帰郷 (Pixiv Fanbox)
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「はぁ~、よっこらせっと……!」
藍田史郎(あいだ しろう)は、どっしりとした体をソファに沈め、汗の染み込んだ作業着のまま缶ビールのプルタブを引いた。炭酸の弾ける音とともに、今日一日の疲れが喉を通り抜けていく。窓の外はすでに薄暗く、昼間あれほどうるさかった蝉の声も遠ざかっていた。
四十になって、体も心も鈍くなった気がする。現場仕事の疲れが一晩経っても残るようになり、それに加えて家に帰っても誰もいない静けさが、時折妙にこたえた。
妻を亡くしてから十年。男手ひとつで育てた息子の幸雄(ゆきお)を二年前──、幸雄が高校を卒業したすぐあとに家から追い出した。
『父さん、僕、男が好きなんだ……』
泣きそうな顔で打ち明けた幸雄に、史郎は怒鳴り返していた。
『ふざけんな、気持ち悪い!!』
怒りと混乱と、何より理解できないという拒絶が先に立った。あの日のことは何度も思い出す。後悔はしていない。異性愛者である史郎にとって、男が男を愛するなんて自然の摂理に反している。手塩をかけて育ててきた息子が、突然得体のしれない宇宙人にでもなったかのような感覚に、史郎の目の前は真っ暗になった。
『やっぱりね』
幸雄は寂しそうに笑って、家から出ていった。愛する妻と息子のために、史郎が一から設計し、仲間たちと力を合わせて建てたマイホームから──。
それ以来、史郎は独り身のままこの家に暮らしている。幸雄が大きくなって結婚してもここで一緒に暮らせるようにと、少し大きめの一軒家を建てたのに、結局一緒に暮らす者は誰もいなくなっていた。
出そうになったため息を、アルコールで流し込む。自分は悪くない。それでは幸雄が悪いのか? それも違うだろう。幸雄の人生は幸雄のものだし、愛する人を選ぶ権利も、幸雄のものなのだから。
息子が同性愛者だとしてそれが何なんだ? ただ好きになった相手が同性だったというだけじゃないか。たったそれだけで家族の縁を切り、家を追い出すなんて、親のエゴだ!!
他人事ならそう口にしていただろう。史郎もそこまで頭の固い人間ではない。テレビでゲイだのレズだのという特集を見ても、そういうやつらもいるんだな、で終わりだった。だが、いざ自分の息子が同性愛者だとなると、話は別だった。
幸雄が家を出ていったときのことが、頭から離れない。幸雄のことを嫌いになったわけじゃない。ただ理解ができなくて、怖かっただけなんだ。
『父さん……』
玄関先で靴を履きながら、幸雄がぽつりと言った。史郎は背中でその声を聴いた。
『……今まで育ててくれてありがとう』
***
「うおっ!!」
大音量のスマホの着信音で、史郎は目を覚ました。結局あれから眠れずに酒をあおりまくったせいか、辺りにはビール缶がいくつも転がっている。飲みすぎても吐き気はしないタチだが、ズキズキと頭が痛む。
幸い今日は土曜日で休日だが、取引先の会社から電話がかかってくることもある。痛む頭を押さえながらスマホの画面を見た史郎は、思わず掌を口元にやった。
ディスプレイに表示されていたのは、幸雄の名前だった。
「……っ」
一瞬迷いながらも、史郎は通話アイコンをタップした。震えそうになる指でスマホを支えながら話す。少し声がかすれた気がした。
「もしもし……」
『……父さん、久しぶり。朝早くにごめん……』
電話口の向こうの声は紛れもなく息子の幸雄のものだったが、最後に話したときよりずいぶん低くなっているような気がした。懐かしくて涙が出そうだった。元気か? 今までどうしてた? 今すぐうちに帰ってこい、そう告げたい。なのに、口を開けば意に反して真逆のことを言ってしまいそうで、史郎はただ黙っていた。
『突然だけど……僕、結婚することにしたんだ。……相手は、女の人。ちゃんとした仕事してて、優しい人なんだ』
言葉が頭にすっと入ってこない。それでも、史郎は胸の奥がじんわり温まるのを感じた。
「……そうか……そうか……! よく思い直してくれたな、幸雄!」
鼻の奥がつんとした。声が震えるのを誤魔化すように、笑って見せる。
「全部、水に流すから……。俺はお前のこと、本当はいつだって……ずっと気になってたんだ」
息子が同性愛者ではなかったのだという事実に、史郎は心の底から安堵した。
『ありがとう……父さん。じゃあ、今晩、彼女と一緒にそっちに帰るよ』
通話が切れたあとも、史郎はしばらくスマホを見つめていた。
(やり直せるんだ……親子として)
部屋の隅に飾られた妻の遺影に、そっと手を合わせた。
(聞いてくれよ、お前。幸雄が戻ってくるんだ。立派になって……、【普通】の男になって)
*
息子との久方ぶりの会話を終えたあと、史郎は頭痛がするのも忘れ、部屋の掃除に、食料の買い出しにと動き回っていた。幸雄が帰ってくる。その思いだけで、長年失われていた活力のようなものが湧いてくる気がして、史郎はいつになくてきぱきと家事をこなした。昔取った杵柄。シングルファーザーとして数年過ごした経験があるおかげで、料理には多少の自信がある。幸雄の好きなメニューをいくつも思い描いて、テーブルに並べていった。
玄関のチャイムが鳴ったのは、夜の七時を少し過ぎた頃だった。ドアを開けると、そこには懐かしい顔があった。
浅黒く日に焼けた肌。髪も以前より短くなり、男らしくなっている。何より目を引いたのは、Tシャツの下に浮き出る広い肩と厚い胸板だった。
「……幸雄か」
見た瞬間、自分の息子だと分かったが、その言葉しか紡ぎだせなかった。
「うん。……ただいま、父さん」
そう言って笑う幸雄は、まるで別人のように逞しかった。史郎は思わず、息子を力いっぱい抱きしめた。男同士の抱擁なのに、なぜか胸の奥が熱くなる。
「よく帰ってきたな……馬鹿息子……」
低く震える声でそう呟くと、幸雄も同じくらい強く史郎の背を叩き返した。
「父さんこそ、元気そうでよかった」
家に招き入れ、テーブルについた二人。味噌汁を啜りながら、ぎこちなくも穏やかな時間が流れる。
「彼女は?」と史郎が訊くと、幸雄は少し笑って答えた。
「仕事が入っちゃってさ。明日には来れると思う」
「そうか……。まぁ、ゆっくりしていけ。久しぶりのお前の家だ」
緊張の糸が少し解けた史郎。その対面に座った幸雄の視線が、部屋の中を見回す。
「母さんの仏壇、変わってないね」
「ああ。毎朝、線香あげてる。お前の分もな」
幸雄が仏壇の前に座り、手を合わせる。きっと妻に結婚の報告でもしているのだろう。そう考えると、再び実感が湧いてくる。息子が同性愛者ではなく、【普通】の男として戻ってきたことを。史郎は盃を持ち上げる。
「幸雄、お前ももう酒は飲めるんだろ? ほら、こっち来て一杯飲め。今夜は祝い酒だ」
このとき史郎はまだ知らなかった。息子の帰郷が、ただの【再会】ではなかったことを。そしてこの夜、すべてが変わってしまうことも──。
*
酒が進んでいた。溜まりにたまった日頃の疲れも、初めての息子との酒の席の高揚感で打ち消される。史郎の体は、心地よい倦怠感に包みこまれていた。幸雄とは他愛もないことしか話さなかったが、不思議と会話が途切れることは無かった。気まずさのような空気もなく、【あの日】以前に戻ったようだった。
史郎はちゃぶ台の上に置かれたビールを煽ると、向かいから注いでくれる息子の幸雄に笑いかけた。
「なあ、幸雄。やっぱり、こうやって二人で飲むのはいいもんだな。……帰ってきてくれて、ありがとな」
「うん……僕も、こうして父さんと飲めて嬉しいよ」
幸雄は柔らかく微笑んだ。どこか昔の面影を残しながらも、大人びた顔つきが妙に落ち着いて見えた。史郎は酔いに火照った頬を掌でこすりながら、しみじみと目の前の息子を見つめる。
何杯目か分からないビールを空けたところで、幸雄が口を開いた。
「父さん……」
突然の呼びかけに史郎が顔を上げると、すぐ隣に幸雄がいた。その距離は近く、肩が触れ合いそうなほどだった。
「お前……いつの間にこんなに近くに……」
史郎が言い終わるより前に、幸雄が覆い被さるように体重を掛けてきた。油断しきった史郎の体はあっという間に組み敷かれてしまった。
「父さん、ごめん。実は僕……、結婚なんかしないんだ」
「……は?」
「だって僕は、ゲイだから」
史郎の手が止まった。耳がおかしくなったのかと思った。今の言葉が何を意味するのか、一瞬では理解できなかった。
「……ゲイ? ゲイってなんだ? ま……さか、同性愛者ってことか? だってお前、結婚するって……」
「嘘だよ。父さんにもう一度会うための嘘」
「…………」
史郎は眉間に皺を寄せた。言葉の意味は分かる。だが、それが現実として、自分の中に落ちてこない。
「父さんをからかってるんだろ?」
史郎は苦笑した。
「あの日の俺の態度を恨んでて、俺を困らせようとして嘘をついてるんだよな? 今の時代、同性愛を認められない男なんて、格好悪いもんな。反省してる。父親失格だった。だから、なあ……本当のことを言ってくれ幸雄!」
「違うんだ、父さん。僕、本当にゲイなんだ。父さんみたいなガチムチで、無骨で、誰にも媚びない強い男……僕、ずっとそういう男が好きだった」
「……やめろ」
「僕たちみたいな人間のことなんて理解しようともしない、男社会の権化みたいな……そんな父さんみたいな男が、たまらなく愛おしくてさ……♥」
幸雄の言葉が次々と重なり合うたびに、史郎の中で何かが崩れていく音が聞こえた。
(そんなはずはない。俺の息子がゲイなわけがない……。悪かった、幸雄。俺を許してくれ)
「幸雄……」
「父さん……僕の本当の姿を受け入れてくれる? それとも……また追い出すの?」
ぞくり、と背筋をなぞるような声色だった。史郎が戸惑って目をそらそうとしたその瞬間──、二つの唇が重なった。
史郎の身体がビクンと震える。酒のせいで思考が鈍っていたのもある。だが、それ以上に信じられなかった。
「な、何やってんだ、おまえ……っ」
「ねえ、父さん。僕ね、もう決めてたんだ。僕は、父さんになるって」
幸雄の笑みはどこか狂気をはらんでいた。さっきまでの柔和な笑みとはまるで違う。次の瞬間、幸雄の身体に異変が起こった。首の筋肉が隆起し、腕が、胸板が、まるで空気を吸い込むように膨らんでいく。
骨格が変化し、肌の質感までもが史郎そっくりになっていく。幸雄の顔が、史郎のそれへと変わりつつあった。
「お、おい! なにが、どうなって……!」
動揺する史郎の前で、息子が自分とまったく同じ外見へと変貌していく──。
*
幸雄の顔は、徐々に史郎そのものに変わっていった。黒々とした髪は、まるで短く刈り込まれたかのように頭皮に吸い込まれ、固く粗い毛質へと変わっていった。眉は手入れなどされていない、ぶっとくて野暮ったい形になり、瞼は腫れぼったく垂れ下がり、もともとの二重はいつの間にか一重へと変貌していた。鼻筋は太く、ごつごつとした質感に。唇も妙に厚ぼったく、表情に男臭さがにじみ始める。シャープだった輪郭も、内側から押されるようにして四角く、ごつくなっていった。
「はぁ〜……、気持ち良かった♥」
その声が史郎の鼓膜を打った瞬間、思考が一瞬止まった。それはまさに、自分の声だった。酒精の混じった息とともに吐き出されるその甘ったるい声が、どうしようもなく気持ち悪い……なのに、何かが引っかかった。
「はは……こりゃ、夢だよな……? 酒の飲みすぎで、俺は寝ちまったんだ……」
そう自分に言い聞かせるように呟き、史郎は頭を抱えた。
「夢じゃないよ、父さん」
【藍田史郎】が、ニヤリと笑う。
「特別な薬で、父さんの肉体をコピーさせてもらったんだ。見た目だけじゃない。肌から垂れ落ちる汗、酒焼けした声、毛の生え方、DNAまで全部一緒。医者が診たって見分けはつかないよ」
幸雄は満足げに自らの胸元を撫で、そこから下腹部へと指を這わせる。体がデカくなったせいで肌に食い込んだボクサーパンツが、明らかに窮屈そうに膨らんでいた。その布地の山の天辺を、黒いシミが濡らしている。
「おまっ、お前、なに……っ」
「俺だけじゃないよ、父さんも♥」
幸雄の言葉に、史郎は咄嗟に自分の股間に視線を落とした。
……勃っていた。
頭が真っ白になった。信じられない。こんな異常な状況で、なぜ。
「この薬でそっくりになった二人はね、感覚を共有できるんだ。キスをすれば伝わる。肉体の変化も、そして──思考もね」
幸雄の顔が、愉悦にゆがむ。それは、史郎自身も浮かべたことのない、どこまでもいやらしい表情だった。
「幸雄っ、お前どうかしてるぞ……!」
言葉とは裏腹に、史郎の内側で何かがうごめいていた。
──気持ち悪い、はずなのに。
──吐き気がする、はずなのに。
──なぜか、【自分】そっくりの男から、視線が離せない。
史郎は、自分の身体にそれなりの誇りを持っていた。鍛え抜いた筋肉、日焼けした肌、歳月を刻んだ男の色気。それでも、自分自身に欲情するなんてことは、これまで一度もなかった。
なのに今、目の前に立つもうひとりの【自分】を──幸雄を、どうしようもなく淫らなものとして見てしまっていた。
*
史郎の胸は、高鳴っていた。
それは中学の頃、柔道部の先輩女子マネージャーに恋をしたときよりも、妻と初めて夜を共にしたときよりも、ずっと強く、熱を持っていた。そして史郎に瓜二つとなった幸雄もまた、史郎と同じように息を荒げていた。
シャツを脱ぐ。パンツを脱ぐ。
まるで鏡合わせのように、幸雄も史郎とまったく同じ動作で服を脱ぎ捨てていく。筋肉質な腕、割れた腹筋、そして……股間にぶら下がるイチモツまで、すべてが同じ形と大きさ。反り具合や浮き出た血管、そこから滴る透明な液体までも。
「……本当に、そっくりだな」
呆然と呟いた史郎の頭の中に、またしても幸雄の感情が、堰を切った川のように流れ込んでくる。自分のことをどれほど慕っていたのか。憧れ、愛し、切望していたのか。
「父さん……っ」
裸になった幸雄が、史郎の身体を抱きしめる。その肌は熱く湿り、汗に濡れていた。そして、股間から立ちのぼる濃厚な雄のフェロモンが、史郎の鼻腔を貫いた。
「ああ……父さんの匂いだ♥」
幸雄はうっとりと目を細めながら、史郎の胸に顔を埋めた。そのまま舌を伸ばし、べろりと乳首を舐めあげる。史郎が「おふっ!」と情けない声を上げる。だが幸雄は構わずに、もう片方の乳首にも吸いついた。
──俺は、俺が好きだったんだっけか?
そんな錯覚が、思わず史郎の脳裏をよぎる。妻が亡くなってから十年。誰とも付き合ってこなかった。性欲がないわけではない。むしろ人一倍強い方だと思う。けれど、妻以外の女性に恋愛感情を抱くことはなかった。金玉の中がパンパンになるたび、投げやりにチンポを扱き、ティッシュの中に吐精してきた。
「ずっと舐めてみたかったんだ……父さんの汗……」
幸雄が夢中で、胸に舌を這わせている。鼻の下を伸ばした、だらしない顔つき。妻とセックスをしていたときの自分も、こんな情けない顔をしていたのだろうか? いつしか幸雄に対する怒りも、戸惑いも、どこかへ消えていた。
(俺は、この日が来るのを待っていたんだろうか……)
今この瞬間、史郎の中にはひとつの衝動しかなかった。
【自分自身】を、愛したい。史郎は幸雄の顎を持ち上げると、互いの視線を絡めた。
ごつごつとした四角い輪郭。濃い眉毛と、一重で腫れぼったい目元。筋骨隆々の肉体に滲む汗の匂い。それらすべてが同じであることが、かえって強い興奮を呼び起こす。
お互いに手を伸ばし、掌が重なった。そして、唇が重なる。乾いて、少しかさついた男の唇。だがその温もりは確かに、心を満たすものだった。
濃密な沈黙の中で、ふたりの【史郎】は、二度目の口づけを交わした。
それは、父と子ではない。男と男ですらない。自分のための愛だった。
*
史郎と幸雄は貪るように唇を重ね合わせた。獣のように唾液にまみれた舌を絡め、筋肉で膨れ上がった分厚い胸をくっつける。その下では、汁まみれになった男根がぶるんぶるんと揺れながら、剣道のつばぜり合いのように亀頭を押しつけ合っていた。ヌルヌルと擦れるチンポ。そのたびに硬さが増し、血管が浮き上がる。
「父さん……っ」
「もう、限界だ……」
幸雄が唇を離して陶然と呟くと、史郎の方から激しく吸い付いた。まるで飢えた犬だ。体の奥底から燃え上がる衝動は、もう止められない。もっと欲しい、この肉厚な唇も、唾液まみれの舌も、汗に濡れた肌も、全部自分のものにしたい!
「んふ♥」と幸雄は鼻から甘い息を漏らした。その反応に気を良くした史郎はさらに深く舌を差し入れる。全身が激しく密着し、二人の肉体が一体化したかのようだ。キスをすればするほど、互いの感情が交じり合い、溶け合っていく。もう父だ息子だという理性など働かなかった。
「「イグッ♥♥♥」」
二人は同時に絶頂を迎えた。腹の辺りにぬるついた感覚が広がる。同じ濃さ、同じ量、同じ熱を持ったザーメン。そして同じ感覚でビクビクと震えながら、出し切ったあとの精液を亀頭の先から絞り出すチンポ。その脈動も、大きさも、硬さも、まったく同じだった。
「父さんの精子、温かいよ……♥」
低く、くぐもった声が、耳の奥に染み渡る。自分とまったく同じ声。けれど、他人の口から発されたそれに、史郎の奥底が震えた。太い腕が背に回され、背中を撫でられるたびに、肌の上を火が走る。胸板が重なり合い、互いの心音が混じり合ってゆく。まるで、心臓すら同調しているようだった。
腰と腰がぶつかる。ヘビー級な肉体同士が激しく擦れ合い、湿り気を帯びた熱が布団の上にじっとりと広がっていく。言葉はない。ただ互いの温もりと、吐息と、視線がすべてを伝えていた。自分とそっくりの人間に愛される──
その倒錯が、堪らなかった。
重なった身体がゆっくりと軋む。節くれだった手が肩を撫で、胸元を這い、腹をなぞっていく。その動きに合わせて、史郎の意識はゆっくりと深い沼に沈んでいった。
***
「よう、お帰り幸雄。夕飯できてるぞ」
史郎は、玄関の扉を開けて入ってきた巨躯の男に、労いの声をかけた。泥に汚れた作業着、汗に濡れて光る褐色の肌。手に傷だらけのヘルメットを提げたその男性の顔は、どこからどう見ても【藍田史郎】そのものである。
実際、それは史郎の肉体を完全にコピーした幸雄だった。今日一日を、現場の職人として過ごしてきた、もう一人の【史郎】だ。
「……あ~、疲れたぜ、父さん」
幸雄はぶっきらぼうに言いながらも、どこか誇らしげに笑った。作業服の下で汗ばんだ筋肉が、電灯の光で美しく浮かび上がる。
「でもよぉ、父さんの同僚たちに『史郎さん、史郎さん』って呼ばれるたびにさ……変な話、ちょっとゾクゾクしちまってさ」
幸雄は照れ臭そうに鼻をかきながら、だが隠しきれない喜びを滲ませていた。
「俺、【藍田史郎】になったんだ……って、改めて実感するんだよ」
史郎は静かに微笑んだ。
「そうか……よかったな」
二人の間には、すでに親子以上の繋がりがあった。本来ならあり得ないはずの共鳴。だが、今の彼らにとって、それは当然のことのように思えた。
幸雄が近づく。
汗と土の匂いをまとったまま、幸雄は史郎に顔を寄せ、そっと唇を重ねた。
その瞬間、史郎の脳裏を、今日一日幸雄が経験したすべての記憶が、洪水のように流れ込んできた。鳶職たちとの会話、灼熱の太陽、鉄骨の匂い。そして【史郎】と呼ばれるたびに胸を震わせていた、幸雄の昂ぶり。
何度経験しても慣れない感覚だった。さっきまで萎えていたチンポが、ぐぐっと鎌首をもたげる。パンツはあっという間に我慢汁でびっしょりになった。互いの唇が離れ、見つめ合う。
「どうだ? 感じたか、【俺】の体験をよ」
「……ああ、最高だったよ」
「へへ、よかった。じゃあ──、今夜も楽しもうぜ♥」
悪戯っぽく幸雄が口角を上げ、史郎も笑い返す。かつて父と子であった二人はもはや、完全に別の関係になっていた。
「今日は俺がハメられる番か? でもよぉ……、俺ぁケツにチンポなんて突っ込まれたことねえから、無理だと思うぞ」
「大丈夫だって、父さん。言っただろ。キスをすれば、俺たちは互いの肉体の感覚を共有できるようになるんだって……、んぉぉぉ♥♥」
幸雄の右手に握られていたのは、茄子のような太さのディルド。そんな太いモノが、豆粒大の【藍田史郎】のケツマンコにずぷりと押し込まれていく。メリメリと音を立てて拡張しながら、腸壁をこすり上げ、前立腺を押しつぶす。
「んぐっ、ハアァ……♥ な? いけるだろ? 【俺】もホラ……♥」
ケツにぶっとい異物を突っ込んだまま、幸雄は史郎に唇を押し付けてきた。
「んんん゛……っ!!」
猛烈な快感に視界が明滅する。唾液が喉の奥に流し込まれ、全身が甘い疼きに包まれる。ケツの穴が不思議な力で押し広げられ、筋肉が緩んでいく。クソをするときにしか使ってこなかった肛門が、まるで女性器のように開発されていく。
同時に、幸雄の感情と感覚が頭に流れ込んでくる。痛みと快楽が混じり合った刺激が脳内で爆発し、チンポの先端からはどろりとした粘液が溢れた。
「お゛ぉぉ……っ♥ 無理……っ! ケツ裂けちまうぅぅっ!!」
「おいおい【俺】~、しっかりしろって! ……ホラ、もうチンポもこの通り突っ込めるくらい穴も広がっちまって……んお゛っ♥ 良い具合に吸い付いてくるぜぇ……」
「ちょっ、待っ……うごぁ゛あ゛っ!」
幸雄は容赦なく、史郎の緩んだケツ穴に己の硬くなったモノをぶち込んだ。メリメリと音を立てて、異物が史郎の体内を侵食していく。痛い──苦しい──気持ち悪い。なのに、幸雄との感覚共有によって感じているのは快楽のみだ。アナルが収縮し、【藍田史郎】の男根を締め付ける。
「ああ……、俺のチンポが、【俺】のケツに入ってるぅぅぅっ♥♥」
「お゛おお゛お゛っ!! 俺の奥にっ、奥に入ってきてるぅっ!! 【俺】のチンポがっ! 熱いぃぃぃぃっ!!」
幸雄は腰を前後に動かし始めた。結合部分から水音が響き始め、史郎は悲鳴を上げる。しかし彼のペニスは萎えるどころかますます硬くなり、先端からは我慢汁が溢れ出していた。【藍田史郎】の肉棒が抽挿を繰り返すたび、史郎の腸内は悦んでそれを迎え入れる。内壁が蠢き、幸雄の竿を舐めるようにしゃぶりつく。
「ああ……すごいぜ、【俺】の中……熱くてうねっててよ……♥」
幸雄の口調が、淫らに変わっていく。腰の動きはより深くなり、執拗に史郎が感じるところを攻め始めた。カリ高の亀頭が腸壁越しに前立腺をこすり上げ、竿が肉襞を刺激していく。そのたびに史郎も腰を浮かせて嬌声を上げた。
「あ♥ あ゛っ♥ ああぁ♥」
もはや、どちらが発した声かも分からない。男同士のセックスなんて知らなかった史郎は、【自分】によって初めて犯される悦びを教えられた。幸雄の体から放たれる汗とフェロモンの混ざった匂い。熱い息遣い。太い首筋、逞しい腕……。すべてが史郎の五感を刺激し続けた。
「出るっ……出すぞ【俺】ぇッ!!!」
最後の一突きと共に【藍田史郎】の巨根が弾け、大量の精子が史郎の奥深くへと注ぎ込まれた。
「おおおぉ゛お゛っ♥♥」
どくんっどくんっと脈打ちながら送り込まれる【自分】の遺伝子。それが腸を満たしていく感覚に、史郎もまた達してしまった。ずっと独りぼっちで、空虚になっていた心の内が、ドロリとした濃い粘液で満たされていく。
愛する息子は同性愛者で、父親が好きなとんでもない変態野郎だった。だが、もうそんなことどうでもいい。ただ、この快楽に身を任せていればいいのだ……そう思えた。だって自分もまた、この男と、【俺】とひとつに混じり合いたいのだから──!
「もっと……、もっと激しくしてくれよぉ【俺】っ♥♥」
史郎は繋がったまま、再び激しく腰を動かし始めた。尻からはぐちょぐちょといやらしい音が響き渡り、結合部から溢れ出た液体がシーツを濡らす。最初は苦しくて裂けそうだった肛門も次第に柔らかく解れていき、今ではすっかり幸雄、いや【藍田史郎】専用のチンポケースと化していた。
「ああっ♥ 【俺】、気持ち良いぜっ! お前のケツ穴、お前のチンポ、お前のデカい体……全部最高だ! 俺はもう、【俺】なしじゃ生きていけねえ……! もっと、もっと、一緒になろうぜ♥♥」
幸雄の濡れた舌が伸びてきて、史郎の舌と絡み合う。唾液を交換すればするほど、互いの体温が混ざり合い溶けて、ひとつにまとまっていく感覚に陥る。
重ね合わせた分厚い胸板。破裂しそうなくらいに大きな心臓の音が、肌を通して直接伝わり、史郎の全身が震える。そして、次の瞬間には肛門がぎゅっと締まったまま痙攣し、男根の先からビュルッと濃い精子が溢れ出した。同時に、幸雄のペニスからも大量の白濁液が流れ出し、史郎の腹の中を白く染める。
息子の姿かたちは変わってしまった。同時に、親子の愛の形も歪んでしまったのかもしれない。しかし、それでもよかった。また愛する者と、この家族のために建てた家で過ごしていけるのだから──。
「愛してるぞ、【俺】。これからもずっと、お前は俺と一緒だ。いつも、いつまでも……」
(了)
以下、差分イラストです
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