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 美咲は、普通に動くということすらも難しくなっている状態で手を動かし、手に取ったケーブルを目の前の美咲に繋げようとする。  接続しようとした手がブレ、いつも出来ている簡単な動作が欠片もできていない。  まるで大昔のロボットのテスト動画のような、人間基準で非常に稚拙な挙動を何度か繰り返し、ようやく接続できた。 「外部機器と、と、のとの接続、接続接続かかか、か完了完りょ………………」       システムメッセージをなんとか口にした直後、停止した美咲の身体が、まるで墓から蘇ったゾンビのようにカタカタと震えながら動き始めた。  据わっていない首ががくん、と動き、動く度に破損し離れたパーツが転がる。  碧が操り、自身の電子頭脳を破壊して莫大な快楽信号を得て、フィニッシュを迎えようと手を動かす。  しかし、糸で吊って操っている時のような正確性の欠けた動作で、操り人形状態の美咲の手が全く当たらない。  それどころか、碧の動作が意図せぬ痙攣と小さな挙動以外で動かなくなり、音声すらも無くなってしまった。  電子頭脳に過負荷がかかり、通常の動作処理すら出来なくなっている碧の電子頭脳。快楽信号を得ることを優先して行動が決定されていることで、その行動にかかるリソースと現状の残ったリソースについて、彼女は演算できていなかった。  動作処理が美咲の身体を動かすことに割かれ、碧は自分の身体を操作することすらまともにできず、ただただ恍惚な表情で痙攣することしかできなかった。  フラフラした手で、電子頭脳に当たる美咲の右手。熱された鉄板のような熱を帯びているそれに当たり、焼けるような音が鳴りながら、徐々に圧迫されていく。 「…………#&$……………あ03………………あ、きも、ちい&@■あエラーラーラララ…………20#メモrrrr…………&容量ガようりょウがががが@*$…………0美咲ささ4…………」       碧の中枢部が軋み始め、次々に彼女を構成するデータが破損していく。  ただでさえ過負荷によって足りなくなっていた余裕が一気に削られ、全身が痙攣を起こす。  彼女が壊れると、今繋がっている美咲の身体にも反映される。既に停止しているはずの女体が、碧よりもマシではあるが、ガタガタと痙攣する上、正常な操作が出来なくなったことにより、意図せず出力が引き上げられ、電子頭脳に親指と中指が食い込んだ。 「#%&@‘(■あ■■@^@え$01$■!!?」  物理的な破損の音と、致命的な電子音の悲鳴が同時に鳴る。碧の左目が四方八方にカタカタと暴れ、右目から行き場のない人工涙液が溢れ出す。  背中が大きく仰け反り、ガクガクと痙攣を起こし、全身が脱力したように両腕が垂れ下がった。  大量のエラーが快楽信号に変換され、人間では得られない多幸感が碧を満たすが、たった今発生した破損によって、大部分のデータが壊れ、碧としての存在を構成する要素も壊れたファイルとなってしまった。  今の彼女は、ただ快楽信号を処理するだけの機械人形でしかない。  制御していた電子頭脳が壊れたことで、辛うじて操られていた美咲の身体が倒れ込み重なる。  碧だったものの後頭部から火花が散り、焼け焦げるような音が鳴り、美咲の右手から溶けた人工皮膚が、指によって開いた穴に入り込む。  それが、さらに碧の電子頭脳を狂わせるが、既に彼女には、快楽信号に対してリアクションする程の能力も残されていなかった。 「が■@0…………え10%&$0………………ぅぅ@#%4…………………………1?"oゥゥ■…………………………ぅ………………………………」  芯が無いような全身の揺れがしばらく続き、碧の断末魔が絞り出すようにスピーカーから流れ出す。  彼女の挙動は徐々に小さくなり、時折全身が跳ねるような痙攣が生じながら、ついに碧だった機械人形も、美咲と同様に完全に機能停止した。  快楽信号を求めて絡み合った二体の元人間だった機械人形は、最後まで性的快楽に電子頭脳を埋め尽くしながら、人間らしさのある室内で物言わぬガラクタと化したのだった。        * * *       二体の快楽信号の求め合いから十数時間後。人間としての仕事から帰ってきたキリエは、ミレイの案内によって二体が停止した部屋に移動し、即座に修復を実行した。  先に美咲が修復され、元通りに稼働を再開した後で、碧の修復も完了。破損した電子頭脳も、美咲の方に挿入していた女性器ユニットも全て元通りになった状態で、彼女は改めて起動した。 「水樹碧の起動を開始します。前回の終了時、正常なプロセスが実行されませんでした。システムチェックを………………」  全データ問題なくバックアップから復帰し、起動シークエンスも正常に実行されている。  閉じていた目蓋が開き、淡々とシステムメッセージを口にする碧の姿を、キリエはじっと見つめていた。 「システムチェックが完了しました。バッテリー残量71%。各部センサー、及びボディに異常無し。システムは正常に稼働中。人格データを確認。人格エミュレートを開始します………………あら? 美咲がいない……ああなるほど、機能停止してたのね」 「はい。貴女は酷く破損した状態で停止していました。美咲は既に修理を終え、通常稼働に戻っています」  復帰した碧は、残っていた破損を伴う性行為時の記憶データを読み込み、恍惚な気分を引き出した。  葵と行うそれに比べるとやはり物足りないが、派手に壊れられるのは彼女にとっては代え難い幸福なのである。 「あぁ…………快楽信号の処理が……とっても気持ちよかったわ…………キリエもありがとうね、修理してくれて」 「今後も私が修理するので構いませんが、修理部品のストックが少なくなった場合は控えてください。その場合は修理できません」 「わかってるわそれくらい。その時は、女性器ユニットや胸を使うから……そうだ、キリエに全身を犯してもらうのもいいんじゃない?」 「………………善処します」  すっかり元通りになり、欲求不満も満たせた碧は、これからのことを思考する。 「それなりにここに馴染めそうではあるけど、出来れば早く、葵のことを連れてきてね。私は葵と壊れ合いテストをする為に造られたコピーなんだから。その目的は達成させてほしいわ」 「わかりました。ここへ私が回収し連れてきた以上、対応はさせていただきます」 「…………思ったより融通利くのね。あそこに造られた液体金属にしては」 「擬似人格はインストールされていませんが、それ相応の対話は可能です」  その言葉を最後に、キリエは部屋から去っていった。 「次に葵に会えるのはいつになるのかしらね」  早く葵に会いたい。葵にあって、再び壊れ合いたい。  そう思考する一方で、このある種伏魔殿のような家の中でもそれなりに溶け込めそうな気がする。  前者の思考の方が非常に多くを占めているが、そのわずかな部分が、碧のちょっとした余裕になっていた。  少なくとも、ただの製品である一体を除けば、個体として全員は信頼できる。  もっとこの家の人々と気持ちよくなりたい。色んなやり方で壊れて性感を得たい。美咲も、システムではそう思考しているのもなんとなく理解した。  そんな奇妙な場所でこれからどうなるのか。演算しても予測できないところだと思考しながら、彼女もまた部屋を出て皆のいるリビングへ向かうのであった。

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