融合した二人 (Pixiv Fanbox)
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アスファルトからまだ熱気が漂う、午前零時。九月に入った深夜と言えど、ときおり吹き抜ける風はぬるく、昼の蒸し暑さをいまだに引きずっている。徒歩で町内を巡回中の武藤隼人(むとう はやと)巡査長は、手に持ったハンカチで額を拭いながら独り言ちた。
「あ~~っ!! ったく……、夜中だっつ~のに、マジであっちぃなぁ~……」
制服の襟元を緩めながら、住宅街を早足で歩く。腋は汗染みで黒ずみ、ムワリと雄の匂いが立ちのぼる。隼人は自身の体臭にもかかわらず、閉口してしまった。
深夜のパトロール。じゃんけんで負けたせいで、唯一交番にある自転車は後輩に譲る羽目になってしまった。中学と高校では野球部主将を務め、警察学校では柔道と剣道でさんざん体をいじめてきたおかげで、忍耐力には自信がある。そんな彼でさえうんざりするほど、昨今の真夏の熱気は異常だった。
「……な~んか、今夜はイヤな感じがするな」
直感だった。こういう勘は、意外と外れなかったりする。交番勤務も、早七年目。巡査長にもなり、隼人なりに地域の空気の変化には敏感になったつもりだ。
気を引き締めていくか──。隼人が、ふぅっと大きく一呼吸ついた時だった。曲がり角の向こうから、怒鳴り声と何かを殴るような鈍い音が聞こえてきたのは。
「おいッ、何やってる?!」
警棒を握り締めると、わざと大きな声で威嚇するように怒鳴って、角を曲がる。視界に飛び込んできたのは、酒に酔った風の中年の男と、おびえるように頭を抱えて蹲る若者だった。若者は警察官である隼人が現れたことでできた隙を縫うと、立ち上がって一目散に逃げ出した。残された中年男が、血走った目で隼人の方を見る。白髪混じりの乱れた髪に、髭面。脂肪で膨れた腹、柄付きの鯉口シャツの隙間からちらつくタトゥー。明らかに『ただの酔っぱらい』ではない。反社の輩だろうか?
「警察だ! おい、アンタ。なにやったか、分かってるのか? 暴行だぞ暴行ッ! 現行犯だ。交番まで来てもらうからな──」
交番で待機している同僚に連絡しようと隼人が無線機を手に取ると、男は薄ら笑いを浮かべた。いかにも舐めるような視線で、しかも涎まみれの舌を垂らして、隼人の体を上から下まで値踏みするかのごとくジロジロと見てくる。
「ひひっ……いいカラダしてんな、お巡りさん……♥」
酔っているはずなのに、妙にハッキリした口調だった。警戒しつつ、一歩引く。だが、男はニタニタ笑いながらポケットから小さなガラス瓶を取り出した。中には、どぎついピンク色の液体が入っている。
「おいっ! なんだ、それは――」
言いかけた瞬間、男は「乾杯だァ……」と呟くと、瓶の中身を一気に飲み干した。
「ぶはぁ~~~♥♥♥」
目をカッと見開いた男は、次の瞬間、隼人に飛びかかってきた。思いもよらぬ男の行動に、隼人の体は氷のように固まってしまっていた。
「ちょっ、まっ!? んむむう゛ッ……!!」
強引に抱きすくめられ、唇を押し付けられる。熱く、ぬめついたキス。ニコチンとアルコールの臭いが入り混じった唾液の味は、吐き気をもよおすくらい臭かった。
「~~~っ?!」
逃れようとしたその瞬間、隼人の全身に痺れが走った。力が抜けていく。それに全身が妙に火照り始めてきた。
レロレロと舌が絡む。口内の粘膜が焼けるように熱い。中年親父の歯並びは汚く、口臭は死ぬほど生臭い。それなのに、脳みその芯がぐちゃぐちゃになるような快楽が、隼人に襲い掛かってくる。それは中学生の頃、初恋の女子生徒とキスをした時を遥かに超えていた。
(や……めろ……ッ!)
抵抗したいのに、腰が抜けたみたいになってしまい、踏ん張れない。おまけにどうやら隼人は、勃起しているらしかった。男とのキスなんて気持ち悪くて仕方ないのに、最高に気持ちいいと、異性愛者であるはずの隼人の肉体が歓喜の悲鳴を上げている。
「グヘヘ……、ひとつになろうぜ、お巡りさん♥」
視界がぐにゃりと歪む。自身の下半身が、男のモノと重なって一体化していくのが、隼人の目に映った。
熱い。気持ち悪い──。なのに、隼人の腹の奥底では、眠っていた怪物が起こされたかのような快楽がうねっている。
(いやだ……。だめだ……混ざる……! 俺と、こんな変態親父の体が……)
かすかな悲鳴を上げることすら叶わなかった。なぜなら、隼人と男の上半身はすでにくっついてしまい、唇と唇すらも融合してしまっていたからだ。筋肉と脂肪が混ざり、骨格が変わる感覚。混じり合っていくのは、身体だけじゃない。隼人の頭の中には、得体の知れない、自分のモノではない感情までもが流れ込んできた。
(やめろぉっ! はいっ……、入ってくるなぁぁぁ……ッ!!!)
言葉にならない。指の一本すら動かせない。意識が暗く沈んでいく中で、隼人は誰かの低い笑い声が、脳の奥で響いているのを感じた。そして最後に彼が目にしたのは、自分の顔が変態男と溶け合っていく、ありえない光景だった。
***
夢を見ていた。暑苦しくて、ねばつくような悪夢だった。ぬめった舌、鼻を塞ぎたくなるような生臭い、野郎の口臭。脂ぎった皮膚に触れた時のヌルリとした感触、死神みたいな薄気味悪い笑い声。
(……違う。夢じゃない!)
隼人はハッと目を開いた。地面に倒れていた彼は、仰向けのまま夜空を見上げていた。目の前には街灯が一つ、滲んで揺れている。
「あれ……、俺、何してたんだっけ?」
声が少し掠れていた。自分の声なのに、どこか違和感がある。悪酔いしたときのように頭が痛む。上半身を起こすと、妙に体が重かった。一日中眠っていたかのような、鈍く、もたつく感覚。ゆっくりと立ち上がると、服がきつく感じた。
「な……んだ、これ……?」
警官服が、悲鳴を上げそうなくらいパツパツになっている。慌ててボタンを外すと、胸が脂肪で大きく垂れていた。腹回りにも重みを感じて視線を移すと、そこにあったのは、無駄な脂肪で覆われてでっぷりと突き出した毛深い太鼓腹。
震える手でスマホを取り出し、時間を確認すると、隼人が意識を失ってから五分と経っていなかった。慌てて、近くの公園の公衆トイレに駆け込む。転びそうになりながら、中の鏡の前に立った瞬間──。
「……嘘、だろ……?」
鏡の中にいたのは、【武藤隼人】ではなかった。いや、かすかにではあるが、隼人の面影は残っていた。
だが、黒々としていた髪には白髪が混じり、顎には苔のような無精ヒゲが生えている。男らしいと言われたことのある鋭い目も垂れ気味になり、鼻の穴は大きくなって、おまけに中からは鼻毛が飛び出している。それに弛みきった上半身に刻まれたタトゥー。
(……あいつ……、さっきのヤクザ風の男? 俺とあいつの身体が、混ざって……?)
鏡の中の自分の表情が、かすかに歪んで笑ったように見えた気がして、隼人は慌てて目を背けた。
(合体したのか……? さっきの変態男と?!)
わけが分からない。ふたりの人間が、ひとつになる? 隼人は、夢じゃないかと力の限り頬をつねってみたが、痛くて涙目になるだけ。
浅く息を吐き、深く空気を吸い込む。混乱しながらも、隼人はまずは交番に戻ろうと決めた。一人で考えていると頭がおかしくなりそうで、とにかく誰かに相談したかったからだ。今の身体のまま同僚に会えば、きっと【武藤隼人】だと認識されずに、不審者扱いされるに決まっている。そう思っていたのに──。
「あっ、武藤先輩。巡回お疲れさまっす!」
「ごくろうさん、武藤くん」
交番へと帰り着くと、同僚たちはいつも通り迎え入れてくれた。 誰もこの異様な状況に、気づいていないようだった。
(……みんなの目に映っているのは、【いつもの俺】……?)
周りから見れば、自分は今も【武藤隼人】の姿のまま、ということなのか? しかし、この身体の違和感、肌に刻まれたタトゥー、全身にまとわりつく使い古した油みたいな加齢臭……。これは、明らかに【別人】のものだ。
そしてなにより、屈強な体つきをした同僚たちを目にした瞬間、 『男とセックスをしたい』という理解不能な欲望が、心の底から湧き上がってきたことに隼人は戸惑った。異性愛者である彼には当然、男同士でまぐわう趣味などない。これまでそんな感情を抱いたことなど、一度も無かった。
「ちがっ、なんだよこれ……違う……! こんなの、おかしい……。俺は、男なんか好きじゃないっ!!」
隼人は交番のロッカー室に駆け込むと、制服の上着を脱ぎ捨てた。これは夢だ、夢なんだ。寝て、起きればきっと、元の身体に戻っているはずだ!!
幸か不幸か、ちょうど休憩時間に入ったから眠ることができる。隼人は畳に敷かれた布団に潜り込むと、まぶたを閉じた。すぐには眠れないだろう。そう思っていたが、頭の中はまるで酔ったときのように気持ち良く、彼の意識はすぐに微睡の中に落ちていった。
*
目を覚ました時、隼人は脂汗まみれだった。交番の仮眠室。夢を見ていた。だが、その内容はあまりにも生々しすぎた。
(嘘だろ……夢の中で……俺……!)
思い出したくない。けれど脳裏にはっきりと焼き付いている。見慣れた同僚たちの制服姿、汗をかいた首筋、酸っぱいようなその香り。夢の中で彼らに覆いかぶさり、舐め回すように肌を味わっていた。ガタイのいい男同士でむっちりとした肉体を密着させ、体臭を嗅ぎ合った。
思い出すだけで全身が熱くなり、痛いほど勃ってしまう。しかも、ボクサーパンツの内側には夢精によって吐き出されたザーメンが、べっとりとこびり付いていた。
「っ、ちくしょう……!!」
跳ね起きた隼人は、汗ばんだシャツとパリパリになった精液まみれのパンツを乱暴に脱ぎ捨てた。額をぬぐい、深呼吸を繰り返す。心臓がドクドクと音を鳴らしている。喉が渇く──いや、渇いているのは喉だけじゃない。腹の奥底から、渇きに飢えた何かが暴れ出てきそうだった。
(落ち着け。冷静になれ。俺は……俺は、警察官の武藤隼人だ! あんな反社じみた、脂ぎったおっさんみたいな変態野郎とは違う……)
そう言い聞かせながらも、ふと視界に映った自分の腕。毛深く、人を何度も殴り倒してきたかのような拳ダコのできた手が、またしても現実を突きつけてくる。
「違う……、違うんだ……。俺は真っ当な人間なんだ!!」
隼人は洗面所へと駆け込み、顔を洗おうと蛇口をひねった。その時だった。鏡の中の【武藤隼人】が、ニヤリと笑った。いや、そんなはずはない。こんな状況で笑えるわけなんてない。だが確かに、笑っているように見えた。
(……またか。見間違い? それとも、幻覚……?)
腹の奥がざわつく。隼人の身体に宿る【何か】が、彼の意思とは別の感情を持っている気がしてならない。汗がにじむ。水を口に含んでも、喉が渇く。それに股間が熱い。なぜか、自分の肉体を見ただけでも興奮してしまう。
(ちがう……こんな……俺は……)
全力で否定する。だが、脳内で回り始めた映写機は止まらなかった。再び隼人の表情が緩み、マッチョな仲間たちの尻をどう犯したいかを妄想し始める。
(やめろぉぉぉッ……、俺はこんなこと考えない……っ!)
焦燥と嫌悪。そして、それ以上に湧き上がる激しい劣情。隼人の脳内は少しずつ、着実に彼のモノではない思考によって蝕まれていった。
*
仕事を終え、ようやく自宅へと帰還した隼人は、ため息をひとつ吐いた。家の鍵を閉め、靴を脱ぎ捨てるようにして室内へと上がり込む。
(本当に疲れた……)
今日一日の感情が、ギュッと凝縮された一言だった。ただでさえ慣れない肉体での一日。重心の違いや視界の高さ、立っているだけでも違和感は凄かった。それでも、どうにか周囲に怪しまれることなく業務を終えられた。隼人は風呂もそこそこに済ませてさっさと眠りにつこうと、服を脱ぎ始めた。
シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ──ふと、姿見の前で手が止まる。鏡に映った己の身体。
(これが、今の【俺】……?)
筋肉質で、厚みのある胸板。だが、以前の武藤隼人のような引き締まった肉体ではない。腹部には分厚い脂肪が乗り、肩回りは逞しいのに、どこか緩みを感じさせるフォルム。少しだらしない体に、隼人の目が奪われる。
さらに目をやると、肩から胸、腕、そして背中にかけて、いくつものタトゥーが彫られていた。威圧的で、いかにも暴力的な印象を与える刺青の数々。
(警察官の身体に、こんな……)
背徳感が隼人の脳内で渦巻く。常識的に考えれば、警察官である彼の肌に、これほどまでのタトゥーが刻まれているなどありえないことだ。だが、そんな隼人の胸の奥で湧きあがったのは、ぞくりとするような背徳感だった。
(俺の身体に、タトゥーが……)
ゾワゾワと、少しずつ背筋を駆け上がる快感。社会の秩序を守るはずの存在である自分が、反社会的な記号を纏っている。その倒錯的な状況に、隼人はどうしようもなく興奮していた。口角が自然と吊り上がってしまう。
隼人は熱い吐息を漏らすと、ゆっくりと腹を撫でまわした。指が脂肪の上をすべり、内側の熱を感じる。胸筋、脇腹、太もも──どこを触っても、見慣れた【武藤隼人】の体ではない。しかしすでに、隼人の一部として馴染み始めていた。
(悪くないな……♥)
自然と息が荒くなっていく。下腹部に熱が集まり、意識がそちらに引き寄せられていく。隼人は硬くなった股間へと手を伸ばした。パンツを押し上げるペニスを掌で包み込み、ゆっくりと揉んでやると、強い刺激が背筋を駆け上がってきた。どう考えても、オナニーで得られる快感ではない。不安でいっぱいになるが、弄る手は止められない。
(なんだよこれ……こんなの変態じゃないか! でも、手が止まらねぇ……っ!!)
ボクサーパンツを脱ぎ捨てると、隼人は直接硬くなった男根をしごき始めた。すでに先走り汁で濡れ始めていた亀頭を掌で包み込み、ぐちゅぐちゅと音を立てる。その刺激はあまりにも強く、腰が砕けそうになるほど甘い疼きだった。
「あッ……くぁッ……!」
鏡に映る自分を見つめながら、自らを慰める。漏れる声が止められない。昼間の同僚たちの顔とスケベな肉体を思い出すと、さらに興奮してしまう。同時に、このだらしなくも逞しい身体とそこに刻まれた刺青を、まるで【他人の肉体】を犯すかのごとく堪能する。
(こんな身体に、なって……。こんな身体を……俺が……)
瞼の裏で火花が散る。絶頂が近い。その予兆を感じ取った瞬間、自然と腰がヘコへコと動いた。いつの間にか腰の奥から突き上げるような快感が込み上げてきており、それがどんどん上へと昇ってくる。
(イク……っ!!)
「うおおおおぉぉ゛ッ♥♥♥」
びゅるるるるっと勢いよく飛び出した精液が、鏡にぶち当たって辺りに撒き散らされる。荒い息を吐きながら、隼人はその場に膝をついた。
「……はぁ……ふぅ……」
額から汗が流れる。鏡の中の【隼人】が、陶然とした笑みを浮かべていた。
(これが……【俺】……♥)
興奮と悦びの余韻に包まれながら、隼人は畳の上に倒れ込んだ。そして、そのまま深い眠りに落ちていった。
***
深夜。寝室の灯りは消え、カーテンの隙間から差し込む街灯の光が、静かに畳で眠る男のシルエットを浮かび上がらせていた。
布団をはだけ、仰向けで心地よさそうに寝息を立てる警察官。大の字に広げられた手足。乱れた髪に、汗ばんだ額。だが、彼はかすかに開いた口元から垂れた涎を拭うと、まぶたを開いてぼそりと呟いた。
「そろそろだな……」
意識を覚醒させるように軽く頭を横に振ると、彼はふと何かを思い出したのか、クローゼットの中を漁り始めた。そして取り出したブツを月明りにかざして、ニンマリと笑みを浮かべる。隼人が握り締めていたのは、男性器の形をした真っ黒なディルド。それは元カノとのセックスをするとき用に買っておいたもので、結局使用することなく箪笥の肥やしになってしまっていたモノだった。どうせなら、これをハメたままのほうが気持ちよくイけそうだ──。
そう考えた隼人は、極太のディルドにローションをたっぷりと塗りたくると、大股を開いて尻にあてがい、ゆっくりと挿入していった。
「く、ううぅ……っ♥」
ミチミチと肉壁が押し広げられる。隼人のアナルは柔らかく、ディルドを難なく受け入れていく。それもこれも、散々雄セックスで慣らしたホモヤクザと融合してしまったことが原因だった。痛みはまったく無いどころか、快楽だけが彼の脳を支配する。前立腺を刺激しながらディルドを根本までめり込ませると、締まりのない顔がさらに歪んで、甘い吐息が漏れた。そのまま隼人はゆっくりと腰を振り始める。ずぷっ、ずちゅっ。淫靡な水音が響く。
「あぁ……♥ いいっ、気持ちいいぃぃ……っ♥ もう来るッ……。始まる……、始まるぞっ……♥」
隼人の言葉通り、異変が始まった。一度変質してしまった彼の肉体。その内の、まずは皮膚の色が変わる。白く柔らかみを帯びていた肌の色が、じわじわと侵食されていく。太陽の下で何年も働き続けてきたであろう、野性味のある赤銅色へ。合わせて、体格にも変化が訪れた。
融合によって縮んでいた背丈が、軋むような音とともにわずかずつ伸び始める。骨格が拡張し、筋肉の輪郭が鮮明になる。胸からは無駄な贅肉が取り除かれて引き締まり、腹にはくびれができ、がっしりとした胴体が形成されていく。両腕と両脚もまた、かつての形を思い出したかのごとく血管を浮き上がらせながら太く逞しく成長し、緩みきっていた尻の筋肉にも力が入って、奥まで突っ込まれていたディルドが勢いよく押し出された。
ジャングルみたいに密生していた体毛の大部分が皮膚の中に吸い込まれ、タトゥーも消えてチンポ以外の体の変化が終われば、お次は顔の番だ。すっかり丸みを帯びていた隼人の輪郭は、男らしい角張った形へと変化していく。 鼻筋は通り、目元は鋭さを増し、正義感の強そうな人相へ。 まぶたの形、唇の厚み、髪の質感──すべてが、時間が逆流しているかのように元の状態へと戻っていく。どこか陰気さのあった表情は瞬く間に消え、代わりに、堂々とした自信と冷静さを感じさせる精悍な男前の顔立ちが現れた。それはまさに『変容』ではなく、『回帰』。
【武藤隼人】と【鷲尾鉄男(わしお てつお)】の融合体は、眠りから覚めた瞬間から、二人の肉体が混ざった見た目ではなく、合体する前の【武藤隼人】そのものの見た目へと戻っていったのだった。
そして──肉体の変化が終わりを告げたとき、二人の肉体が融合したことで皮被りになっていたイチモツもまた、まるで最初からそうであったかのように、立派なズル剥け巨根へと変貌を遂げた。
「隼人のチンポでイクッ!!!」
最後にブルっと震えながら大量射精を行うと、隼人は恍惚とした表情で舌を垂らした。その股間は精を吐き出したばかりだというのにギンギンに勃起し、先端からはふたたび透明な先走り汁が溢れている。
「んんん゛っ♥♥ これが……新しい【俺】の体か……♥」
少し掠れた野太い声。低く心地よい響きを持ったその声は、重厚で色気に満ちていた。隼人はゆっくりと体を起こすと、鏡の前に立った。全身を映し出す姿見に映るのは、鍛え上げられた肉体を持つ精悍な男の顔。均整の取れたボディーラインには無駄がなく、しっかりとした筋肉がついていることが分かる。その胸筋や腹筋が呼吸に合わせて上下する様すら美しいと感じさせるほど、完成された肉体美だ。
「……すげぇ……、まさにパーフェクトボディーだ……。しかも、彫り物もねぇ……」
腕を曲げ、ボディービルダー風のポージングを取ってみる。小山のような力こぶが出来上がり、腋からは雄の香りが漂い始めた。熟練の警察官として鍛え抜かれた、若々しくしなやかな筋肉の動きが、隼人を悦ばせようと全身を刺激する。
「ああ……こりゃたまらん♥」
思わず息が漏れ、隼人の男らしい顔がだらしなく緩む。同時に、彼の頭の中に別の波が押し寄せてきた。【武藤隼人】の人生、記憶、感情、習慣、好きなもの、嫌いなもの、同僚の顔、任務で得た知識や経験。それらが、濁流のごとく【彼】の意識に流れ込んでくる。
「う、あ、んああ゛あっっっ♥♥♥」
あまりの情報量と快感に、隼人は思わず床に四つん這いになり、肩を震わせた。絶頂にも似た強烈な感覚。自分が自分でなくなっていくことを受け入れる倒錯。肌は一瞬で汗ばみ、巨大な肉棒がブルンブルンと激しく暴れまわる。我慢しきれずに、隼人はそれを掴んだ。
「おほぉッ♥」
その感触は、自分の存在が別物になってしまったことを実感させるのに十分だった。太く長く、血管の浮き出た逞しい男の象徴。バキバキに勃起したそれを握り込み上下にしごくだけで、腰が砕けそうになるほど気持ちがいい。先走りが溢れ出し、ぬちぬちという粘り気を含んだ水音が部屋に響く。
「んッ♥ くッ! ふぅっ!」
歯を食いしばり、必死に声を抑える。しかしそれでも漏れ出る声と吐息は甘く、そして淫らだった。やがて限界が訪れる。隼人は鏡に向かって足を開き、腰を突き出しながら射精した。勢いよく飛び出した白濁液が鏡に飛び散り、いやらしく垂れ落ちていく。
(ああ、隼人の身体が俺のものに……♥ 今日からは、俺が【武藤隼人】♥♥ やべぇ……俺、警官なのに、マジで変態になっちまってるぅ♥♥♥)
もはや隼人の思考は鷲尾という存在によって乗っ取られ、【鷲尾鉄男】が警察官である【武藤隼人】のすべてを手に入れていた。融合する前の記憶は残ってはいるが、それはもはや彼にとって、倒錯的快楽をもたらすスパイスでしかない。ヤクザに肉体を奪われてしまった哀れな警察官のことを考えながら、新しい自身の肉体を弄び、その存在に成り代わって生きていくという背徳的な行為に興奮を覚える。
「あっ♥ あ゛ッ♥♥」
(やべぇ……警官チンポ、気持ちいいっ♥♥)
鏡に向かって腰を突き出しながら、鷲尾は一心不乱に己の男根をしごいた。あまりの快感と多幸感によって何も考えることができないまま、またぞろ絶頂へと駆け上っていく。黄みがかった濃厚なザーメンが勢いよく飛び散り、畳の上にドロリとした粘液の水たまりを作った。
「お、俺ェ……、 俺は、武藤隼人巡査長。ヤクザに身体を乗っ取られてちょっと変態になっちまったけど、今日も一日、町の平和のために働くぞぉ♥」
鏡の中の自分に向かって、ニカッと笑う。元ヤクザとは思えない爽やかな笑み。別人になったのだという実感が湧き、鷲尾のペニスは再び力を取り戻す。
(やっべ……、こりゃあハマっちまうぜぇ♥ お〜っと、シコシコしてる場合じゃねえ。品行方正な警察官として生きていくんなら、遅刻しないよう職場に向かわないとなぁ♥)
精液まみれになった鏡や床をタオルで雑に拭い、洗濯済みのボクサーパンツに手を伸ばす。白いワイシャツに腕を通し、胸元で軽くボタンを留めると、背筋が自然と伸びた。ネクタイを締め、濃紺のスラックスを穿き、ベルトを締める。
鏡の中に立つその男は、どこからどう見ても【武藤隼人】そのもの。そして隼人は、ゆっくりと玄関のドアを開けた。
「よしっ、行くか♥」
新しい一日が始まる。だが、これからの人生を体験する彼の中身は、ほんの数時間前とは完全に別の【誰か】だった。
(了)
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