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「破損箇所の摘出を開始」  まず最初にミレイが手を付けたのは、交換が必要な破損箇所の部品だった。  人工皮膚ごと潰れた関節部の隙間に液体金属を滑りこませ、四肢のパーツを一つずつ取り外していく。  まず最初に手を付けたのは右腕。取り外す際、内部機構が破損によって歪んでしまっているのか、破損箇所の接続を切って物理接続をなくそうとすると、どうにもカタカタと震えながら、鉄板が歪むような異音が漏れる。  不自然に伸びて硬直した右腕が、まだ起動もしていないのに、関節部に力を加えられるだけで抵抗を起こしてグラグラ揺れるなど、普通に扱うならば骨が折れるような状態となっていた。だがこれでも、廃棄場に棄てられていた機体の中ではマシな方である。  右腕の肘関節に入り込んだ液体金属が、変形した箇所を切除後吸収し、普通に動く分にはスカスカな、簡単に取り外せる状態を作る。  すると、碧の右腕はいとも簡単に外れ、人工皮膚も剥離された状態で身体から離れていった。  それぞれ碧の四肢は同じように潰れており、同様の対処で問題ないと判断したミレイは、次々と四肢のパーツを剥離。瞬く間に碧の身体は、ダンボールの中でも収まりそうな達磨の状態となった。  続いて、ヒビが入っている左眼球ユニット。眼球そのものに触れ、指を滑らせ眼窩に挿入して根元から取り外す。  人間ならば痛がるどころではない、泣き叫んで喚いているような行為だが、バッテリーが切れて物言わぬ人形となっている彼女には何も関係のない話である。  残る取り外しの部位は、女性器ユニット。ミレイは、右脚を外した接続部の隙間から液体金属を流し込み、股間の穴と女性器ユニットを繋ぐ機構を強制的に解除。  乾燥して摩擦が強すぎるようにも感じる膣内に指を入れ、ぐらぐらと外性器と股間の隙間から揺らいだところで、一気に出力を上げて引き抜いた。  膣ユニットや子宮ユニットのような外側部分はやや無傷に近いが、外性器の襞は明らかに色落ちしており、体内に収まる箇所とは違う樹脂製丸出しの色になっている。  取り外したそれを、子宮ユニットから思いっきり押し込んで裏返すと、摩擦と何かしらの刺激が強すぎる機器によって膣壁が削れ、ダマになった削れカスや抉れているような跡が無数についた膣内の姿が顕わになった。  破損状態を見るに、彼女に施されたのは圧力や外部からの刺激を強制されるような耐久テスト系によって破壊されたのだろうと推測される。     「破損パーツの接続解除完了。続けて、破損した内部部品の回収及び、胸部ユニットの形状矯正」  交換が必要なパーツの取り外しが済み、次は体内に潜む破損部品を取り出していく。  女性器ユニットを取り外して生まれた股間の穴から腕を入れて侵入し、胴体部の中身を一旦液体金属で埋め尽くす。  腹部内や、胸部、バッテリー周辺、頭部内と、ありとあらゆる箇所に液体金属を侵入させ、壊れた部品を確認したらそれを外して、一旦ミレイ自身の身体をその部品に変形させて埋め合わせる。  体内で蠢いている姿は、さながらスライムが女体に侵入して暴れまわっているかのよう。  子宮ユニットの無い腹の中や背中、頬や額の内側で液体金属が動く様が人工皮膚越しに見えると、寄生生物に寄生された死体のような様相を呈していた。  一通り壊れた部品を取り外し、股間の穴から放り出すと今度は碧の、本来ならは形良く、人間以上のハリがある両乳房を形作っている乳液タンクの中に潜り込んだ。  今の碧の両乳は、使い尽くされたかのように形が歪み、表面は汚れて、棄てられたセクサロイドっぽさが強まっている。  表面は一旦後回しにして、人工皮膚下で形状が奇妙な形で固定されてしまっている乳液タンクの形を矯正しようとした。  機能停止しているはずなのに、碧の両乳がまるで生きているように暴れ、再び軋むような音を鳴らし、何かが折れるかのような音まで聞こえ始めた。  まるで両乳が空中に引っ張り上げられ、達磨の身体が乳基準で仰け反るようなポーズになったのを最後に、乳液タンクの挙動は落ち着き、じわじわと両乳首から液体金属が姿を現した。  パンパンに膨れた両乳が少しずつ落ち着いたサイズを取り戻し、デフォルトであるロケットのような形だと形容できる突き出した乳が取り戻された。  名称通りの乳液タンクの機能も復帰し、いつでも母乳の如く、補充された液体を放出できるようになっている。 「全身の形状修正完了。破損箇所及び空洞箇所の一時的補修後、全身洗浄を開始」  一旦パーツの取り扱いを止め、碧の身体を家に連れてきた時のように、またもや隙間に入り込み、彼女の身体を外殻にして操り始める。  今度は、取り外した手足や左眼球、股間などの隙間を液体金属で埋め、ふらふらと足音を立てない歩き方でひっそりと移動していく。  碧の身体を借りたミレイが向かったのはバスルーム。ここで、各部位の汚れた部分を洗い流そうという目論見である。  碧とミレイが合わさった身体は、硬直した表情と安定性が無くグラグラとした各パーツ、銀色の埋め合わせ部分が見える、まるで地球外生命体に寄生された女性のような出で立ちをしている。  ミレイは、この家で稼働している機械側に使用される専用の洗剤を手に取り、全身にシャワーを浴びながら、人工皮膚をスポンジで磨いていった。  砂埃や雨、突風など、様々な要因で付着した汚れを落とし、本来の美しい人工皮膚の姿を取り戻す。  顔も同様に洗剤で磨き、口端の人工唾液跡も落とし、さらには口内に手を突っ込んで、泡だった洗剤で歯や樹脂製の歯茎ごと洗浄した。  シャンプーとリンスを用いて、くすんでパサパサになっていたロングヘアーも洗い流し、本来の綺麗な頭髪に戻るように可能な限りのことを尽くす。  そうして、全身の洗浄を終えると、ミレイはバスルームを出て、まるで以前から体験していたかのような動きで丁寧に碧の長髪を乾かした。  自室へ戻り、残るは人工皮膚の張り替えと電子頭脳内の破損データの保管のみ。 「最終作業。充電と並行し、人工皮膚の張り替え及び、電子頭脳内のファイルチェック。その後、起動を実行させます」              ラストスパートとして、ミレイは碧の身体の首筋にあるカバーを開いて、充電端子を露出させると、コンセントから伸びるケーブルを接続して、空っぽのバッテリーに電気を通す。  接続の瞬間、彼女の身体が一瞬びくっ、と震えたが、ただの通電による反応であり、そこに意思はない。  碧の身体から抜け出し、掻き集めた碧のパーツから、各部位の関節部品、左眼球、人工皮膚、女性器ユニットを取り出し、早速補填作業へ入った。  まずは全ての関節部品をそれぞれの四肢へ接続し、内部機構が隠れるように人工皮膚を貼って、新旧それぞれの皮膚がきちんとくっつくように電熱で溶接を行う。  それを他の四肢にも行い、溶けた皮膚のバリを切り取って形を整えると、すっかりと元通りな、人間の女性らしいしなやかですべすべとした手足が取り戻された。  左眼球ユニットも接続し、股間には一番状態が良く、内外共に傷があまりついていない、使い込まれていない女性器ユニットを股間の穴へ接続した。  同時に進めていた電子頭脳内のファイルチェックは順調に進行しており、複数機体から取得したデータをもとに、破損しているまたは欠けているファイルを探し出し、それをペースト。  それを数度繰り返し、欠けたファイルは無くなったことを確認できたところで、ミレイはようやく、修理の為に崩し続けてきた自分の姿を取り戻した。 「水樹 碧の修復作業が完了しました。現在の充電率は…………12%。水樹 碧の起動を開始します」  構造図と記憶データに残っている外見データを参考にした修復を経て、ジャンクとして処理された碧の一体は、ようやく人間の女性らしい姿を取り戻した。  外で放置された時間が長く、艶めきをすぐには取り戻せなかった黒髪と、溶接した箇所にほんのちょっとした違和感のある人工皮膚を除き、碧の美女らしい身姿はほぼ完璧と言っていいレベルだった。  バッテリーはまだ、単体で稼働してもすぐダウンしてしまうであろうパーセンテージだが、一旦起動させる分には何も問題はない。  修理した機体の試運転として、ミレイは電源ボタンを押し込み、リペアされた碧を起動させた。  通電された瞬間に全身が一度大きく振動させ、形を取り戻した両乳が波打ち揺れる。  瞳の奥の明かりが点り、表情がゆっくりとデフォルトの「無」へ戻り、ようやく口を開いた。 「電源ボタンの入力を確認しました。水樹碧の起動を開始します。前回終了時、正常に終了されませんでした。破損ファイル確認…………異常無し。システムチェック…………異常無し」  美咲やミレイと同様に、起動時に向いている方向に向かって口を動かし、感情が欠片も宿っていないシステムメッセージが垂れ流される。  ところどころで微妙にシステムメッセージが違うところが、機体のバージョンやOSが違うということを実感させられる。 「バッテリー残量13%各部センサー、及びボディに13件の異常を確認。ただちに報告し、修復を実行してください。システムは正常に稼働中。人格データを確認。人格エミュレートを開始します」  そして、長い間野ざらしにされていた水樹碧の残骸が復活し、ようやくの再起動を果たした。  ところどころに異常がまだ残っているようだが、今は正常に動作すれば問題はない。  無機質なシステムメッセージを喋り終えると、先程までヒビ割れていたものが接続され、もう片方は白目を剥いていた瞳に人間らしい輝きが宿り、曲線的な動作をし始めた。 「おはよう葵。良い壊れっぷり…………あら、ここはどこかしら?」  実験途中で壊れ、その後修理されたという想定の言葉を発する碧。  しかしそこは、葵と碧の実験で使用される、真っ白でどこにも出入り口が見当たらない閉鎖空間のような実験室とは違う、一般的な家屋の一室。  唐突に部屋が切り替わったことに、少し驚いたような反応をしながらも、碧はこれも実験の一種だと思考し、周囲を見渡し始めた。 「あら、あなたが次の実験相手? 葵とじゃないなんて珍しいわね」   「初めまして、水樹 碧。私の名前はキリエと申します」  碧の存在理由は、葵と共に外部の人間が喜ぶ実験機体となること。故に、思考の基準が実験本位となっており、キリエを見た瞬間に抱いた思考が「新たな実験相手」だった。  彼女はまだ気づいていない。ここがアルゴビットの実験場の外であり、人間社会の中にある場所だということに。

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