仕返しのその先は…… 1話先行公開版 (Pixiv Fanbox)
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2018-12-07 09:04:55
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2026-06
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アンドロイドのような人型の機械が未だ一般に普及していないとされている時代。人間社会の表側、表面に出ているものだけがその世界での全てではない。
一般社会には浸透していない一方で、既に人間とは遜色のないアンドロイドが極秘裏に製作され、それを誰の目にもつかないように手にする者が現れていた。
その製造技術と並行し、人間の身体の一部、もしくは全身を改造、または加工しアンドロイドのようにしてしまう技術体系も、知らぬ間に確立されている。
水面下では、人と機械の境界が崩れたも同然の世界。そんな世界で、とある機械化技術を使用したサービスが始まっていた。
「ちょっとさぁ、金無いからちょうだい。まだ財布に入ってるでしょ?」
「いや……えっと……」
夕日の光わずかに差す暗がりの道。誰も他に通る気配がないその場所で、とある高校の生徒である杉本美羽が、その同級生である東條香織を壁に押し付け、脅すような声と視線で睨みつけて所持金をせびっていた。
香織はふわふわとした雰囲気で、セミロングの金髪を持つお淑やかな美少女ではあるが、あまり目立たず、かつ交流も少ない。
その原因の一つとなっているのが、今現在脅迫している、長身モデル体系かつ巨乳であり、肩まで伸びる綺麗な長髪とやや釣り目気味の強気な美人の美羽。
彼女は常日頃から香織を目の敵にし、陰湿な嫌がらせを仕掛けてはその反応を面白がり、時には危害が加わるようなことをしたり、そして今この時のように、バレないように喝上げを仕掛けるようなことも行っていた。
「いいでしょうよ。どうせあんた、一人暮らしなんだから宝の持ち腐れでしょ? あー海外で仕事してるような親持ってるお嬢様は違うわー」
「そんなんじゃ……」
「あ? なに? あたしに楯突くわけ? 痛い目にあいたい?」
理不尽に理不尽な怒りを重ねられ、いつでも殴れるんだよと左手を握りながら、右手で壁を突いて逃げるという選択肢を精神的に封じる。
その怯える姿に胸がすっとする。憂さ晴らしに生を出していると、美羽は制服のポケットに小さな財布が入っているのを見つけた。
「あ、なんだ持ってんじゃん」
「ま、待って! とら……」
「うっさいわね」
「きゃっ……」
「大声出すと痛くするわ」
沈むような脅しの声で、暴力をちらつかせながら動きを封じ、その隙に財布を抜き取り、中身を確認する。
「なーんだ、やっぱり持ってるし。あんた一人、こんな持ってる必要ないでしょ。あたしのATMとしては価値あるかもしれないけど」
何かあったときの出費や買い物代のためにと財布に入れていた一万円札を自分のポケットへと忍ばせ、わざとらしくその手で取った財布を見せびらかした後で、地面へと落としぐりぐりと踏みつける。
とにかく不愉快に思っている相手の傷つく姿が、美羽には見ててとても面白い。
「あースッキリした。誰かに言ったら殺すからね」
気の弱い香織だからこそ成立する一方的な脅し。ことを荒立てたくないし、周囲に迷惑もかけたくない。
美羽はその良心につけ込み、香織のことを同じクラスの同級生ではなく、便利でイラつく加虐対象として認識していた。
気分良くストレスを発散した美羽は、晴れやかな気分でその場から余裕の歩きで去っていった。
「あっはは! もうマジいらつくわあの猫かぶり。可愛いからって調子のんなっつうの」
香織に向けられたその憎悪は、深い理由もなくただ一方的かつ理不尽な嫌悪のみだった。
可愛らしい容姿が苛立つ。金に余裕があることが鼻につく。本性どうせドス黒いくせに良い子みたいに装っているのが気に入らない。単に不愉快。
それ相応の理由などない。ただ単に個人的感情で不快なだけ。その毒牙にかかった香織は、元来の性格も相まってただ耐えることしか思い浮かばなかった。
「……いつかは、飽きてくれるよね」
そんな淡く楽観的な希望を抱きながら、香織はこの日も大人しく何も言わず、誰もいない自宅へと帰宅してたった一人の夕食を始めた。
当然ながら、一方的な加虐対象を得た者はそう簡単に飽きへと向かうわけではない。もう何日続いたか分からない陰湿かつ時に直接なやり口。
日が進む度にそれは蓄積していく。
「あっ……いたっ……!」
「ったく、気をつけなさいよのろま。床が汚れるからとっととどっか行って」
友人と共に談笑しながら廊下を歩く美羽。そこを通り掛かる香織。何か因縁をふっかけられないようにと、いつもならば横に大きく隙間を空けるようにして避けて歩くが、運悪く遭遇したのは道幅の狭い通路。
そうなるとどうしようない。香織は身構えつつ頭を下げて歩いていたが、そこに故意に足を引っ掛けられてしまい、そのまま転んでしまった。
取り巻きと一緒に蔑みと嘲笑の眼差しを向ける美羽。そして、視界にすら入れたくないというような態度で、立ち上がるのを待つことなくその場から去っていった。
「えっと、確か鞄の中……」
また次の日、香織は机に入れていない分の教科書を取り出そうと、横に引っ掛けてある鞄の中へと手を入れた。
その時、そんな学業のための道具からは決してあり得ないような感触が香織の手を襲った。
「えっ……なにこれ……」
そんなものを手にした覚えはない、入れた覚えもないぬるぬるした感触。咄嗟にこれは表に出すわけにもいかないと察知しながら、覗き込むようにその中身を覗いた。
香織の手についていたのは、透明な粘ついた液体と、その中に混ざる黄色の液体。視界に入った一部分と、料理を行った際に何度か体感したことのある触り心地。
香織はそれが卵の中身であると察した。
なぜこんな物が鞄に。ここ数日卵に触れた覚えも無いしそもそもこんな入れ方するはずも無い。もしかしてと思い顔を上げた次の瞬間、香織の目の前には携帯端末に備え付けられたカメラ。その小さなシャッター音が鳴った。
「あははは! すっごい面白い顔してるじゃん!」
「えっ、なに? その手どうしたの? まさか男とかいんの? ヤっちゃった系?」
悪意に満ち溢れた笑いを向けたのは、その悪質な嫌がらせの首謀者である美羽と、同級生であるショートヘアかつ清楚な雰囲気を醸し出す可愛らしい顔立ち、程よくバランスの取れた綺麗な体つきの坂口麻友。
二人は香織への過度な嫌がらせを日々の小さなストレスの捌け口にし、楽しむ仲であった。
そしてこの日、こっそりと香織が席を離れた間に鞄へ生卵を投入。触れた時のリアクションを写真に撮って笑ってやろうと画策した。
それがあまりにもうまくいくものだからと、二人は若干漏れ出しながらも内心で大きな笑いを堪えていた。
「目障りなんだから、いなくなっちゃえばいいのに」
「――――!!」
歯を食いしばり、なんとか泣かないようにと堪えていた香織にも限界が訪れた。
手の汚れなど今この時はどうでもいい。怒りを発露するように鞄を持って立ち上がり、走って教室を、そして学校を出ていった。
そんな一連の出来事を、二人は即座に素知らぬ顔でその離れ、内心の話を交わしたい欲求を抑えつつ何事もなかったかのように過ごしていた。
休む間もなくひたすら走り続け、振り切るように自宅へと帰っていった香織。
ドアの鍵を開け、玄関から入ってその場で鍵を閉め、汚れることなど気にする余裕もなくその場に座り込みうなだれる。
溜まりに溜まった感情の弁が緊張が解けたことにより一気に解放され、蹲り声を上げて泣き始めた。
「なんでよ……なんで……こんな……」
襲われる理不尽。なぜこんなことをされないといけない。原因も何もわからないままに加えられる危害に、香織の心はズキズキと痛まっていた。
悲しみと共に火種のように小さく燻る、仕返ししたいという感情。だがそれは、この時の苦悶の濁流に押し流される。
うずくまったまま声を上げて涙を流す香織。その時、玄関に備え付けられた通知スピーカーからポストへと配達物が投函される音が発された。
香織の自宅は、ドアとポストが離れている為にこのような設備が備え付けられている。
こんな時間になんだろう、広告かなにかなのではないかと思いながら、涙を拭い玄関から出てポストへと向かった。
早朝に一度整理していたために、中身そのものはスッキリとしている。その中に一枚、剥がし口のある一枚のカードが無機質に入れられていた。
「なにこれ、また何か……変なもの?」
時折入れられている新規開店や、自分にはあまり関係無いような奇をてらった雰囲気のものなのかと思いながら、香織はぺりっとその貼られた一部分を剥がした。
そこにはぽつんと、矢印の先に示されたQRコードのみが印刷されていた。
不思議に思い、とりあえず携帯端末で読み込もうとするが、直前にこれは新手のスパムだったり変な誘導だったりするのではないかという可能性も過ぎる。
「……ま、今更もうどうでもいいよね」
この短い時間で一気に消耗し疲弊した精神。ややヤケクソ気味に擦れた判断で、香織はそのQRコードをスキャンし、表示されたリンクへと飛んだ。
「機械化……サービス?」
非常にシンプルかつ簡単にまとめられたすっきりとしたサイト。そして、真っ先に表示された概要欄。
その内容は、人物の名前に加えて詳しい情報を入力すれば、その依頼者専用のロボットとして改造し、どんなことをしてもいい隷属的にも近い所有権を得られるというものだった。
「ネタアプリみたいなもの……なのかな」
にわかには信じられないその内容。そんな話は聞いたことないし、サイボーグ技術がそこまで発達しているなんてニュースも見たことがない。
一辺も信用するに値しないが、ちょっと気持ちは晴れるかもしれない。行き場のないフラストレーションの捌け口にはちょうどいいかなと思った。
「どうせそんなことないんだろうけど……夢くらい見てもいいよね」
被害につぐ被害で心労が積み上がった香織は、ほんのちょっとだけの間を開けたあと、自分へ理不尽な危害を加え続ける杉本美羽の名前を入力した。
身体的特徴、在籍する高校、使っている携帯端末の色など、知っている限りのものを書き込んでいき、改造依頼のボタンをタップした。
直後に表示された、一度OKを押すとキャンセルできないという警告のウインドウウインドウ。そのストッパーに対して悩むこともなく、香織はもう一度OKボタンをタップした。
「これで本当に収まってくれたら……いいのにな…………」
溜息すら出ない。またあの女がいると思うと、身体が重く動きたくなくなる。
香織は自室のベッドの上で横たわり涙をこぼしながら、しばらくの間意識が闇の中へと堕ちるまで、身体を震わせ自分の呼吸が感じられる程にじっとしていた。
* * *
「ねえあの顔、麻友はどう思う?」
「最高だったわ。卵だけであんな動揺するなんてね」
「やっぱり? あんな顔くしゃくしゃにしてさー。あいつなんてずっとあんな顔でよかったのに」
「けど、あいつどっか行く前にまだ準備してたんでしょ?」
「わかる? こっそり靴持ち出して燃やそうと思ったんだけどさー、その前に逃げてったからできなかったのよね」
「うーわ趣味悪!」
下校の時間帯。美羽と麻友は趣味の悪い会話を交わしながら、仲良く楽しそうに足をそれぞれの自宅へと運んでいった。
幸いにも次の日は休み。あのうざい目障りな女を痛ぶれないことは勿体なく思うが、顔を見なくてもいいということも嬉しい。
いずれにしても自分にいいことしかないなと心を沸かせつつ、裏がなければとても屈託のない笑顔を振りまいてはそれはそれは愉快に話題を共有していた。
「じゃあねーまた今度」
「それじゃねー麻友ー」
いつもそれぞれ分かれて歩く道に到着し、いつも通りの別れの挨拶を向けた二人。
少しだけ暗闇の様相が強くなってきた夕方頃、美羽は一人、人気のない道を歩いていた。
「あーあ、マジいらついたけど、あんなクソみたいな顔見せてくれただけでもほんとスッとした感じ」
話題を共有する相手がいなくとも、一人でぶつぶつと苛つく香織のことを思い出しては口にして吐き出していく。
誰もいない場所でのただの独り言。そう思っていたその時、美羽は今までに感じたことのない視線を体感した。
「……えっ、何? 誰かいるの?」
周囲を見渡しても誰もいる気配はない。暗がりの中に隠れている可能性もあるが、そんなことをするような相手がいた覚えがない。香織にはそのようなことをする度胸は無いだろう。
ということはストーカーか何かだろうか。不安になった美羽は一歩後ずさり、その暗い道を早く抜け出そうとしたその時、元々の進行方向上に一人の金髪の女性が現れた。
その顔は不気味なくらい無機質な無表情で人形のようでかつ、こんな日常的な場所で見かけるにはとても不釣り合いな程に整ったボディライン。、明らかに人間としか思えない容姿と質感を持っている。
「ちょっと、あたしに何か用?」
すれ違うような様子は無い。じっとガラス玉にも思える瞳でじっと美羽のことを見つめている。
美羽は明らかに自分に対しての何かを向けている目の前の女性に、強気な声で先制とばかりに話しかけた。
「容姿一致。依頼された目標を確認しました。捕獲に移ります」
表情と同じく感情のない業務的な声。怪談の化物に遭遇したような気味悪ささえ覚える。
言っていることも意味がわからない。美羽はそれを無視して通り過ぎようと歩きだした直後、背後から異様な力で何者かに四肢を押さえつけられた。
「きゃっ! な、なんなの!」
「拘束を確認。昏睡状態へと移行してください」
背中に何か柔らかなものを感じる。感触からしてそれはおそらく女性の胸だろう。だがその力が異常すぎる。まるで鋼鉄の器具に固定されているかのようだった。
「いやっ、だ、誰かた……す……け…………」
身の危険を全身に感じ取った美羽は、すぐさま声を上げて助けを求めようとした。
だがほんのコンマ数秒遅かったか、その声を張り上げられる前に首元に何か刺されたような感触を覚える。と同時に、保険をかけるかのごとく首を締めながら口を押さえ、徹底的に声を出せないように行動を封じ込めた。
手足をなんとかばたつかせようとしても、既に両手両足力が入らない。意識がどんどん遠のいていく。
一瞬の抵抗も虚しく、美羽の意識はそのまま闇の中へと落ちていった。
「意識の喪失を確認。バイタル正常」
「了解。移送を開始します」
ぐたっと力無く垂れた頭の後ろから現れたのは、目の前に立つ金髪の女性と全く同じ顔、同じ体型の女性。
まるで双子やクローンの如く瓜二つ。二人はひと目につかないように意識の失った美羽を背負い、そのまま移動を開始した。
* * *
奇妙なサイトに美羽の情報を送信した次の日、香織は上がらない気力をなんとか振り絞り、ベッドの上から起き上がった。
この日は休み。あんな思いをせずに済むということは嬉しいが、どこか身体が重くて仕方がない。
前日の出来事が響いているのか、なんとか立ち上がりふらふらと部屋の扉に手をかけたその時、玄関のチャイムが来客の音を鳴らした。
「だれ……こんな早くから」
重いまぶたを擦り、規則的なタイミングで鳴らされるチャイムの元を確認するために玄関前の映像を確認する。
「東條香織様、おはようございます」
モニターに映し出されたのは、スタイルの非常に整った、モデルのようなスーツ姿かつ無表情の金髪女性だった。
こんな人は知り合いにいた覚えはない。ここまでの凍りついたような表情を持つ人物ならば、多少なりとも印象に残っているはず。だがそのような記憶は一切ない。
ならばなぜ自分の名前を知っているのか。香織の疑問は尽きない。
「あの、どちら様ですか?」
「はい。私は東條香織様から依頼していただいた機械化サービスの者です。ご報告、並びにご招待のために伺いました」
開いた口が塞がらなかった。いたずらやスパムの類かと思っていたあの機械化サービスが、本当に実在するものなのかと、手の混んだいたずらという線も消さずにおきながら、香織はモニター越しに質問を続ける。
「えっと、あなたは……?」
僅かな沈黙の後で、金髪女性は口を開く。
「私達に個体としての名前はありませんが、呼びかけるための名前ということであればセシルとお呼びください」
かなり回りくどい言い回しだが、ともかくセシルと言うらしいその女性。
あまりにも現実感の無い話し方や微動だにしない姿、一回も瞬きしない瞳。演技と言うには手が込みすぎて違和感しか無い。
もしかしたら本当にあのサイトからの使いなのかと、香織は疑いを抱えたまま玄関へと向かい、ゆっくりと隙間を作るようにドアを開けた。
「対話に応えていただきありがとうございます、香織様」
とても綺麗な所作で腰を支点に頭を下げるセシル。
間近で見ると、その無機質さがより際立って見えた。人間だろうと思える容姿ではあるが、まるで動く剥製のような整いすぎた綺麗さも感じられる。
「あの、本当にあのサイトからの?」
「はい。最終工程の準備が整いましたので、引き取りを兼ねて依頼者である香織様にご同行願いたいということで、送迎に赴きました」
「それって、美羽を?」
「はい。既に機械化改造の工程は終了し、残るは組み立て及び人格データの調整となります。必要ないということであれば、送迎は中止し、ロボットとして完成した杉本美羽をこちらへと配達いたします。どうされますか?」
本当に改造してしまったのか、ほぼ気を紛らわすためのものだったのに、それが現実になってしまったのだろうか。
香織はたじろぎながら、起き上がったばかりの鈍い思考を巡らせて判断をなんとか下した。
「じゃあ……行きます」
「かしこまりました。では、今から私達の製造施設へと案内致します。道中、機密保持の為に目隠しを致しますのでご了承ください」
香織は乱れた髪と寝間着のままセシルに手を取られ、ゆっくりとお嬢様をエスコートするように、荘厳な雰囲気を醸す白色の出迎えの車両へと連れて行った。
セシルの手は温かく心地よいくらいには柔らかい感触を持っているが、まるてそう人間みたいだと思うように造られたような温感を、微小な違和感と共に香織は感じていた。
ふかふかとした車内の椅子へとゆっくり腰をかけ、その隣にセシルが座り込む。そして、二人の乗車を確認した金髪女性の運転手がドアを閉め、そのまま発進した。
「それでは、目隠しをさせていただきます」
「あ……はい」
痛くないように配慮の伴った手付きで、優しく布を香織の両目に覆わせていく。
その様相はまるで連れ込まれた人質のようだが、扱いそのものは優しさに満ちていた。
「少々の不安を抱くかもしれませんが、ご心配なさらず、落ち着いて到着までお待ち下さい」
先程までの無機質な声とは違う、耳を通して頭の中を洗われるような透き通った声。不思議と全身から力が抜けていくような心地よさを感じる。
知らない人物に知らない場所に連れられるという不安材料しかない現状。遮られた視界とセシルの声が合わさり、まるで眠りにつくような感覚で香織は揺れる車内で身体を落ち着けることができた。
「東條香織様、目を開けてください」
「んん……ぅ……あれ……私、また寝ちゃって……た……?」
起きてすぐにまた眠ってしまったか、香織はセシルの一声で目を覚ます。
目を擦りつつ周囲を見渡すと、そこは先程までいた車内とは違う、何も映し出されていないモニターと二つの扉だけがあるシンプルな白い部屋だった。
まるでドラマに出てくる囚人との面会部屋のような、尋問部屋のような雰囲気も漂っているが、香織は焦りを全て表には出さなかったものの、目まぐるしく動く状況にとても動揺していた。
「失礼ながら、香織様が眠っている間にこちらまで運ばせていただきました。現在、杉本美羽の加工の最終工程に入っております。ただ今その状況をお見せ致します」
二度目の寝起きだからか、多少頭の中がスッキリしているが、ちょっとだけ視界や思考がぼやけたままではあった。
セシルはそれを意に介さないように、左手をモニターへと向けた。
すると、そこには衝撃の光景が映し出されていた。
「うそ……本当に……あれって……」
「はい。あれは杉本美羽本人です」
「そっくりに造ったんじゃなくて……?」
「はい。杉本美羽本人を原料として加工し、ロボットへと作り変えました。あの身体には、一片の有機物も残されていません」
目を閉じたまま、後頭部を上下左右に開かれた美羽の頭部。性玩具のように四肢の取り外された胴体。オナホールのように取り外されている陰部に、ぽっかりと空いた股間の穴。
機械的な断面がいくつも見えているが、あれは間違いなく杉本美羽そのものだった。見たくなくても散々目撃したその容姿を見間違えるはずがない。
「これより杉本美羽の人格データを改良し、香織様に仕えるロボットとしての人格データを製作します。なお、人間だった頃の人格そのままをエミュレートする美羽01は、作業終了後に端末へインストールしますアプリから起動可能ですので、もしそれを楽しみたいと思った場合はご自由に使用してください」
あれだけ威圧的で暴力的だった相手が、まるで心や中身まで物扱いされているようや物言いに、奥底でドクンと何かに目覚めそうな心臓の高鳴りを覚える香織。
再びセシルが優しく手を握り、そっと立ち上がるのを手助けする。
「それではこちらへ。依頼者の皆様にはその反応を楽しんで頂くこともできます」
右も左もわからない香織を連れ、セシルはモニターすぐ横の扉を開け、そのまま二人で入っていった。
その先に広がるのは、たった今モニター越しに確認した手術室のような一室そのまんまの光景だった。
画面越しからはまだはっきりとした実感が湧いていなかったが、こうして間近で見てみると殊更その美羽の姿に驚きを隠せない。
「さあ、こちらへどうぞ。香織様が着席されたのを合図に、デフォルトの人格データ、美羽02の製作に移り、その後の組み立てを以て完成とします。動作確認は既に終えておりますのでご安心ください」
次々と未知の光景からの説明に、なんと言えばいいのか全くわからない香織。
ともかく言われた通りにしようと、用意された椅子へ腰掛けると、セシルの瞳の奥が赤く光った。
「最終工程に移ります。頭部覚醒後、人格データ・美羽01を起動します」
空中で釣り上げられたまま、いくつかのケーブルや固定具によって浮かせられている、人間ならば既に死んでいるであろう頭部。
小さな駆動音を鳴らし、美羽の眼がゆっくりと開かれた。その顔はまさしくそれそのではあるが、今のままではまるでそっくりに作られただけのようにも思える。
「外部操作による命令を受信しました。MU05211起動します」
その声は紛れもなく、何度も嫌というほど聞いた美羽の声そのものだった。
多少機械的で柔らかさもなく、怒りを誘発するようなわざとらしい感情も無い。ただ声を発しているだけの機械的な声。
「続けて、人格データ・美羽01を起動します」
首だけの美羽は、一度ゆっくりと目を閉じる。そして、再び目を開けると、それまでのセシルと同様の冷徹さはすっかりと鳴りを潜め、今まで通りの人間らしい柔らかな雰囲気が戻ってきた。
しかしそうなれば、美羽自身にやってくる一番最初の感情は決まっていた。
「やだ、なにこれ!? なんなの! なにこの身体! 何が起きてるの!?」
ふわふわと浮き上がっているような奇妙な程に軽い感覚。目下には四肢も首もない女性の身体。周囲は謎の機器が立ち並ぶ見知らぬ部屋。
突如何者かに連れ去られ、そのまま意識を失ったことまでは覚えてちる。ということは、その間に自分はなにかされてしまったのか。
戸惑いと恐怖を滲み出しながら、気持ちを落ち着けるように何度も周囲を見ていくと、視線の先に二人の人物が映し出されたのは。
一人は、自分が拘束される前に目の前に、立っていた金髪の女性。そしてもうひとりは……。
「……おい香織! これあんたの仕業なの!? なにしてくれんのよ!」
「ひっ……」
スピーカーの音量を上げ、大きな声で悪態をつく首だけの美羽。
驚きすくみ上がり、これまでの仕打ちがフラッシュバックする香織。そんな依頼者に、セシルはそっと人間が精神が落ち着く温度まで全身を発熱させつつ、柔らかい胸に香織の顔を埋めてそっと抱きしめた。
「大丈夫です、この発言は杉本美羽の人格を忠実にエミュレートした発言です。気にする必要はありません」
「そこの女も協力してあたしを誘拐したってわけ? 何する気よ!?」
気持ちではなく、不安定なバイタルを正常に保つためにそっと慰め安心させるセシル。
その横で、怒りのままに強い語気で二人に叫び罵倒する美羽。今からでも乗り出してぶん殴ってやろうとも思ったが、なぜだか首から下の感覚が無い。
状況が理解できないながらも、美羽は心の底からの不快感をぶちまけていった。
「ここまであたしを不愉快にしておいて、ただで済むと思ってるわけ? これ以上いられなくなるくらいにボロボロにしてやるから覚悟しなさいよね!?」
「人格データの編集を開始します。完了までしばらくお待ち下さい」
一切その悪態に応えることなく、セシルは淡々と人格改竄をスタートさせた。
一瞬にして洪水のように溢れたストレスをあれこれ言葉にして香織にぶちまけていたが、直後、その変化は訪れた。
「そうだ、あんたの靴燃やそうかしら? 裸足で惨めに外出てさ、それともコンドームでも入れてみんなに見せてあげよっか? どうぜあんたなんかかかかかかかかか…………」
いざとなれば本当に実行しようと思っていた嫌がらせをつらつらと喋り、自分がたった今受けた恐怖の報いを何倍にも返して立場を教えてやろうとしたその時、美羽の声は破損した音声ファイルのように最後の声を連続して繰り返し、ぴくぴくと震え始めた。
すぐにそれそのものは収まったが、自覚していないとはいえ、それまで首一つでも強気な姿勢を崩さなかった美羽の睨みつける表情に陰りが見え始めた。
「やっ……今、何か頭の中に……何が起きたの? あたしに今何をしてるの!?」
美羽に襲ってきたのは、抽象的な表現で言えば心を組み替えられいじられ混ぜられるような感覚。
自分自身そのものがどんどん変わっていってしまうような、おかしいと思うことがおかしく思わなくなるような、簡単に作り変えられてしまうような、そんな感覚が脳裏から伝わってくる。
「なんなのよこれ! いややややや、何じっと見てるのよ! あたしを助けなさいよ香織……さ……ま……?」
香織様? なんであたしがこんな奴のことを様付で呼んじゃったの? こんな気持ち悪いぶりっこのこと。ふざけないでよ、あたしが香織様のことなんて…香織様? 香織様香織様香織様香織様香織様香織様香織様。
いやよ、こんな女のことを様付けなんてしたくない。一生あたしに虐げられればいいのに。香織様のことを香織様と呼ぶなん……て……あたしのユーザーである香織様を敬称付きで呼ぶのは当たり前……よ……ね? …………ユーザー? ユーザーって何? ユーザーとは当機体の所有者のことです。
所有者? あたしが香織様に? なんで!? 何がどうなってるのよ!?
「ななな、なにをししししてるの、しています……? やめろ……」
微動だにしない胴体と、声を上げて右目で香織を睨みつけながら左目をせわしなく動かす頭部。
その対象的な姿、香織には見えない何かに抵抗している姿が、どこか心臓の鼓動を早くさせた。
「あたしがあたしじゃなくなるの! 見てないで助けてよ!」
必死に助けを訴えるが、それを意に介すこともなくじっとその様子を見つめる。
「ロボットになんてなんてなんてなりたくな……いいえ、あたしはとても嬉しい。ロボットになれて、香織様に仕えるロボットにロボットにロボットに、こんな奴に従うなんて……ユーザーへの暴言は認められません。修正ををををを、やだ! あたしを変えないで! 変える……のは、嬉しいです。修正はとても正しくて素晴らし……い……じゃない……あたしはあたしはあたしししししし……」
香織……修正。香織様みたいな⬛⬛に、修正。ユーザーへの暴言は……あたしは香織様に従うの? そんなの……それは……とても幸せで、あたしは香織様に仕えることが最上の喜びなの、なの????? 修正。
東條香織、香織様があたしを見てくれてる。もっと、あたしが改良されていくさまを見てほしい、あたしの全ては香織様のためにある。早く完成したい。香織様に相応しいロボットとなって、早く、早く、早く、早く……。
「静かになりましたね」
それまで何かを拒絶するように叫んではおかしくなった玩具のような声を上げていた美羽の頭。
その様子が収まると、今度は一転してマネキンヘッドのようにぴくりとも動かなくなってしまった。
それから数分経ち、瞬き一つしていなかった眼がゆっくりと閉じられ、表情もどこか少しだけ柔らかな無表情へと変わっていた。
「人格データ・美羽01は既に存在しています。上書きしますか?」
「いいえ、新しいファイルとして保存、そしてデフォルトの人格データに設定してください」
「かしこまりました。新たに人格データ・美羽02として保存。起動時のデフォルト人格データとして設定します」
セシルと美羽の間で行われる、淡々とした無感情な会話。
美羽は元々は人間のはずだが、もはやその言動にはかつての面影は見られない。そして、再び口を閉じると、セシルが香織の方を向き、いかにも造られたような笑顔を向けた。
「人格データの編集が終了しました。これより、各パーツの接続作業を以て全工程は終了となります」
どうやら美羽の改造は全て終了したらしい。あんなに暴言や嫌がらせばかり行ってきた相手がこんな有様を見せているだけでも驚きだが、何よりそれが自分のものになるという。
その現実が直前ギリギリまで未だ受け止めきれていない香織。
そんなぽかんとした状態でも、セシルの説明と組み立ての作業は行われる。
「製作されたロボットについてですが、その扱いは全てユーザー様の自由となっております。恋人やパートナーとして付き合うことも、ただのラブドールとして扱うことも、加虐趣味を満たす人形として扱うことも。私達がその修理や調整を全面的にバックアップ致します。もし壊してもすぐに修理してほしいということであれば、それを行う直前に連絡をしていただき、セシルがその場へと……」
美羽の頭部が180度回され、真後ろを向くように胴体にくっつけられる。そして、ゆっくりと正常な方向まで再び回転させられ、カチッという音と共に、その離れ離れになっていた頭と身体は再び接続された。
それに続き、両手両足、女性器ユニットも次々と繋げられていく。
既に人工愛液や人工唾液の補充は完了しており、乳房から噴き出すための乳液も溜められている。
外されていた各部位を改めて接続された美羽の姿は、人間だった頃よりも身体は引き締まり、色気を醸す部位はさらにその魅力を引き上げられ、その分色気に溢れているが、どこからどう見ても人間のようにしか見えなかった。
「以上で説明を終了します。この後起動し、そのまま香織様の自宅へとお連れいたします。なお、その際も一時的に目隠しはさせていただきますのでご了承ください」
セシルからの簡単な説明を聞き終え、未だ戸惑いは消えないながらも、内心のドキドキした感情がだんだん強まっていく香織。
もうすぐアレが自分の元へやってくる。あれだけ自分のことを不条理に攻撃してきた相手が、今はもう自分の言いなりになるロボット。
どこからどうみてもその姿には違和感はない。期待を高めながらその時を今か今かと待ち受けていると、目を閉じ横たわっていた美羽が無機的に目を見開き、口を開いた。
「命令を受け付けました。人格データ・美羽02を起動します。以後、起動時に通常人格を挟まず、デフォルト人格に設定された人格データ・美羽02を直接起動します」
感情のないガイドのような声で、誰もいない天井へと話しかける美羽。
そして、再び目を閉じてからゆっくりとまた目を開ける。
「香織様、少々携帯端末をお借りしてもよろしいですか?」
「はい、大丈夫ですけど」
そのお願いに、香織は快く了承し、ポケットに入れていた携帯端末を取り出し手渡す。
軽く画面を操作した後、セシルの瞳の奥が青く何度か点滅する。
「専用アプリのインストールが完了しました。只今より、端末内のアプリからこちらのロボットの操作が行えるようになります」
セシルが端末を持ち主へと戻し、右手を横へ向ける。
セシルの姿に集中して気づいていなかったが、そこにはバラバラの状態から組み立てられ、何事もなかったかのように全裸で立ち上がった美羽の姿があった。
四肢も腹部も、乳房も女性器も惜しげもなく、恥ずかしがることもなく晒し立ち尽くす。
その表情は若干赤く、とろんとした瞳を香織へと向けていた。
「おはよう香織様。今日からあたし、香織様の物になったわ。あたしの身体全部、香織様が楽しむために造られているから、どんどん遊んでくれてもいいのよ」
人間だった頃の美羽は絶対に一生言うことはないだろう台詞を、恥ずかしげも無く堂々と笑顔で口にした。
道具としての従属だけでなく、人間としての尊厳も踏み躙られるような発言なのに、ユーザーに仕えることに至上の喜びを感じているのか、後から訂正する様子も抵抗する様子もない。
本当に自分のロボットになってしまったんだろうか。香織は美羽の身体にぺたぺたと触れてみる。
「気持ちいい? もっと触っていいわ。あたしの身体を原料に造られてるから、限りなく人間に近く、かつ人間よりも心地よい感触になるように造られてるの」
産毛一つないつるつるとした光沢のある全身。腕や腹部、顔や胸を触っても嫌がる素振りすら見せない。
これが本当に、あんな攻撃的な表情と行動を見せてきた美羽なのか。香織は邪な高鳴りが急激に高まっていった。
「香織様。そろそろ移動を開始します。先程言いました通り、一時的な目隠しをしますのでご了承ください」
「ごめんね香織様。どうしてもこれは必要なことだから」
もっと前に言ってほしかったごめんねという言葉が、こんなところで聞くことになるとは、香織本人も全く思っていなかっただろう。
セシルは再び、ほんの僅かな視界ももれないように目隠しをして、朝方に連れ出した車両へと丁寧なエスコートで連れて行った。
* * *
しばらくの時間が経ち、目隠しを取り外されると、そこは見知らぬ場所を走る車内だった。
香織は後部座席に、セシルの身体に寄り添うような形で座っていた。これは彼女が視界の奪われたユーザーが安心するようにと施された措置である。
「あれ、ここは」
「既に機密区域は大きく過ぎていますのでご安心ください」
「美羽が見当たらないんですけど……」
「美羽は後部のトランク内にて待機状態に入っています。電源はオンの状態で、大きな衝撃には自動的にダメージを回避しますのでご安心ください」
高校生の女の子一人がトランクの中に詰め込まれている。本来ならば明らかな誘拐だが、今の彼女は人間ではなくロボットなため、これはただの組み立て済みのロボットですという言い分も通じるのかもしれない。
つくづくすごいことになってしまったのだと思いながらリラックスしていると、香織の視界、窓の外から自宅の姿が飛び込んできた。
まだ外は明るい。一瞬の夢だったような、そんな考えも浮かびつつ、車両は玄関前で停められた。
「お待たせいたしました。長時間お疲れ様でした」
召使いの如くセシルがドアを開け、手を取りゆっくり優しくエスコートする。地面に足がついた直後、車体後部のトランクが勝手に開く。
その中から現れたのは、恥ずかしがる様子もない全裸姿の美羽だった。
「あっ、ちょっと! 近所の人に見られたら……」
「ご心配無さらず。現在近辺に住人の反応はありません」
もし誰かいた場合はどのようにして外に出していたんだろうと、ちょっとした疑問が浮かびつつも、長い時間このままだと誰かに目撃されてしまうのは間違いないと、急いで玄関前まで連れていき、鍵を開けて家の中へ入れた。
ドアを一旦閉め、香織はここまで何から何まで案内してくれたセシルに頭を下げた。
「最初はすごく驚きましたけど、何から何までありがとうございます」
「お気になさらず。アプリから呼び出していただければ、どのような用件でも向かいますので、これからもよろしくお願い致します」
最初から最後まで、声に一切の自然な感情を込めることなく、徹底的にユーザーの為に振る舞い続けたセシル。
香織からのお礼に応えるように頭を下げ、セシルは後部座席に再び乗車し、その場から去っていった。
「なんだか、夢みたいだったなぁ」
ふと周囲を見渡してみれば、いつも見かける家の前。実はこれまでの体験は夢や幻覚だったのかと思える程にさっぱりとしている。
しかし端末の中には、未知の場所にてインストールされたアプリが入っている。
嵐のように通り過ぎた非日常。ひとまずはこの休みの日をいつも通りに過ごそうとドアを開ける。
「おかえりなさいませ、香織様」
そこに立っていたのは、先程慌てて家の中へ入れた全裸の美羽だった。
カツアゲや脅迫嫌がらせ、何でもありだったクラスメートが、一糸纏わぬ姿を疑問に思わず、両手を前に置き、丁寧な口調で頭を下げている。
溢れ出る背徳感に、香織は今までに感じたことのない、どんなことをしてやろうかというサドっ気が芽生え始めた。
「……ねえ美羽、私を抱きしめてみて」
「もちろんよ」
セシルのような固い口調ではなく、学校で嫌でも何度も聞いた軽い喋り方。
触れたくもないような態度を何度も見せていた美羽は、一切の抵抗も迷いも見せることなく、その柔らかくすべすべとした身体で香織を抱きしめた。
「美羽、私のこと好き?」
「大好き。とっても大好き。香織様がいないとあたしは造られた意味がないわ」
いなくなればいいのにとまで言っていたのに、その真逆の言葉を紡ぐ美羽。
それは間違いなく、改竄された人格が発している設定された愛の言葉。その空虚さが、香織にはどこかとても心地よかった。
「……ふふ、ふふっ、これからもよろしくね、美羽」
「あたしも、よろしく香織様」
背中に手を回す美羽とは対象的に、両腕を降ろしたままその組み込まれた愛を受け止める香織。
機械になったならばどんなことをしてもいくらでも修理できる。それも全面的にバックアップしてくれる。
目の前の散々痛めつけてくれたロボットにどんなことをしてやろうかと、香織はこれからの日々に明るくも仄暗い希望を抱いていた。