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 ロボットのような人型機械の存在も当たり前になった、電子機器隆盛の時代。  人々が携帯端末や専用の電子機器を用いてアプリの使用やキャッシュレスでの支払いを行う一方で、ロボット達は予め機体内に組み込まれた認証機器を使用しての支払い、電子頭脳内で直接アプリを使用しての行動が可能だったりと、人間よりも便利に暮らしていた。  そんな状況を不満に思い、自分もロボットになりたいという人間が少しずつ増加。その結果、様々な機械化サービスが名乗りを上げ、今では気軽に安価で人間からロボットになれるという新時代が訪れていた。  破損しても予備の身体は安価で作成可能。人々はさらなる利便性を手に入れた。  その一方で、いくらでも死ぬことができるということから、破滅的なアングラ趣味が密かな広まりを見せていた。  壊れる程に快楽信号を得られるプログラムや、自身の自壊回数を自慢、人間であれば重症を負うようなアブノーマルな行為を平然と行う配信動画など、人間の踏み込んだ欲望はとどまることを知らない。  とある一軒家にて、シャツと下着だけの状態で机に真剣な眼差しで向かっている、黒髪ポニーテールのやや美人よりの可愛らしい顔立ちを持った、少々だらしない身体をしている伊沢知香。  彼女は様々な男性向け18禁系のイラストを描いており、その中にはやや一般向けとは違う、時にはR―18G指定を受けるような過激な描写を入れることもあった。  しかし知香は、あくまでそのような趣向も持っているというだけであり、それがメインというわけではない。 「おお知香ー! 今回もいいの描いてるじゃーん!」  イラスト作業の途中で明るく元気に入ってきたのは、金髪ボブの髪型で、キラキラとどんなファッションも着飾る、所謂ギャルというタイプに近いような、スタイルの良い巨乳美人の橘麻里。  彼女は知香の家で泊まり込みという名の同棲をしており、その扇情的な身体をポーズ込みでイラストのモデルにしたりと、それなりの協力をしながら、度々身体でのスキンシップを行っては楽しそうに絡んでいた。   「ねえこのネタすっごくエロくない? あたしにもやってよ」 「いやいや無理でしょ」  笑顔で自分にもやってほしいと指差したイラストの内容は、謎の生物に寄生された女性が、口や女性器から小さな触手を出しながら気持ちよさそうにしているというものだった。  麻里は知香以上にアブノーマル系のエロネタが大好きな女性であり、洗脳や人格改変から危ない系のネタでも喜んで受け入れる。  それどころか、自分もそんな目にあって気持ちよくなってみたいという願望も秘かにあり、度々その欲望を満たす為にエログロ系イベントでこっそりとコスプレを行ったり、時々知香にまんま自分をモデルにした特殊性癖イラストを頼んだりと、どうにも満たされぬ欲をどうにかこうにかとやりくりしていた。 「えーやってよー」 「むしろどうやるの……私が触手生やせるわけじゃないし」 「うーん……タンとか買って挿れるとか?」 「それだけのが買えるなら普通に食べてるって」 「ちぇー。あ、そーだ、ケーキ買ってきたんだけど食べる?」 「あー食べる食べる! もう頭スッカスカだよ……」  机の真後ろにあるテーブルにケーキ屋の箱を置き、三種類の色鮮やかなケーキを披露する。 「チョコ……チョコがほしい……」 「じゃああたしはこれね」  知香はガトーショコラを直で、麻里はモンブランを選びフォークで食べる。それぞれの所作に、性格や性質がはっきりと表れる。 「んでさー、あのイラストって何時頃完成するの?」 「んー、明後日かなあ。ちょっと今やる気出てるから、結構進められそう」 「マジ!? じゃあできたら最初にあたしに見せてよ!」 「いっつも最初に見てるじゃん」 「確かにぃ?」  明るく仲睦まじく、笑顔で二人の空間を楽しむ。  その見た目や性質や特徴などは全然違いながらも、二人は確かに気の合う仲良しだった。時には肌と肌を触れ合う程に。 * * *  そんなある日、麻里は渋谷のスクランブル交差点を渡り、別の友人との待ち合わせをしているカフェへと向かっていた。  オシャレな衣服とバッチリとしたメイクに身を包み、自信に溢れた堂々とした佇まいでその道を歩く。  たまに来るナンパを払いながら、麻里は目的のカフェへと足を踏み入れた。  店内を見渡すと、入口を見ながら手を振る女性が離れた席に一人。 「あれ、あんな眼よかったっけ」  麻里の記憶では、今回待ち合わせた相手はそこまで視力が良くない。  それなのに遠くからでも確認できたということは、いい眼鏡やコンタクトレンズでも買ったか、それとも何か手術したのか。  ややそのことが気になりながら、麻里はその席へと向かっていった。 「おはよー。相変わらずカワイイじゃん麻里」 「あんたには負けるわ。ていうか、何かあった?」  友人に間近まで近づいた麻里は、その姿に褒めつつも驚きを隠せなかった。  頬やボディラインが以前よりも引き締まっており、産毛一つすら見えない程にすべすべとしている綺麗な肌。  メイクも薄く、最初からここまで美人だったっけと記憶の齟齬が起きそうなくらいなバランスの整った顔。その様子から見て、整形をしたわけでもないらしい。  黒のロングヘアも艶めいており、なびく度に心が揺れそうになる。  以前から友人は美人の部類ではあったが、何があったかとおもうほどに、その度合いが明らかに跳ね上がっていた。   「あっ、やっぱわかる?」 「いや、あんた眼が悪かったじゃん? それであたしがわかったっぽいから、何か良い感じのコンタクトでも買ったのかなーって最初は」 「あーなるほど。けど違うんだな」  軽い会話を交わしつつ、友人が予め待機してくれていた席に座る。  にやにやと可愛らしくにやけつつ、友人は麻里の驚く反応を楽しんでいた。 「実は私ね、機械化してもらったの」 「…………あーーーー! そういうこと! えーうっそ……」  合点がいったというスッキリした顔で指を差す麻里。  それを聞いていざ友人の手や頬を間近で見たり触れてみたりと好奇心旺盛に確かめる。  感触は人のそれと同等かそれ以上に柔らかく気持ちいい。肌触りも良く、人間のそれと殆ど見分けもつかない。  人肌のような温かさもあり、にわかには信じられない。  じっと顔に近づいて観察すると、瞳の奥はカメラのようになっていることに気づいた。  外側から見える機構が、せわしなく動いて入る。 「ちょっと近すぎるって」 「ああごめん。けど、本当に機械化したんだ」 「うん。この身体すっごいよ? なんで今までしてなかったんだろってくらい」 「へぇ……」 「最初は怖いなーとか思ってたんだけど、いざやってみると大丈夫だったし、頭の中とか覗いてみると本当に機械で埋まってて、本当に私変わったんだなって……でね、今まで通りに食べ物も食べられるし、感覚も殆ど変わんないの。もしいやだなーって思ったらニオイも感じないようにとかできるし」  身振り手振りを交えながら、機械の身体になったことへのメリットを説明する友人。  それを面白そうに聞いていると、ポケットの携帯端末から通知音が聞こえてきた。 「あっ、出ていいよ麻里」 「えー、でもまだ話の途中じゃん」 「いいからいいから」  友人に促され、麻里は端末を取り出して通知を確認する。内容はどうやら登録しているSNSのDMらしい。  誰からのだろうと確かめると、なんとその相手は目の前の友人からだった。  驚きから一瞬画面から目をそらし、友人の顔を見る。一つ一つの反応を楽しんでいるかの如く、にやにやと笑っている。  なんだかいいように転がされていると思いながらもその内容を開いた。 「驚いた? こういうこともできるんだよ?」  麻里はもう一度友人を見た。  ずっと手を動かしながら話していたのもあって、端末らしきものには一度も手を触れていないのは間違いない。それどころか今持っているのかも怪しくなってきた。  内心ほんの少しだけ、別の誰かが友人から渡された端末を使ってドッキリを仕掛けているのではと思ったが、その直後にもう一通のDMが送られてきた。  次に送られてきたのは、一つの音声ファイル。麻里は端末のスピーカー部分に耳を当て、それを聞いてみた。 「こうやって、喋ってなくても声を出したりできるんだよ? すごいでしょ?」  その声は間違いなく友人の声だった。先程から目の前で聞いていたのだから聞き間違えることもない。  麻里は何度も驚く顔を見せる。 「麻里のそういう顔見たかったんだよねー」 「えーもうなにそれー! してやられた感じじゃーん!」 「ごめんごめん。でもさ、実際便利なんだよね……そりゃ人間とは違うとこでメンテとかいるけどさ、生理とかもないし。どう麻里? 麻里も機械化してみない?」 「もしかして、それ言いに来たの?」 「違う違う、違うって! これは単に自慢したかっただけ」 「なにそれもー。けど、あんまり変わってから時間経ってないよね? なのにもうすっかり使いこなしてんじゃん」 「ちょっとオプションでね、記憶データにマニュアル入れてもらったの。これでだいたいのはすぐに使えるようになったから」 「ふーん……」 「もし身体が壊れても、家に何体も同じ身体の予備を送ってもらえるしね。置いとくこともできるし」  友人の話を聞いているうちに、麻里の中にも機械化への強い興味が湧き出てきた。  しかし麻里のその考えの先にあるのは、先程から説明されている利便性とは別のものだった。 「時間もちょうどいいし、ちょっとランチ食べてからにする?」 「そうね、そうしよっか。すみませーん!」 「はい、ご注文をどうぞ!」  二人のテーブル席に、メニュー確認の伝票や機器も持たない、白い服が胸を強調させる店員がやってきた。  その店員の姿もよく確かめると、どうやらこの娘もロボットらしい。 「あたし、チキンシーザーサンドで」 「私はホワイトモカで」 「かしこまりました、少々お待ち下さい」  注文した商品が届くまでの間、二人は機械化の話題ではない、いつもの楽しい会話を交わしていた。 * * *  その日の夜、風呂から上がった麻里は、タオル一枚の状態で知香の部屋へとやってきた。  イラストの参考や裸同士での付き合い、一緒に風呂へ入ったりすることもあるために、廊下や室内でその裸体を見せられても、二人は驚くこともない。 「作業進んでる?」 「それ禁句」  知香は机の上でぐったりと溶けたようにうなだれ、ペンの後ろで頭部をこんこんと叩いては唸っていた。  どうやら順調だと思っていた作業が突然行き詰まり、力が出なくなってしまったらしい。 「ねえ知香」 「ん~~~……なに?」 「あたしがロボットになりたいっていったらどうする?」  それを聞いた瞬間、遊ばせていたペンの動きが止まる。  ぐらっと前のめりになっていた身体を起こし、椅子ごと後ろに立っている麻里の方へと向いた。 「いいんじゃない? 止める理由もないし」 「おっと、ちょっと何か言うかなって思った」  知香からの返答は、まさかのあっさりとしたOKの返事だった。  もしかしたらそれ自体がただの冗談や話のネタの一つだと思ったのか、声の調子からはややゆるい空気を感じる。 「私もちょっと興味あるよ。すっごい便利らしいし。それこそ、殆ど人間と変わらないんでしょ? だったらやってもいいんじゃないかな?」  少々ふんわりとした中身ではあるが、知香は機械化という行為そのものは受け入れている様子である。  理解を示さず一方的に否定してきたらどうしようかと少しだけ考えたが、麻里はやっぱり信頼できる優しい人だなと、一緒にいてよかったと心の底から思った。 「……わかった。ありがと知香。今日はちょっと眠いから、あたし早めに寝るねー」  僅かな静寂の後、麻里は普段から見せている明るく軽い調子に戻し、手を振って寝室へと向かった。  振り返り顔が隠れた時、麻里の頬にはちょっとした笑みが浮かんでいた。 「……へんなの。あっ! 閃いた!」  突拍子もない質問に虚を突かれたようになった直後、ふと脳裏に絵のアイデアが新たに湧き上がってきた。  これを逃すわけにはいくまいと、知香はネタの内容をメモに取りながら衝動のままに机に向き合った。  自室へと戻ってきた麻里は、全裸のままに身体をベッドの上に覆いかぶさり、ぐるっと回って天井を見上げた。 「機械の身体かぁ……」  全身の力を抜き、張りのある大きな乳房を上に向けながら、ほぐれた頭でこれからの事を妄想する麻里。  友人からの話をまとめれば、機械の身体になれば今まで生身でできなかったようなことがたくさんできるようになる。  不慮の事故がトラブルが起きても、予備の機体にデータを移行させて動くことができる。ということは、いくら死ぬようなことをしても大丈夫なのではないか。 「さっきは気まぐれに言っちゃったけど、本当にいいかも」  絵の中で描かれるだけだった変態的な、アブノーマルなシチュエーションの数々。  現実にはできなかったそれらの行為が、もしかしたら実現できるかもしれない。自分の身体をいくら弄ったり外したりしても痛かったり死んだりしないなら、つまりはおもちゃにできるかもしれない。  麻里の脳裏には、数え切れないほどの妄想が溢れ、身体中が疼き始めていた。 「はぁ……はぁ……こういうの……したい…………あっ……ん……」  麻里は携帯端末を片手にイラストサイトのブックマークを巡回する。  様々な創作者が表現し形にした性癖の数々。こんなことをしたい、こんなことをされたいと、何度死んでも足りないような妄想を作品を元に思い描き、迸る興奮で疼く自分の女性器を指で弄った。  強い性感が起きる度に愛液が潮を吹き、乳首が固く立ち上がる。 「はぁ……ぁ……あんっ……あっ…………ああっ……」  ベッドの上で軋む音が鳴るほどに激しく動き、身体を右に左に動かしては快感に浸る。  柔らかな乳房は大きく揺れ、女性器を弄っていた手を胸へと移し激しく揉みしだく。  生身で最後になるかもしれない自慰行為。麻里は性欲のままに自分の身体を使い倒し、心ゆくまで生身の快感を味わった。 * * *  次の日の朝。キッチン前のテーブルでとてもぐったりと気だるそうにしている知香は、自分でコップに注いだ牛乳をすすりながら、何を食べようどうしようと半目で悩み続けていた。  前日の夜、気合い入れて描き進めようと思ったしばらく後に寝落ちしてしまったためか、自分に対してどこか不機嫌である。 「おはよー知香。ちょっとあたし行ってくるね」 「あれ、早いじゃん。どこ行くの?」 「それは秘密。まあ、夕方とか夜にはわかるかも?」  やや意味深な言葉と笑顔を残して、麻里は軽装とバッグと共に外出していった。  知香はその後ろ姿を少々落ち気味の瞼で見ながら、手をゆっくり振って見送る。どこに行くのか見当もつかないが、その表情からして楽しそうなことするんだろうなと察した。 「ふああ………………続きかこっと」   麻里の行方も気になるが、ひとまずは目と頭をスッキリさせたい。原初の誘惑に勝てなかった知香は、大きくあくびをしながら残った牛乳を飲み干し、口癖のように出来るかどうかもわからない執筆続行宣言を口にしながら自室へと戻っていった。  その一時間後、麻里は大型病院のような佇まいをした、とある巨大施設へとやってきた。  一階はガラス張りで透けて見えており、入口の先には美人という言葉が正しく適用できる受付嬢が待ち受けていた。 「ここか……あたしを変えてくれる場所」  麻里が訪れた場所。それは機械化処置のために建設された巨大施設の一つだった。  内部には無数の手術室が設けられており、客の要望に可能な限り受けるための設備も完備されている。  それ以外にも、機械化して間もない人間の感覚を慣れさせるための運動室や、試着感覚でパーツの付替えができる設備も用意されたパーツショップ。さらには好みの人工体液を選べる販売所など、見た目は大型ショッピングモールのような雰囲気ながらも、人によっては不気味にも感じられるような光景が広がっていた。  アフターケアもしっかりしており、機械化によって精神に異常をきたした者の人格改竄を行わないカウンセリングや古くなった機体のアップデート相談と、一から十まできっちりと揃えられていた。  麻里はそんな画面の中でしか知らなかった景色にわくわくしながら、早速足を踏み入れる。 「本日はどのようなご用件でしょうか?」  外から見えた美人の受付嬢が、聞き取りやすい澄んだ声で用件を訪ねてきた。  気持ちが昂ぶるあまり気づいていなかったが、よく見ると横並びに座っている他の受付嬢も、全員同じ顔同じ体型をしていた。 「あの、機械化手術を受けたいんですが」 「かしこまりました。では、こちらの端末に表示された項目に記入をお願いします。最後に表示される送信ボタンのタップが確認されたところで、お客様を案内させていただきます。送信後の待機時間は、最長で10分を予定しておりますので、もしそれをオーバーしてしまった場合は、手術直前にお申し付けください」  とても丁寧な説明に、麻里はただうんうんと頷きながら聞いている。  笑顔で受付嬢に渡されたタッチパネルを見ると、そこには病院でよく見かけるような項目から、機械化手術に際しての要望、欲しい予備機体の数など、このような場所でしか見ることができなさそうな項目まで存在し、その物珍しさに目を引かれた。 「えっと……長そう。とりあえず答えよっと」  麻里はひとまず待合室のふかふかな椅子に座る。何度か病院に行った時のような、待合室特有のニオイがなんだか懐かしくも感じられる。  早く機械化したいという気持ちもあり、麻里はハイペースでその記入項目を進めていった。 「肉体を残したい部位……まあ全部変わってもいいでしょ。セキュリティアプリ……今はいいいか。予備機体は自宅に送って、数は……10ぐらい送っちゃえ」  傍から見るとまるで適当に入力しているように見える速度で最後まで記入し、説明通りにスライドして現れた送信ボタンを早く手術受けたいという期待感を乗せてタップした。  送信が完了しました。呼び出し通知が表示されるまで少々お待ち下さいというメッセージが表示され、ふうっと一息つこうと両手を椅子に沈み込ませ、少しだけ後ろに体重を傾けて身体を支えた。 「ロボットになって最初にやりたいこと……なにかあるかな」  刻一刻と近づく、有機の身体を捨てる瞬間。  その時までに最初は何をしてみようかと妄想しようとしたその直後、手元のタブレットが振動すると共に典型的な呼び出し音を鳴らした。 「はやっ……」  まだ一分程しか経っていないが、そのあまりの早さにほかんと口を開けてしまう。  画面に親切に表示されたマーカー付きのマップを頼りに、麻里はゆっくりと足を進めていった。  その道中、楽しそうに抱き合う男女や無表情でどこか遠くを見つめる薄手の女性、自分の頭を取り外して楽しんでいる少女などが視界に入る、一見するとホラーか何かのようにも思える。  しかしその光景は、まさしく麻里の理想に近いであろうアブノーマルな景色が広がる空間だった。  しばらくマップの通りに足を進め、麻里は普通の診察室のようにも見える一室へと足を踏み入れた。 「おはようございます橘麻里さん。そちらの席にかけてください」  麻里を出迎えたのは、白衣を着ている受付嬢と全く同じ声と容姿を持つ女性だった。  この見た目の人はここにどれだけいるんだろうと思いながら、丁寧な喋りの指示を聞き、大人しく席に座る。 「それでは、機械化手術に入る前に簡単な説明をさせていただきます。まず手術後の肉体についてですが……」  麻里は白衣の女性から、改めての説明を受ける。自分はこれから肉体を失うというとても大きなイベントと、性癖ヘの欲望が叶えられるという嬉しさから、今までに無いほどに真剣に耳に入れていた。 「説明は以上です。何か質問や、改めての要望はありますか?」 「いえ、大丈夫です」 「それでは、手術室に向かいましょう。衣服はここで脱いで、ストレッチャーの上に仰向けになってください」  若干の不安と大きな期待をこめて、麻里は着用している衣服を全て脱ぎ、その身体を余すことなく晒す。  これから何をされるのかという期待からか、胸の鼓動は高鳴り、身体中が熱く火照っている。  そんな姿を見られるのは少々恥ずかしいが、周囲の女性スタッフ達の笑顔を絶やさない無感情ぶりに、どこか助けられたような気分になる。  ストレッチャーの上で仰向けになった麻里。それを確認したスタッフは、キビキビとした無駄のない動作で運搬していった。  不安を上回る期待が噴き出し、陰部の疼きが止まらない。ついついクセになり、見えない様に触れてしまう。  我慢しなきゃ、この先もっと気持ちいいことできるんだからと自制していると、自動ドアの開くような音が足元から聞こえてきた。どうやら手術室に到着したらしい。  入口を抜けると、その周囲の無機質さは一層目立っていき、自然とこれからのことを覚悟させられる。  ストレッチャーを止め、待機していたスタッフがゆっくりと麻里を手術台の上へと移動させる。背中から伝わる冷たい感触が、これからの未来を示しているようでゾクゾクと麻里の心を煽り立てる。 「ふふ……帰ったらまずなにしようかな……」  心の中に残っていた僅かな不安も、既に期待と希望によって塗りつぶされ、脳内には自分がされたい、自分がしたい妄想によって埋め尽くされていた。  目を瞑ると、そのような情景が数え切れない程に浮かんでくる。 「麻里様、機械の身体になっても、良い日々を過ごしてくださいね」  助手として新たに入ってきたこれまた同じ容姿の女性スタッフが、耳元であやすような優しい一言をかける。  おそらくは落ち着かない客へ向けられるメッセージなのかもしれないが、その言葉は麻里はしっかりと受け止めた。 「もちろん……けど、その前の一番の楽しみも残ってるからね」 「それでは、橘麻里の機械化手術を開始します」  こうして、麻里の人間としての生を一旦終える工程が開始された。

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