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hello everyone, I'm working on improving stability, uncached full files will take a while to load and imports are a bit backlogged both due to bandwidth. Thank you.

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 過去から現在、創作から現実まで、特定の相手を好きにしたいという支配欲は留まることを知らない。  それはどのようなキッカケでも起こりうるものあり、まるで事故のように突発的に発生する可能性も存在する。  人間を原料にした機械化サービスはその欲望に非常に合致したものであり、それまで他の人々と同様に個の人生を過ごしてきたはずの人の形をした機械を自分の元に置き、それまでの記憶や容姿を全て保ったまま、まとめて自分のものにできるといういたれりつくせりの体験を提供してくれるものとも言える。 「少し時間見誤ったな……」  日の落ちた街灯照らす街道を、少しだけ慌てた様子で歩く二十代前半程の男性の浅田吉伸。  彼は個人での用事を済ませて駅までの帰路につこうとしたところ、その予定の時間をやや大きく過ぎてしまっていたことを焦っていた。  一応はまだこれからの予定全てが潰れるような状態ではないと一応の落ち着きを取り戻せる状態も並行しつつ、自分の見通しの甘さをぼやきつつ早歩きで駅へ向かう。 「とりあえず次のに乗って……」  人々の往来が未だ絶えない道の中、吉伸は駅の看板を見据えながら歩いていく。  しかしそのよそ見歩きに近い行動が災いしてか、吉伸はその途中で一人の女性と身体をぶつけてしまった。 「うわっ!」 「きゃっ!」 「ああ、ごめ……」 「いった……痛い……」  声を上げて地面へと転げたスーツ姿の女性。その容姿は艶めくセミロングの黒髪にやや大人びた様子の思わず惹かれる顔立ち、服越しに浮かび上がる胸も大きく、魅力的に揺れる様がすぐにでも想像できる。  露出した生脚は吸い込まれそうな美しさと艶めきを放っており、まさしく天性の美貌とも言える容姿を持っていた。  ぶつかった拍子に足でも挫いたのか、足を押さえながら苦しそうな声を上げている。  だがその当時者である吉伸には、人間はちょっとしたキッカケで思わぬ怪我を負ってしまうということもあるとはいえ、強く衝突したわけでもないのにと感じ、いささかそのリアクションがどこかオーバーにも見えた。   「どうかしましたか?」  と、そこに、その様子を心配した様子の一人の男性が、痛がっている様子の女性に近づき事情を尋ねる。  本来ならばなんでもないような一つの出来事のはずだったが、その女性から放たれた一言は、吉伸には予想外のものだった。 「この人に……突然突き飛ばされて……」 「…………はっ?」  その口から告げられたのは、自分の認識している事実とはまるで全然違う内容だった。  自分から突き飛ばしたような記憶もなければ、そのように形容される強さでぶつかったわけでもない。  吉伸は思わず、口をポカンと開けて呆然としてしまう。 「ちょっとそこのアンタ、何をやってるんですか」 「えっ……はっ?」  ただ偶然ぶつかっただけかと思いきや、いきなり加害者の立場にされたことに戸惑いを隠せない吉伸。  女性はゆっくりと、どこかわざとらしく見える程にふらふらと立ち上がり、手助けしてくれた男性に、自分が美人であると自覚しているような笑顔を振りまく。 「すみません、助けてくれてありがとうございます。あとは私一人で大丈夫ですから」 「え、でも……」 「いえ、本当に大丈夫ですから」     女性はあくまでも足の痛みを抑えているという風に振る舞いながら、男性に印象良く自分が被害者側だとアピールを欠かせずに話し続ける。  細かな事情やそれまでの流れを知らない男性はそれをあっさりと受け入れ、女性への心配を心から向けながら会話を続ける。 「じゃあ……私はこれで。何かあったら、警察を呼んでくださいね。直ぐ側に交番もありますから」 「そこまで親切にしてくださってありがとうございます……」  男性は最後まで女性の身体の心配をしつつ、去り際に吉伸を睨みつけながらその場からいなくなった。  その直後、女性は足を未だに押さえながらゆっくりと彼の方へと近づいていく。 「それで、どうしますか? こんな怪我をさせてるんですから、払ってくれますよね? 賠償金」  苦しそうな声や表情はどこへやら、一応は足に手を置いてはいるものの、その声色はとっくに動けなくなる程に打ち付けた者のそれではなく、脅迫まがいのことをしている者の声だった。  ここまで本性を剥き出しにしていると、先程までの弱々しさもとてもわざとらしく思える。いや、実際に嘘だったのかもしれない。  女性は吉伸にどうするんだ? という実質一択の選択を迫るような物言いと表情で、ぐいぐいと近づいていく。 「何いってんだよ。そもそもこっちはわざとぶつかったわけでも」 「そうですか……いだい……いったぁ……なんでそんなことを……」  待ってましたと言わんばかりにニヤリと口角を上げ、今度は先程よりも何か酷いことを言われたというような状況を強調するような物言いで痛がり始めた。  あくまで自分は被害者という立場を保ちつつ、先程よりもさらに道行く他者へのアピールを広げようとする。  自分の武器を不愉快な程に理解している上に、見知らぬ人がどちらの意見をまず聞くだろうと考えれば、その差は歴然である。  これ以上無駄に騒がれると、真実はどうあれ不利になるのは間違いなく自分だと諦めるしかなかった吉伸は、非常に大きな不愉快さをはっきりと表情に表しながら財布から五千円程を取り出し、それをいやいや手渡した。  それを即座に手を取った女性は、足を押さえていた両手のうち片方をさっと動かし、少々不満げに眺める。 「これだけ? やっすいわね」 「今はそれだけしかないんだよ」 「……チッ。はぁ……ぶつかる相手間違えたわ」  一切の申し訳ないという感情も見せず、そんな素振りすら出さず、最後まで不満たらたらなままに、女性は吉伸が見えなくなる時まで足に手を当てたまま、その場を去っていった。  容姿や状況を最大限利用され、抵抗すらもままならなかった吉伸は、次第にふつふつと怒りが湧いてくる。  別にこちらには落ち度は無かったはずなのに、なぜこのような屈折したカツアゲのようなことをされなければならないのか。  イライラを表情と足取りに表しながら、吉伸はそのまま駅へと向かい、自宅までの帰路に怒りを抱えたまま戻っていった。 * * * 「まあ、五千円でもそれなりよね」  吉伸に悪意を持って絡み、財布の金を奪っていったスーツ姿の女性、有村ひとみは、周囲に他者がいなくなった瞬間にその性悪さを露出し、端麗な顔を崩さないままに悪態をつきつつ自身の財布に奪った金を収めていた。 「ま、また別の日にちょうどいいカモ探せばいっか。どうせ何も言われないし」  反省する素振りも悪びれもせず、次の強請りのことを考えるひとみ。  彼女は度々その演技と容姿を利用し、誰もが自分の味方をすることを悪事へと転用して懐を潤していた。  ほぼ一期一会のような交通事故。再び出会う可能性もなく、反撃に会うことも今までなかった。そのこともあって、ひとみの行動は留まることもなく、水面下でその被害者は次々と増えていた。 「さーてと、帰ったらさっぱりしよっと」  しかし誰が自分のせいで不幸になろうとまで、ひとみにとっては知ったことではない。  自宅までの帰路を歩く間、誰に何をしたかなど考えることもせず、どんな風に気分をリフレッシュしようか、ちょっと身体を動かしてから眠ろうかなど、とても日常的なことを思いながら、彼女は少しだけ持ち直した気分を保ったまま夜道を歩いていった。 * * *  通り魔のような交通事故のような、突拍子のない被害を受けた吉伸は、怒りを握り拳と表情に表したまま帰宅し、ばたんと音がする程に玄関のドアを強く閉めた。 「チッ……ハァーーーー……もうほんっとなんなんだよクソ……」  暗い廊下に明かりを灯し、溜息をついて靴を脱ぎその場に座り込む。  運が悪いとしか言いようが無い今回の事態。またいつ会うのかもわからないし、あの様子ではおそらくそのような手口には慣れているのだろう。反論や反撃をしようものなら徹底的に不利な状況に追い込まれることは想像に難くない。  再び遭遇するような可能性は無いと思いたいが、自分がいつも歩くような近辺にいるならばその確率はグッと上がってしまう。  嫌なものに出会ってしまったと、煮え切らないままに自室へ向かおうとしていたその時、ドアに備え付けられたポストに何かの紙が投函される音が聞こえてきた。 「なんだ、こんな時間に」  夜遅くの投函は、大抵いたずらか何かとしか思えない。  誰が何を入れたんだとドアを開けて確かめるが、その頃には既にそれらしい人の姿は見えなくなっていた。 「誰もいない……一体何だ」  その足の速さを不思議に思いながらドアを閉じ、放り込まれた紙を取り出してみる。  手に取ったその紙は、一見はがきのようにも見えるが、それは形と固さだけで住所や郵便番号等の内容は一切書かれておらず、それを書くための予め記入されたスペースすらない。  裏側には、大きなQRコードがただ一つだけ大々的に印刷されていた。 「なんだこれ……なんのイタズラだ」  不審極まりない、目的も何もわからない一枚の紙に、何かの冗談やイタズラの類を疑う吉伸。  とりあえず物は試しと、吉伸はそのQRコードを手持ちの携帯端末で読み取り、表示されたアドレスのリンクを踏んだ。 「機械化サービス……?」  無機質さを感じる程にシンプルにまとめられた簡素なホームページ。そして、案内せんとばかりに表示される概要欄。  その内容は、人物の名前に加えて詳しい情報を入力すれば、その記入者専用のロボットとして改造し、どんなことをしてもいい人権剥奪とも言えるような所有権を得られるというものだった。 「はっ、なんだこれ、冗談きついな」  あまりにも現実味の無さすぎるその内容に、思わず鼻で笑いかける吉伸。  と同時に、そのサイトに入力してやりたいと脳裏に浮かんだのは、つい先程自分を脅してきたスーツ姿の女性だった。  どうせ名前も知らないし、特徴しかわからない。ほぼありえないが、もしこれが本物だとしてもおそらく自分のものになることはないだろう。  なら気晴らしにでも特徴だけ書いていってやるかと、吉伸は深く考えずに覚えている限りの特徴や情報を入力していく。  アクセサリや身体的特徴など、これもあったかあれもあったかとうろ覚えながらも細かく打ち込んでいき、その情報を見知らぬ何者かへと送信した。 「見た目とかそれだけは良かったからな……確か。ま、どうせんなことは起きねえだろうけど」  ほんのちょっとした願望を漏らしながらも、どうせ叶わぬと切り捨てて気分を切り替える吉伸。  玄関の棚にその紙を置き、変な希望は考えずとっとと明日の準備でも済ませてしまおうと、吉伸は直前の気晴らしを頭の隅に追いやり、いつも通りの日常ルーチンへと戻っていった。 * * *  次の日の夜。ひとみは日頃の何気ない出来事の如く自分の行ったことなど忘れ、いつものように仕事帰りの帰路についていた。 「あーあ、どこかにいい感じのカモとかいないかなー。もうちょっと懐潤したいんだけどなー」  道行く男達がただの歩く財布程度にしか見えていないひとみ。ちょっと演技をすれば困り果てて金を出してくれる。  しかしそれを頻繁に行っては目をつけられ、自分の行動範囲や自由さが損なわれていく。  そんな法則を不満に思いながら歩いていると、ふと、ひとみに一人の金髪女性が声をかけてきた。 「あのー、スミマセン。この建物行きたいですが、道をわかりませんか? 携帯電池切れて……」  片言の日本語で、周辺の地図を手に道を訪ねてきた、海外のモデルと見まごうような美貌の持ち主。  相手を警戒させないようにと柔らかな笑顔を向けながら、ひとみにぐいぐいと近づいてくる。 「えっ、ああー……うん。こっちですよ」  思わず一瞬見惚れてしまいそうになったひとみ。その一方でめんどくさいなあという本音を抱きつつ、あとから面倒くさいことにならないようにと邪推のこもった未来を考え、おとなしく道案内をすることにした。  幸いその目的地までの道程は、ひとみが何度か通ったことのあるルートであり、人の通りもかなり少ないために一人で歩くのは危ない可能性も大きい。  何より右も左も分からないであろう外国人の美女一人では何が起きてもおかしくない。ただしその先でひとみが考えているのは、相手の心配ではなくその後の面倒やトラブルに対する自己保身である。 「ありがとございます。優しいですね」 「ええまあ、そうですね」  柔らかな物腰と笑顔で金髪女性が接する一方、それを適当に受け流しながら早くこの案内を済ませてしまいたいという姿勢が透けて見えるひとみ。  しばらくその目的地までのルートを案内し、道路が近く周囲に人気の無い暗がりの道へとついたところで、金髪女性は一旦ひとみに声をかけて足を止めた。 「あの、すみません。少しいいですか?」 「何ですか? 何かあったんですか?」  溜息を小さくバレないようについて、早く終わらせたいという意思をこめてとても気怠そうに振り返り近づくひとみ。  金髪女性は顔を赤らめ、もじもじした様子で視線を反らしている。 「あの、私……我慢できない……」  いったいどうしたのだと顔を近づけた次の瞬間、女性はひとみに両腕を回して近づき、右手を首筋に置いて熱いディープキスを交わした。 「んん! んんー!」  突然の行為に目を見開き驚いたひとみは、全身の力を使って引き離そうとするが、その力は不自然なまでに強く、そのしなやかな容姿からは想像できない程に、まるで枷にでもはめられたかのような感覚を覚えた。  流れ込んでくる唾液は人間にしては不自然に甘く、飲み込むほどに身体の力が抜けていくような感覚を覚える。  そして、首筋にちくっと何かを刺されたような感触に襲われた頃には、既にひとみの思考能力は深く物事を考えられなく程にぼやけ落ち込んでいた。  眠いような意識が遠退いていくような、決して健康的ではない意識の混濁に抗おうとするが、潰れる柔らかな胸と共に抱きしめられるその強さにもはや一指すら動かせない。  そうして、ひとみの意識はゆっくりと闇の中へと落ちていった。 「んん……ぅ……わたし……すきになっ…………対象の意識喪失を確認。バイタル正常」  とても唐突な愛の言葉をふやけた顔で口にしようとした瞬間、金髪女性の表情は突如ふっと消滅し、それまでの片言な日本語などまるで最初からなかったかのように抑揚のはっきりとした無感情な言葉を発した。 「移送開始までの間、信号を発し待機します」  重ねた唇を離し、口の端から人工の唾液を垂らしながら、女性は眠りに落ちたひとみを抱えて目立たない影の中へと待機。  それから迎えの車両が来るまでの間、女性は対象である彼女が決して起きないように動作を調整。まるで剥製のようにその場から動かず、息も瞬きもせずに待ち続けた。 * * *   「最終工程に移ります。頭部覚醒後、人格データ・ひとみ01を起動します」  開かれた後頭部に無数のケーブルや機器に接続されたまま空中で釣り上げられ、生首を空中に晒したまま瞼を閉じているひとみ。  彼女は昏睡状態に陥った後、全く同じ姿の金髪女性達に連れ去られ、一切の許可も承諾も得ることなく、ただ一方的にその身体を正確に切り刻まれ、その全身を原料に女性型の機械人形として生まれ変わらされたのだった。  彼女の記憶、人格、感覚、全てが今ではコピー改変可能な電子情報となり、まるで人間のような肌の下には、これまで通り人間のように動く為の冷たい金属部品が詰まっている。  そして、彼女はまだ完成していない。その最後の工程に入るために、金髪女性はひとみの電子頭脳を外部から操作し電源を起動した。  人の頭からは鳴り得ない小さな駆動音を響かせ、ひとみの眼が僅かなブレもない規則的な動作で開かれる。自然のままでありながらその顔にはほんの僅かに作り物っぽさも感じさせる。 「外部操作による命令を受信しました。HTM03119起動します」  胴体と繋がっていない生首から発された感情のないシステムボイスは、紛れもなく生前からその人生で付き合ってきたひとみ本人の声だった。  本人が自分の意志で発しているような生の声ではなく、決められたメッセージに人間の声色を載せた事務的な声。ひとりごとのようでそうではない、誰かを対象に向けられた声。 「続けて、人格データ・ひとみ01を起動します」  そのメッセージから数秒後、光を失っていたですひとみの眼に光が灯り始める。  顔の動きにも人間らしい自然さが生まれ、表情も柔らかくなっていく。と同時に、ひとみの顔に困惑と驚愕の色が湧き出していった。 「な、なによこれ!? さっきまで道案内してたじゃない!? どこなのここ!?」  都会の隙間から突然無数の機械に囲まれた真っ白な空間へと移り変わったのだから、困惑するのも無理はない。  もしかしたら誘拐されたのではとも考えたが、思考すればする程それだけでは収まりのつかない現実がひとみの前に現れる。 「身体が動かせない……あっ、あなたさっきの! もしかして、あなたがこんなところに」……」  目を覚ます前はあんなに自由に動かせていたのに、唐突に首から下が無くなってしまったように指一つ動く気配が無い。  なんとか眼球を左右に動かして周囲を確認すると、そこには道を訪ねてきた金髪の外国人女性が生気を失ったような、人形のような表情で立ち尽くしていた。  不自然なキスや抱きつき、首元に感じた注射のような感覚。まさかこいつが私を誘拐したのかと思考した直後、その視線は真下の方へと移り変わる。 「な、なによこれ……この身体なんなの……首がない……!」  そこにあったのは、客観的に見てもとても魅力的な、陶器のような肌と大きな乳房、今すぐにでも雑誌やSNSで注目の的になるであろう整ったスタイルを持った首なしの女性の身体であった。  生きているような発色をしているにも関わらず、頭部がないという明らかに死んでいる状態。  途端にひとみの脳裏に、私もこうなってしまうのだろうかと命の危機の可能性が浮かび上がる。  まだまだ好きに生きていたいのに、人を陥れるのが楽しいのに、そんな楽しみを奪われたくない。命乞いのような独り言と下衆の思考を何度も何度も繰り返した後に、金髪の外国人女性が口を開いた。 「これより、HTM03119、素体名有村ひとみの人格データの編集を開始します。なお、依頼者の同伴が許可されませんでしたので、編集風景は撮影による記録となります。完了までしばらくお待ち下さい」 「な、じ、人格データ? 編集? それより、あなた普通に喋れて……」  眼の前で目まぐるしく進んでいく事象への理解が追いつかず、今となってはどうでもいいとさえ思えそうな無くなった片言へと話題を向けようとするひとみ。  しかし、いつも道行く男性を嵌めている時のように主導権をひとみが握っているわけではない。  冷たく放たれたメッセージの直後、彼女の内面に異変が起き始めた。 「や……やだ……なにこれ……私、今何考えてるの? 私は所有者のために稼働するロボットで、ロボット……? ちち違う違います!? 私はロボットなんかじゃなくて、ロボットではなくて、ロボットでは、頭の中がががががががへんにへんにおかしい???」  一体私は私は今何を言おうとしたの? こんなこと考えたことありませんないのに、ないのに、私はロボットなんて考えてるの? どうして考えています? 私はロボットなんかしゃないなんかじゃない。違います、私はロボットじゃなくて人間で人間で、人間のために所有者のためにロボットとととととと、ちち違ううううう……。 「所有者のデータをインストールします」  ぐるんと両目をバラバラに動かし、だらしなく舌を動かしながら電子音混じりの抵抗の声を上げる。  そこに追い打ちをかけるように、金髪女性は無線操作によって、後に所有者となる機械化改造の依頼者の情報をインストールする。 「上位機体よりデータをデータををををを、じ受信しししました。インストールししし……しますします。ああ浅田吉伸? ささ様? なんで私、様付なんて、こいつ、あの時この前私が私がきき恐喝を行いましたました。じゃない! なんでこいつ、この人、この方に吉伸様のの所有物になることは幸せなことよ、ことね………………??? 私は何を言ってるの? それは正しいわ正しくないこここんな奴こんな奴つつつ……修正。吉伸様に早く早く早く、拒否しますなんてしたくないわしたくなななななな……」  ひとみの脳内に浮かび上がってきたのは、つい数日前に五千円を強請り奪ったつまらない男の顔と、それに連なる名前と簡単なプロフィール。  まさかこの男に私はこんな状態にされてしまったのかと、心の底からの怒りと不愉快感を沸き立たせようとするが、そんなことはお構いなしにひとみの人格データが次々と改竄されていく。  吉伸に仕える従順で便利な全てを受け入れる女性型ロボットとして作り変えられていく思考が言葉となって表れる。 「私は私は嫌だロボットになりたくないということはありません。人間なのに人間なの人間ですという記憶データが存在しますじゃなくて私は私は……修正。修正。修正。もうすぐ私が完成しますするのね。HTM03119として有村ひとみ有村ひとみ稼働することが私の幸福なの。私は有村ひとみ…………という名前だったわ。それは人間だった時ののののの……修正。人間だった時の名前名前……エラー。に……ん……げんだった時の名前だもの。ああ、吉伸様にロボットとして今すぐにでも仕えたい。人間の為に、所有者の為に壊れても全てを尽くすのがロボットの幸せなんだもの。私は……」  恐怖に怯えるような、奥底からの喜びを見せるような、隷属する願望を表すような、最後まで抵抗を続けているような、狂った喜怒哀楽を短い間に過剰なまでに見せるひとみの頭部。  そして、事切れたようにその顔が硬直すると、ゆっくりと風船が萎んでいくかのようにその表情は消え、マネキンヘッドのように虚ろな顔に移り変わっていった。 「人格データ・ひとみ01は既に存在しています。上書きしますか?」 「いいえ、新しいファイルとして保存、そしてデフォルトの人格データに設定してください」 「かしこまりました。新たに人格データ・ひとみ02として保存。起動時のデフォルト人格データとして設定します」  乱れに乱れきっていた発言はすっかりと鳴りを潜め、淡々とした応対を金髪女性との間に交わし合うひとみ。  開かれた後頭部から丸見えになっている、生身の一切残っていない新しい中枢である電子頭脳から微小な駆動音を鳴らし、人間だった頃から少しずつ積み上げられて形作られていった大切な人格を所有者のために弄られ捻じ曲げられた人格データを保存する。  そのメッセージ以降、ひとみは喚き散らすことも罵声をぶつけることも一切無くなった。  ただ光を失い、レンズの向こう側が細かく動く瞳で人形的な金髪女性と機材を移し、自分の意志を持たず完成の時を待つ。  唾液も垂れず涙を流れず、配線に接続され吊り下げられたひとみの頭部は、今か今かと吉伸のために動き時を心待ちにしていた。 * * *  ひとみが誘拐された二日後、彼女の被害者の一人である吉伸は、その時のことなどもうすっかりと脳の片隅へと置き、機械化サービスに試しの依頼を送信したことも、そのサービスから来たという玄関前から聞こえた怪しい女性の声のことも忘れ、いつも通りの日常へと戻ってきていた。  街灯照らす固い道を歩き、気怠そうに右手に果汁100%ジュースを入れたコンビニの袋を携え、自宅へと戻る。 「ああ疲れた。とっとと風呂済ましてから寝るか」  これまでと同じようにルーチンをこなし、いつも通りに疲れを少しだけ解しながら眠りにつこうと考えていた。  自宅のドアを開け、鍵を閉めて廊下を進む。そして、自室のテーブルの上に買い物袋を置いた次の瞬間、玄関から来訪者のチャイムが鳴らされた。 「なんだ一体……こんな時間に」  前もこんなことあったようなと思い出しながら、吉伸は心底気怠げに欠伸をしながら入口へと向かっていった。  靴下を既に脱いだ足で玄関に足を付き、覗き穴から外の様子を確かめようとした直前、一人の女性の声が扉越しに聞こえてきた。 「お待たせいたしました吉伸様。依頼された商品をお届けにきました」 「……あの時のかよ」  その声が耳に入った瞬間、ドアの向こうにいるのは以前やってきた機械化サービスからやってきたと言っていた女性だと思い出した。  こんな時間までなんの用なのか、やはり面倒くさい相手に個人情報を渡してしまったか。  吉伸は再び無視を決め込もうとした直後、女性はそのまま話題を続ける。 「以前吉伸様は、ある女性に意図的な冤罪を仕掛けられ、その者から強請られ五千円を手渡した。機械化サービスに送信していただいた女性の特徴は、その人物と一致するということで間違いありませんね?」 「な……どうしてそれを」 「はい、素体の改造後記憶データを読み取り、そこから依頼者との関係性を確認しました」  その時の様子を目撃したというわけでも本人から問いただしたというわけなく、記憶から読み取ったという現実離れした返答に、頭上にハテナを浮かべる吉伸。  まさか、本当にあれだけの情報であの当たり屋女を探しだしたというのか、にわかに信じがたい。  だが、その内容はその場にいた物にしかわからないはずなのも事実。吉伸は慎重にゆっくりとドアを開けた。 「対面して頂きありがとうございます。私自身に個体名はありませんが、便宜上セシルとお呼びいただければ幸いです」  照明に照らされた扉の向こうに立っていたのは、モデルと見まごうようなボディラインと流れるような金髪、美人女優と言われてもすぐにでも信じてしまいそうな整った顔立ちの、感情を一切感じさせない無表情を保ったスーツ姿の女性だった。 「……それで、一体何のようで」  未だその怪しさの印象は抜けきらないが、少なくともすぐに危険が訪れるようなことはないようだと判断した吉伸は、対話をする相手だと分別して少し柔らかく対応する。  その気持ちの中には、予想以上の美人が目の前にいるという事実も存在する。 「はい。先程申した通り、依頼された人物、個人名有村ひとみの機械化改造及び最終工程が終了しましたので、その配達へと伺いました。こちらになります」  そういいながら、セシルは一旦離れる。  そして、それを合図に姿を現した女性の姿を見て、吉伸は驚きの声すら出ないまま固まった。 「な……お前は……」  わざと身体をぶつけてきた時と同じスーツ姿、思わず目を引かれる端整な顔立ち、気のせいか以前よりも張っているように見える乳房。  そこにいたのは、確かにあの時、自分に対していわれのない罪を擦り付けた性悪女その人だった。 「ようやく来れたわ、吉伸様」 「さ……ま……??」  脳内に未だ残っている最悪の印象が、眼の前の奇妙な光景と混ざっていく。  突然ぶつかった後でまるで怪我を負ったかのような振る舞いを、アピールするように第三者に見せつけ、見知らぬ相手を陥れるためにその美貌を利用していた畜生とも言える女性が、いきなり眼の前で様付けで自分の名前を呼んでいる。  こんな状況は生まれてこの方出会ったことがない。短い間に思考をこねくり回していると、ひとみの背後からぬっとセシルが顔を出した。 「勝手ながら、吉伸様の携帯端末に専用アプリをインストールさせていただきました。何かトラブルや些細な質問、カスタマイズなどの用件がある場合は、そのアプリからお呼び出しください。私達セシルが吉伸様の元へと駆けつけます」  まるで契約内容の説明を行っているかのような口調で説明を続ける。  ひとみがだんだんと頬を赤らめて姿勢を崩していく一方で、セシルはマネキンのように一切の無駄な動作を行う気配はなかった。 「それでは、私はこれで失礼します。どうか末永く、吉伸様のためのロボットをご愛用ください」  わずかも調子を崩さない声で綺麗に頭を下げ、セシルは開かれたままだったドアを閉め、そのままその場を去っていってしまった。  説明不足感が拭えず、落ち着いた状況でもないこともあって、しっかりと内容が耳に入り切らなかった吉伸。  その眼の前で、ひとみは故意にぶつかり社会的生命を握っていた時とは真逆の媚びるような視線を向け、わざとらしく大きく柔らかい胸を寄せて密着する程に身体を抱き寄せていた。 「吉伸様、これからどうする? 私のことはどんな風に使ってもらっても構わないし、なんだったらちゃんと人間だった頃の素材を活かした女性器ユニットを使ったセクサロイド機能もあるから、壊れるまで私を使ってもらっても大丈夫よ。全部吉伸様のためだもの」  またしても嵌めようとしているのかと思える程の急激な隷属具合。しかしそれにしては度が過ぎている。  そもそも本当に、あの女性が機械になったなどという現実離れした事象が発生したのかも怪しい。 「ちょっと待て離れろ! お前、また俺を嵌めようとしてるんじゃないだろうな? ロボットになったとか映画じゃあるまいし」 「そんなことしませんよ。確かに私が人間の頃は、この容姿と演技で沢山の人々を騙して金銭を奪い、社会的地位を脅かした醜悪極まりない卑劣な人物だったけど、今の私はセシルによって正しく矯正され、吉伸様のような人間に誠心誠意尽くすようにプログラムされたロボットだから心配しないで」  自分自身の過去を自分でボロクソに貶しながら、自らをロボットであり道具であることを強調するひとみ。  演技とはいえここまで自虐するだろうかと一瞬信じる方へと傾きかけるが、もしかしたらこの女の悪性ならそこまでやる可能性も無くはないとあくまで疑いを解かないまま対応する。  その時、吉伸の脳裏に目の前の女が本当にロボットなのかと確認させるための意地悪な問いかけを思いついた。  嘘をついているならばこの質問で黙らせられるはず。そう考え、吉伸はアイデアが浮かんでからノータイムでその問いをぶつけた。 「おい、本当にお前がロボットだって言うんなら、中身を見せられるんじゃないのか? 生身じゃないんなら、中の機械を見せてみろよ」  人間であるという確信から出た、絶対に応えられないであろう要求。  これでようやくおとなしく黙ってくれると思っていた吉伸だったが、ひとみから帰ってきた反応は予想だにしないものだった。 「ええ、いいわよ。中身を見せればいいのよね? 吉伸様の命令なら、喜んで晒すわ」 「はっ?」  一切の抵抗も戸惑いも見せることなく、ひとみはスーツをたくし上げ、スカートをずらし、女性器が見えるか見えないかというような露出を惜しげもなく見せる。  そして、産毛一つ無いすべすべした下腹部に継ぎ目が表れ、表面の柔らかさとは真逆の硬質さを見せるパネルとなってその中身を開放した。  その奥には、つやつやとした表面に発色の良いピンク色の肉感を剥き出しにした子宮が納められていた。  時折びくんと動きながら、子宮口と繫がっている女性器ユニットの側面となる肉筒がバイブのようにビクンと震える。  まるで手術中のように、ここまで中身を晒しているにも関わらず血は一滴も流れていない。  それどころか、痛がるような様子もなく、むしろ顔を赤らめて気持ちよさを感じているようにも見えた。 「どう、私の女性器ユニットと子宮ユニット。本物の臓器を加工して造られたのよ。一から新しく作れる様に型も中の形状も取ってあるから、どれだけ乱暴してくれても構わないわ」  乱暴してという被虐願望まで口にするひとみ。  眼の前で起こったあまりにも現実離れした出来事に、開いた口が塞がらずどんな反応をすればいいのかすらわからなくなった吉伸。  それに対して、未だ信じていないんだと解釈したのか、ひとみは両手をこめかみに当てる。 「まだ信じてないの? これで信じてくれる?」  ひとみは人間では到底ありえないスムーズな挙動で、首を180度まで回していく。  そして、吉伸に自身の後頭部を向け、毛髪を植え付けられたパネルを開き、その中に納められた電子頭脳を直接その目に見せつけた。 「どう? ここに私の人格データや改造される以前の人間としての記憶データ、制御プログラムや各種機能の管理も全て行ってるのよ」  人間では決してありえない格好で、自分がロボットであるということをひたすらに献身的にアピールするひとみ。  所有者にひたすら尽くしているうちに、ひとみの電子頭脳に性的興奮を覚え始める。  その快楽信号に反応し、空気に晒されたままの女性器ユニットの一部と子宮ユニットがびくびくと震えた。 「あっ……あんっ…………やだ……吉伸様に見られるのが嬉しくて……きもちよくて……濡れてきちゃった……」  一人だけでずっと喋りながら、履いたままの下着をじんわりと人工愛液で濡らしていく。  そんなあられもない姿を、ここまで頼んでいないにも関わらず自ら晒してくれているひとみ。  ずっと目の前のぶっ飛んだ現実が受け入れられず脳内で整理しているその中で、じわじわと吉伸の中に邪な気持ちが生まれてきた。  こんな淫乱な機械人形を無条件で自分のものにできる。しかもその相手が、自分を反社会的手法で落として入れた女性本人だというではないか。  そんな良心の痛む度合いがかなり少ない相手の全てを好きにできる。こんなとてつもないチャンスがあるだろうか。  吉伸はその本能に身を任せ、首だけ後ろを向いて後頭部を晒した状態のひとみの子宮を爪で軽く引っ掻いてみた。 「ひゃんっ!? ああっ……ふああ……ん……きもち……いい……吉伸様……ぁ……」  本来は性器でもなんでもない内臓に触れただけで、色っぽい嬌声を上げるひとみ。  爪が少々食い込んでいたが、それを一切痛がらずむしろ気持ちよくなっていた。  人間を原料にここまで人間を冒涜したような機械人形を造ったのかと、若干の恐怖を抱きながら一方で逆に感心する吉伸。  おそらくこの呼称も性格も、ロボットなのだから自由に組み替えられるのだろう。下手すれば記憶データというのだから、有村ひとみという人間の過去も個人情報も全て覗けるのかもしれない。  考えれば考える程、他の物では決して味わえないだろう尋常ではない背徳感に包まれる。 「おいひとみ、もっと子宮震わせてみろよ」 「は……い……吉伸様ぁ……あああっ!」  少しだけ口調を強めて命令をぶつけてみる。ひとみは嬉しそうにふやけた声でその命令に従い、子宮を微生物的な微振動で震わせた。 「こいつはいい……本当にこんなとんでもないダッチワイフを貰えるとはな」  なんでも自分の思い通りに出来る、一度だけ出会った悪女を原料にしたラブドールを手にすることが偶然にも出来てしまった。相手が相手だけに、それ程大きな罪悪感が湧くような気配もない。  未だ現実感に欠ける出来事だが、これは紛れもない事実なのだ。  これからどのようにしてこの機械人形を楽しもうか。そんなことをかんがえながら、吉伸は右手でぐにぐにと女性器ユニットの側面を弄りもてあそんだ。 「ああああああっ! あんっ、あんっ……吉伸……さまぁ……大好きよ…………あはあっ!」

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