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本来は教卓が置いてある場所、一段高くなっている教壇に彼女は立たされていた。

何も身につけていない。

一糸まとわぬ姿に、教室中の女生徒達の視線が刺さる。


「ほら、シオンさん。隠してはダメですよ」


「っ……………く」


冷たい教官の命令。

衝動的に言い返してしまいたくなる。

しかしここで言い返す事はできない。

さらに酷い事になってしまうのは目に見えていた。

シオンは顔を真っ赤にし、唇を血が出るほどに噛みしめて、胸と股を隠していた手をどけた。









ここは、レティシア魔術女学院。

厳しい伝統の多い、最も古い魔術学校の一つ。


この学院で、シオンは特に秀でた能力を持つ生徒ではなかった。

平均か、それを僅かに下回る程度の成績を維持するのが精いっぱいだった。

それでも碌に魔術書や魔具を揃えることもできない貧困層出身者の中では抜きん出ている、勤勉な生徒だった。


そして、外見においては優秀な魔術の家柄で育ってきた才女達を上回っていた。

切れ長で軽く吊り上がった気の強そうな碧眼。

生来の力強い魔力を宿した銀髪。

発育は遅いが、引き締まって均整の取れた細い体。

入学してからすぐに上級生の間でも話題になるほどであった。


ある朝の朝礼の終わり。


「シオンさん、あとで教官室まで来なさい」


シオンの所属する1年生を担当する教官に呼び出され、シオンは教官室に向かった。


(なんだろう?何もした覚えはないけど………)


「シオンさん。複数の生徒から情報提供がありました」


「情報提供?」


「学院での重大な違反行為が何件も報告されています。学院機密の情報漏洩。貴重な魔術素材の窃盗。シオンさん自身と、他生徒の成績改竄、他にも多数…………一度にこれほどの悪事を働いた生徒は初めてです」


「は、はい?」


全く身に覚えがない指摘に、シオンは唖然とした。


「とぼけても無駄です。複数の生徒からの証言と、証拠映像もこちらに提出されています」


「な、ちょっ、待ってください!そんなわけないでしょう!その映像見せてください!」


「それはできません。現時点では学院で預かっていますが、これらは魔術管理協会に提出することになるでしょう。学院長も大変お怒りです。名誉ある学院から犯罪者を出してしまう事になるのですから」


1年生の教官は感情の起伏が乏しいタイプだった。

冷徹な無表情と有無を言わさない静かな口調。

教官に反抗できる生徒は皆無だった。

シオンはまともに会話したことすらない。

それでも、この指摘を黙って受け入れる事はできなかった。


「だから待ってください!こんなのおかしいです!そ、そもそも情報提供した生徒って誰ですか!」


「それは言えません。もちろん、提出された情報と証拠品は精査しました。ですが改竄した記録も魔術的干渉もありません。今のところ、本物として取り扱う他ありません」


「そんなっ!」


「落ち着きなさい。1年前にも同じような事件がありました。その際は1週間、ある項目の授業の協力をする、という条件の元、処分を学院内で済ます事にできました」


「……?」


話の流れが見えないシオンは次第に怪訝な顔になっていく。

このままでは退学、どころでは済まないかもしれない。

下手をすれば協会に捕らえられ、地下牢獄に送られてしまうかもしれない。

孤児院出身のシオンに味方してくれる仲間や家族はいない。

何とかして無実を証明し、疑いを晴らさないといけない。


「その授業とは、官能魔術です。魔女にとっては最も重要な魔術の一つですが、なにせ被験者…………もとい、協力者がいなければ実演も練習もできません。これは特例措置です」


「は…はい!?か、官能魔術の被験者になれっていう事ですか?!そんなの嫌に決まってるじゃないですか!大体っ」


「あなたは」


教官がシオンの言葉を遮る。


「他の選択肢を選べる立場ではありません。授業に協力して事件をなかったことにするか。それとも犯罪者として退学するか……………この学院に入るのは大変だったでしょう。身寄りのない孤児がたった1人でよく励みました。ここでその研鑽を無駄にするのは惜しいと思いますが」


「……誰が……誰がそんな告発したんですか………っ」


シオンの目に怒りが宿る。


「こんなの!どう考えても!」


教官に詰め寄って、訴える。

状況的に、濡れ衣であることは明白だった。

それは教官だってわかってくれている筈だ。

感情的になって、教官のローブを掴む。


「…………これ以上反抗的な態度をとるようなら、貴方を魔術協会に引き渡します。証拠が認められれば、シオンさんの人権は停止され地下牢獄に送られるでしょう。刑期は……十年程度で済めばいいですが」


空気がさらに冷たく張り詰める。

これ以上教官に逆らえば、一生徒に過ぎないシオンはすぐに鎮圧されてしまうだろう。


「それが嫌なら、今、決めなさい」


「……!」


ぎり、と強く歯を噛み締めて、大きく息を吐く。


「い……1週間………ですね」


「10日です。今の反抗的な態度を加えて、3日延長します」


「っ……」


シオンは肩を震わせて教官を睨みつける。


「わ……わかり、ました。授業に、協力します」


「よろしい…………では、この契約書にサインしなさい。魔術が編み込まれた契約書ですから、強い強制力を持ちます。役目を果たせば、貴方の悪事は不問となります」


シオンの前に突き出されたのは、羊皮紙の束にビッシリと文字が敷き詰められている契約書だった。

魔素が込められた特殊な黒インクで書かれており、よく見ると魔術文字が揺らめいている。

一番最後に、名前を書く欄がある。

震える手で、そこに名前を書いた。


「うっ!…………っ?」


その瞬間。

シオンは自分の魂に、魔術的な鎖が絡みつくのがわかった。

何かとんでもない過ちをしでかしてしまったような感覚に、冷や汗が肌を伝う。


「これで、契約が結ばれました。後から反故にするような真似をすれば、告発内容と合わせて、より重い懲罰が行われることになります」


この契約書と、教官の断定的な口調。

教官に呼び出された時点で、この契約を結ばされるのは確定事項だったことに気付く。


しかしシオンは、まだ学院に入ったばかりで魔術契約の重大さを教えられていない。

自分が置かれている取り返しのつかない状況を察してすらいなかった。


「それでは、早速始めましょう。今日から10日間、貴方が受けるのは官能魔術の授業のみとなります。ついてきなさい」


「えっ、い、今からですか?」


「当然です。官能魔術の授業は毎日行われています。その全てに出席し、協力してもらいます」


教官は有無を言わさず教官室を出て歩いていく。

心の準備もできていないシオンは、その後ろをついていくしかなかった。







そして教室。

壇上に立たされるシオン。

その横に立つ教官。


「それでは本日の授業を始めます。が、今日からの授業はより実践的な内容になります。シオンさんが、官能魔術の被験者として協力してくださることになりました」


「え?」「なに?」「被験者?」


教室が俄かにざわめき立つ


「静かに。これまでの授業で、官能魔術の重要性は教えていますね。相手を無力化する最も効率的な手段であり、我々魔女にとっては最大の弱点でもあります」


「…」


そこは、シオンが授業を受けていた教室とは違う場所だった。

魔術の家系に生まれた上流階級の娘達が集められた教室だ。

内装からして、シオンが知っている教室とは差があった。

教室内の調度品、使っている教材、生徒達が身につけている衣装の華美さが、シオンのそれとは比べ物にならない。


そして官能魔術についても、シオンは教えられた事がなかった。

それがどういうものなのか、どうやって発動するものか。

それを受けたらどうなるのかも、シオンは何も知らなかった。


あまりに唐突な展開に頭がついていかず、シオンはどうしていいかわからなくなっていた。

今朝、1年生の寮で目を覚まして、普通に授業を受けるつもりでいたのに。

それから数時間で何故こんな事になっているのか、まだ事態を飲み込めていない状態だった。


「官能魔術は対象に性的な効果を及ぼす魔術の総称です。ですが、その内容は実に多岐に渡ります。性欲を増大させるものと、減退させるもの。性感を高めるものと、鎮めるもの。そして、このように」


教官が、シオンに杖を向ける。


「えっ…………!?」


フッ、と、一瞬にして、シオンの衣服がすべて消え失せる。


「きゃあ!!」


あまりのことに、シオンは体を隠してしゃがみ込んだ。

年頃の少女が教室内で裸にされ、多くの生徒の目に晒されるという耐え難い恥辱。


「脱衣や、装飾品の解除も大きな括りでは官能魔術の一種と言えるでしょう。さらに」


教官が再び杖をシオンに向ける。


「なっ……!?や、やめっ!」


シオンは気を付けの姿勢で強制的に立たされた。


「わっ、素っ裸」

「キレーな体」

「顔真っ赤で恥ずかしそー」


シオンを見下しているのがわかる声色が、教室中から聞こえる。


「これは身体操作魔法。対象者の抵抗を抑えるために使用されます。こうして裸に剥かれ動きを封じられたら、もう逆転は難しいでしょう」


コツコツ、と靴音を響かせて、教官がシオンの後ろを通り過ぎる。

教官の言葉通り、シオンは何とか魔力を練ってこの身体操作を解除しようとしていたが、とてもできそうになかった。

無毛の性器や控えめな胸を晒されて、恥ずかしさで頭が混乱していた。


「では、実際に性的刺激を与えていきましょう」


教師の杖が、シオンの股間のてっぺん。クリトリスを指して止まる。


「ここ、陰核を責めることで簡単に強い快楽を与えられます……………もう少し見やすくしましょう」


「…くっっ!!」


シオンは両手を後ろに組まされ、足を肩幅まで開かされた。

そのまま、少し腰を落とし、前に突き出される。

同性とは言え、多くの女生徒に裸を、ましてや性器を見られる恥辱に耐えかねて目を瞑った。


「官能魔術には汎用性が高く、とても便利なものがあります」


ツンと杖先でシオンのクリトリスをつつく。


「ひぐっ!?なっ?あっ、熱いっ!?」


だが、シオンはすぐに目を開かされた。

見る見るうちに、クリトリスがピンッ、と勃起し、包皮から顔を出して小さな肉芽を覗かせた。

教室中にクスクスと小さな嘲笑が広がる。


「これが性感励起魔法です。この状態であれば」


杖先で、先ほどと同じようにシオンのクリトリスをつつく。


「ひぃんっっっ!!」


ビクンッ、とシオンの腰が跳ね上がる。


「ただ突いただけでもこの反応です」


ジンジン、ズキンズキン、と全身に勢いよく血が巡っているのがわかる。

心臓が痛いほど跳ねている。

怒り、不安、焦燥、恐怖、羞恥。

そして、強制的な快感。

様々な感情が溢れて、何も考えられない。


「では、実践あるのみです。まずはリシア、貴方から。この子を絶頂させてみなさい」


「あ、はい……………でも、その」


金髪の少女は、少しだけ躊躇った素振りを見せる。


「彼女は”教材”です。気にすることはありません。官能魔術の効果を実感するのが今日の授業の目的です」


「はい、わかりました…………じゃあ、ごめんねシオンちゃん。授業だから」


教官に促され、金髪の少女はあっさりと遠慮を捨てた。

自分の杖を取り出し、その杖先をシオンのクリトリスに向ける。

そして、ゆっくりと魔力を込め始めた。


「ひぐぅっっ!!」


再び、シオンの腰が跳ね上がる。

分かりやすい反応に安心したのか、少女は少しだけ口角を上げると、さらに魔力を流し始めた。


「んひっ!?!うあぁあっっっ!!」


今まで味わったことのない快感の本流。

ゾクゾクッ、と背筋を駆け上がってくる官能に、シオンは何度も腰を前後に暴れさせた。


「やめっ!!やめてっ!!んっ……っくはぁあああっ!♡!!」


ほんの十数秒で、シオンはあっさりと絶頂してしまった。


「え、もう?」


あまりにも早すぎる絶頂に、金髪の少女から悪意のない本音が零れる。

シオンは絶頂に震えながら、更に激しい羞恥に苛まれた。


「これが官能魔術の効果です。単純な快楽も、魔女にとっては致命的な隙になります……………とはいえ、こんな初歩中の初歩の魔術でここまで早く絶頂してしまうのは珍しいですね。被験者の快楽耐性が低いせいでしょう」


教官の冷淡な言葉で、シオンはさらに追い打ちをかけられる。

教室内に先ほどよりも大きな嘲笑が広がる。


「では、1人ずつ前に出てきてください。全員、少なくとも1回以上は絶頂させるように」


「なっ………!」


シオンは耳を疑い、教官の方を向いた。

教官は、シオンと目を合わせることさえしなかった。









2話 『基礎官能魔術』





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