮が混ざる。二人は鏡の前で、自分の筋肉を確かめるように全身を撫で回し、掌に宿る【新しい感覚】を楽しんでいる。
──ゼリー状に変換され、瓶詰めにされた男たちの魂。
──それを飲んだ者は、魂を上書きされ、【外側】だけが利用される。
──この銭湯は、魂を収めるための肉体をおびき寄せる、【罠】だ。
「俺たちがゼリーになってから、一週間が経ってんな。まあ、体感ではついさっきって感じだがよ」
ロッカーから取り出したスマホの画面で日付を確認した雄介の呟きに、考え事をするかのように、真司が目を閉じつつ首肯する。
「そっすね……、おぁぁ……♥ 雄介先輩、新しい身体の脳みそ使って記憶を思い出すの、めっちゃイイっすよ♥ ガキの頃から大人になるまで、思い出すたびに気持ち良すぎて、チンポビンビンになるっす♥♥」
「マジか……、んお゛ぉぉ♥♥ 【俺】、嫁と娘がいるのかよ! ノンケボディを手に入れた上に、妻子持ちとかアガルぜぇ♥ 【俺】は胸とケツがデカい女が好きなんだな。これだけチンポが黒いのも、女とヤリまくってきたせいか……。まあ、こんだけエロい体とイケてる顔してちゃあ、そりゃ雌どもともずっこんばっこんするわけだわ。……う、ぉ♥ やべぇッ! 嫁とのセックス思い出しただけで、ザーメン出そう♥♥ 早く、奈津美(なつみ)にこのチンポ、ぶち込みてぇ!!」
「先輩……でも、その前に……」
真司は雄介に向き直り、自分の肉体を見せつけるようにポーズを取る。それはもはや、通常の銭湯での日常の一コマではなかった。
「なんかオレ、すげぇ興奮してきちゃいました♥」
「……俺もだよ♥」
二人は視線を絡め合わせ、舌舐めずりをする。雄介と真司の身体の中に宿った人格は、もはや元の【彼ら】のモノではない。今そこにいるのは、元ラガーマンの肉体をまとった【誰か】と、キャッチャー体型の殻に宿った【誰か】だった。彼らの股間から生えた肉棒は天を衝かんとばかりに勃起し、亀頭の先からは我慢汁がドロリと糸を引いている。そして二人は、どちらともなく顔を近づけると、唇を重ねていた。
*
【あの日】から、二日後。とあるスポーツ用品メーカーのオフィスビル。そのフロアの一角にある営業部の室内で響くのは、コピー機の作動音、電話のコール、キーボードの打鍵音。すべてがありふれた会社の日常だ。
その中で、デスクに向かう雄介は、正面のモニターに真剣に目を走らせていた。机の上には、社内会議用のプレゼン資料の山。仕事に取り組む【彼】の働きぶりは、まさしく【牧田雄介】そのものだった。
「先輩、これ、次の製品ラインの説明会資料です」
すっと差し出された書類。差し出す手は分厚く、ごつごつとした指先。それは、須山真司の姿をした者の手だった。
「おっ、ありがとな真司。仕事が早いな」
「もうすっかり、【この仕事】にも慣れましたから」
二人のやり取りに違和感はない。周囲の社員たちにも、ごく自然に笑顔を向ける。だが、同僚には見られない場所で、二人はその分厚い手を握り合い、指を絡ませ合っていた。そして誰にも気付かれないように、彼らは周囲の男たちの肉体をじっくりと【値踏み】していた。
「……マーケティング部の西村。あの胸板、エロすぎっすよ」
「ああ、肩も背中もデカくて悪くない。高橋の方はどう思う?」
「そっすね……。ガタイだけじゃなくて、アソコもデカそうで、個人的には脱いだとこ見てみたいっす。あとは総務部の三浦部長も……」
一見、筋肉オタクの先輩後輩の雑談のように見えるそれは、完全な【選定作業】だった。まるで市場の家畜を品定めするように──。
*
雄介と真司はそのまま自然に席を立ち、談笑しながらトイレへと向かった。誰もいないことを確認して、個室へと滑り込む。扉を閉め、カチリとロックをかけた瞬間、空気が変わった。
真司がにやつきながら、声を潜める。
「先輩……。もしかして昨日、奥さん抱きました?」
「……あぁ。【夫婦の時間】ってやつを初めて体験したよ♥」
狭い個室トイレの中。雄介と真司は、鼻を突き合わせて立っていた。そんな場で、ひそひそと交わされる会話。
「いやぁ、なかなかに濃厚だったぜ。最初はちょっと戸惑ったけどな。女の体、抱くのは初めてだったし……」
「イけたんすか?」
「ノンケの肉体ってのはすげぇもんだよ。自然に動くんだよな、体が。おっぱいに触る手も、腰の使い方も、もう全部刷り込まれてるみたいに。脳みそからはドーパミンがドバドバ出て、チンポがおっ勃つしよ……。おかげで、問題なく【旦那】を演じられたぜ♥」
雄介はにやけた表情を浮かべ、真司の耳元で囁いた。股間を軽く撫でながら、愉快そうに肩を揺らす。昨晩の情事に思いを馳せているのか、雄介はただでさえ大きな竿をさらに硬くさせている。
「昨日は【嫁】を抱いたばかりの身体で、今日はお前に抱かれるなんてな♥」
真司のワイシャツを脱がせた雄介が、上目遣いで露わになった突起に舌を這わせる。湿った舌の刺激に、真司はくすぐったそうにしながら雄介の頭をそっと抱き寄せた。吐息を漏らした雄介の唇が、ついっと上がる。
「そんな風に言われると、ゾクッとくるっすね。オレも昨日の夜、ノンケ向けのAV見ながら、女の裸でシコっちまいましたし。すっかり魂が馴染んだこのノンケボディで、先輩を抱くとこ想像しちまうと……」
二人はくすぐったそうに笑い合った。雄介が下着を下ろして、真司に背中を向ける。尻の穴にチンポを入れてくれと、ねだるかのように。真司は雄介に圧し掛かるようにして、その太い指を雄介のアナルに押し込んだ。低い声で呻いた雄介の亀頭から先走りが飛び出し、壁に当たって垂れ落ちていく。真司がぐりぐりと指を動かすと、雄介がそれを押し返すように締め付けてきた。
「真司の……、早くっ、くれ……っ♥ あ゛ぁぁ~ん゛ッ♥♥」
催促する先輩に、真司の太い眉尻がさらに下がる。勃起したチンポが、今すぐ穴に押し込めと要求している。肉厚な尻を撫でられながら指が穴から引き抜かれると、今度は真っ赤に膨らんだ真司の亀頭が、雄介の入り口をまさぐる番だ。真司はゆっくりと雄介のアナルに自らの肉棒を挿入し、押し広げていった。
「若パパアナル、キツっ……♥」
「い゛、痛ぇっ……くっ……、当たり前だろ。お前に子持ちノンケのケツマンコ味わってもらおうと思って、まったくケツの穴弄ってねえんだからよ……お゛ぉっ♥ んぎっ! ケツ穴、裂けちまうぅっ!!」
肉棒をねじ込まれながら、雄介は押し殺した声で叫ぶ。真司は気持ち良さそうに笑いながら腰を動かし続け、徐々にピストン運動のスピードを上げていく。新しい肉体での性交。そのせいからか、真司の鈴口から溢れ出る先走りの量は半端なく、おかげで徐々に滑りが良くなってきていた。雄介の直腸は真司の太い肉棒に絡みつき、その太さを味わうように締め付けている。
「お゛ぉっ♥ お゛っ! あぎぃ……ッ!!」
「あはっ……先輩、すげぇイイ声っすよ」
「んぐぅぅ~~ッ♥♥ そ、そこヤベェッ! あ゛ぁ〜っ……後輩のチンポがッ♥ めっちゃ俺ン中っ、突いてるうぅぅ♥♥ 気持ちいいのに、気持ち悪ぃ! ノンケの【牧田雄介】の肉体が、男のチンポに拒否反応示しちまってるっ♥ あ゛あ゛ッ! ノンケで嫁も子供もいるのに……俺、後輩の雄チンポで感じちまうぅ♥♥」
「お、オレもっす♥ 男同士のセックスなんて気持ち悪くて、先輩のケツから、今すぐチンポ抜きたいのに! ……でも身体ってやつは、結構正直っすね。この今の肉体に反抗して無理やり雄マンコにチンポを突っ込むのが、めちゃくちゃ興奮するっす♥♥ この身体はオレのモンだって屈服させる感じ、たまんねぇ♥」
真司が雄介の肛門を犯すスピードが速まり、二人の呼吸が荒くなる。つい先日まで排泄でしか使われていなかった尻穴が痙攣し、チンポを悦んでしゃぶるようにひくつくのを感じながら、雄介は頭を仰け反らせて叫び散らした。
「うぉぉっ……すっげぇ! 真司ッ♥ あ゛ぁ……俺、もうイきそうっ♥♥」
「オレもっす! 出します先輩、一緒にイきましょうッ♥ オレの精子、全部受け止めてくださいっ!!」
腰を揺らしながら、雄介のうなじに鼻を埋める。頭の奥にまでガツンと突き刺さるような、野性的な体臭を肺いっぱいに吸い込むと、真司の全身がゾクゾクするような感覚に襲われた。一緒にイきたい。偶然にも先輩と後輩として、この男たちの肉体を乗っ取った者同士として、最高の快感を分け合いたい。真司は腰を振りながら雄介のチンポを握り、前後に動かした。
「真司っ!! あ゛あっ♥ イクッ♥♥」
雄介が巨体を震わせて痙攣したのと同時に、中の締め付けが強まる。真司は欲望のままに、チンポを一番奥まで差し込んだ状態で射精した。脈動とともに、彼の亀頭の先からは次から次へと精液が溢れ出し、異性愛者である先輩の腸の内部を汚していく。その感触に、【須山真司】の肉体の中に存在する魂が、震えるような感覚があった。
「くはぁ♥ 男同士のセックス、やっぱ最高っすね♥♥ あ゛~……射精止まんねぇ♥♥」
恍惚とした表情を浮かべる後輩を横目にしつつ、雄介のアナルからゆっくりとチンポが引き抜かれた。湯気を立てて白く濁ったザーメンが溢れ出し、ポタポタと床に垂れていく。後輩に中出しされ、ところてんで精液を吐き出した淫水焼けした真っ黒な男根。それを目にしていると、妻を裏切って男とセックスしたのだという背徳的事実が、雄介の全身をゾクゾクと駆け巡っていく。もはやこの肉体は自分の支配下にあるのだと実感しながら、彼はビクビクと痙攣を続ける巨大なチンポを撫でまわした。
「……今夜、またあの銭湯行こうぜ。見繕ったやつらに声かけてよ」
「うっす……」
この職場、この日常すらも、すでに『侵食』され始めようとしている。そう、まるで銭湯の湯気のようにジワジワと、誰にも気付かれぬままに──。
***
夜。銭湯の脱衣所。蛍光灯の明かりが、艶やかに濡れた男性たちの肌の輪郭を照らしている。鏡の前では、雄介と真司が初めて訪れた時のように全裸の男たちが数人並び、それぞれにポーズを決めながら自分の身体を撮影している。逞しい胸板を張り、腕を曲げ、背中を反らし、腰を突き出す。
そして雄介と真司もまた、その一人としてそこに立っていた。全裸のまま、筋骨隆々の身体を鏡に映し、堂々とポージングを取りながら互いを撮り合っている。
「いいな、この角度。肩がデカく見える」
「ちょっと横向いてみてください。そうそう、そのケツのライン……完璧っす」
そこには、彼らの同僚である男たちの姿もあった。営業部の西村、高橋、そして総務の三浦部長。三人とも、全裸のまま己の肉体を恍惚と見つめ、スマホで写真を撮っていた。
西村は太い腕をゆっくりと撫でながら、ぽつりと呟く。
「この腕……たまんねぇな。前の身体を捨てた甲斐があるってもんだ」
雄介の同期である高橋もまた、自分の上腕二頭筋を誇らしそうに撫でまわしている。そうやって筋肉質な身体を触るたびに、少しずつ自分の魂が、今の肉体に溶け出しているのを感じながら。
「あのゴミみたいな人生ともお別れだ♥ 警察に追われてた俺が、今日からはこのガチムチボディで好き勝手に生きていけるぜ。ありがとな、牧田♥♥」
そう言いながら、大胸筋をピクピクと動かして見せる。体育畑で鍛え抜いてきた体に見合ったチンポは、ギンギンに勃起してブルンブルンと揺れている。
「私をたばかって、気味の悪い輩にこの肉体を奪わせるとは! 貴様らの上司にきつく言っておくから、覚えておけよ……って前の私なら言っていただろうな♥ この脂の乗ったむっちりとした体、湯から上がっても腋から立ち上ってくる体臭……ぬふっ♥ 毛深いこの足もたまらんっ。実に最高だ♥♥」
そう大喜びしているのは、総務部部長の三浦だった。元柔道部で今いる雄介と真司の同僚の中で、一番巨漢の男だ。性欲が強く、子供も五人いる46歳の彼は、ガニ股で腰を突きだして、その太った身体に相応しいデカいチンポを振り回している。
「部長のデカチンも、なかなかにエロくていいっすね♥」
真司がそう褒めると、三浦は嬉しそうに笑った。そして彼は自分の肉体を見せつけるようにしながら、雄介と真司に向かって言った。
「人生で最高の瞬間だよ! もうこの身体は私のものだ♥♥ ……牧田君、須山君。君たちには感謝しているよ。こんな素晴らしい身体を与えてくれてなあ! それじゃあ同じ会社の社員同士、裸の付き合いをしようじゃないか♥」
五人が五人、精悍な顔を緩め、ある者は無骨な両手で肛門を広げ、またある者は包茎チンポからなみなみと我慢汁を垂れ流しつつ、目当ての男の元に向かってにじり寄っていく。
「君の体臭……たまらんっ♥♥」
三浦は雄介の肉体に飛びつくと、分厚い唇で彼の唇を吸った。そしてその口に舌を差し込み、ねっとりとしたディープキスを始める。同時に両手では雄介の胸を揉みしだき、乳首をクリクリとこねくり回した。雄介は鼻息を荒くしてその快感を受け入れつつ、尻をくねらせて部長のデカチンポにケツ穴を押し付ける。
酒池肉林とは、まさにこのこと。常識はずれの筋肉男たちが絡み合い、脱衣所のあちこちで繰り広げられる、互いの肉体を貪り合う光景。
──ゴトン!
自販機が冷たい音を立てる。落ちてきたのは、ラベルのない、緑色の液体が入った瓶。そしてまた、次の犠牲者がそれを手に取るのだった。
(了)
以下、差分イラストです
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