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 現代からやや離れた、とある未来の時代。  機械工学、電子工学、人間工学など、無数の叡智が時代を経るごとに発展と進歩を続け、人類社会はより新たな進化を遂げるようになっていった。  テクノロジーの結晶とも言える存在である、まるで人間のようにしか見えず、振る舞いや挙動もまさしく人そのものな機械人形、アンドロイドが製造され普及してするようになったとほぼ同時期。人間がそんなアンドロイドに追いつこうとするが如く、生身の人間の完全機械化技術も実用化された。  生身の全てを失うが、己の脳内情報は全て電子データへと変換され、バックアップ可能な代物となる分、その情報利用の自由度は上昇し、全身全てを換装可能なパーツへと変わる為、自分自身の何もかもが己の意思のままに扱える。    容姿を変えても良いし、四肢をより便利なガジェットへと付け替えても良い。有機物から無機物へと変わるという人類の新たな段階へと踏み込んだことで、人類社会はさらなる変化がもたらされたのだった。  多少の金額と自分の意思さえあれば、いつでも生身を捨てられる。そんな時代ではあるが、当然機械であるが故の脆弱性は、どうしてもついてまわる。  これは、とあるマンションに暮らす違法な電子機器弄りが好きな男性と、その隣人達の間で繰り広げられる話である。 * * *    とある島国の首都にそびえる、あるマンション。  防音や部屋間の距離などの暮らしやすい要素が充実しており、一室も広く2LDKが基本となる、快適な生活を過ごすにはとても足りているそのマンションの405号室に、一人の男性が暮らしていた。 「やーっと帰ってこれた……さ、今日もやるかぁ」  彼の名前は市川明博。とある会社に勤める会社員である。  日中はビジネスマンとして働き、きちんと成果を収めて貢献している明博であるが、そんな彼には、決して誰かに口外することはできないある隠れた趣味があった。  それこそが、自宅へ戻ってきた後の大きな楽しみであり、彼がずっと打ち込んでいることでもある。  きちんと手洗いうがいを済ませ、寝室にスーツや荷物を置いて部屋着に着替えると、彼は軽食を用意しつつ自室、またの名を作業室へと移動した。 「もうちょい調整を詰めていこうか。しっかり範囲を絞りつつもいつでも効くようにしときたいんだが」  作業室には、大量の電子機器や部品類、工具や端末機器などがずらりと設置されており、壁と密着した大きめの机の上は、作業途中かのような少々散らかった状態となっていた。  そして、同じくその机の上には、女性型アンドロイドの頭部がマネキンヘッドのように置かれていた。  頭部だけの女性型は、現在何もない壁に向かって、喋っている途中の微笑みのような顔で電源が落ちているが、よく見ると目の方向が少々ばらついており、表情が左右非対称になっている。  断面部から伸びるケーブルは、コンセントやデスクトップ端末に繋がっており、人間のような頭部でもそれが電子機器であることを如実に表していた。  明博は机に座り、手の中に収まる大きさの機器と、すぐ側にある、トランクサイズの機器の電源を入れ、デスクトップ端末のスリープモードを解除。一通り起動したところで、女性型の頭部を起動した。 「…………電源が入力されました。登録名 シノ 起動を開始します…………起動が完了しました。前回の終了時、正常に終了していませんでした。破損したファイルをチェックします…………」   明博には、その頭部だけの女性型アンドロイドは「シノ」と名付けられている。  前髪をセンターで分けた黒髪のショートヘアーに、大人の雰囲気を感じさせるどのパーツも完璧に整った人工的美貌。  頭部と首だけでも、その女性的魅力は十二分に溢れており、頭しかないとしても彼女と結婚したいと思える者がいてもおかしくはないほどだった。  人工物だからこそ、アンドロイドには美男美女ばかりが溢れている。それもまた、とても大きな魅力のひとつでもある。  シノは起動後、どこかおかしかった表情がリセットされ、システムから発せられる定型文を喋り、瞳の奥に光を灯す。        「…………ファイルチェックが完了しました。システムチェック中…………」  シノの起動シークエンスが行われている間、明博が現在手をつけているトランクサイズの機器を少し離れた位置に動かしつつ、ハンドサイズの機器の持ちやすさや状態を確認したりと、様々な下準備を進めていく。 「システムチェックが完了しました。擬似人格を起動します………………こんばんは明博様。おかえりなさいませ」  そうこうしているうちに、全ての起動準備が整い、シノの擬似人格が起動し始めた。  それまでの無感情、無表情ぶりから、インストールされているファイルを参照することで、首から下は何もなくとも、プログラム通りに人間のような振る舞いをすることができるようになる。  擬似人格が起動したシノは、まるでお淑やかなメイドのような落ち着いた口調で、後方にいる明博に向かって、現在電子頭脳内で計測されている時計の時刻に従った挨拶を向けた。  首の途中と頭部だけであるシノは、自ら頭を途中までしか回転させられず、後ろに振り向くことができない。  その間に明博は、手持ちサイズの端末をシノの後頭部に押し付け、それを起動させた。 「本日はいかがでしたか? 充実した一日を過ご、過ごせ、すすす、過ごせ過ごせまままましまし、ま、ましたたた、ほほほ本日は、本日ははははいいい、いかがががががでしたでした一日を一日をををを」  すると、シノは突然唇を震わせ、両方の眼球がバラバラな方向を向きながら小刻みに振動し、音声が無茶苦茶に混ざり合い、言葉として成立していないような状態へと変貌した。  明博が自作していた機器は、いわゆるEMP兵器。電磁パルスによって電子機器に多大なる影響を与え、損壊させることを目的とした代物である。  彼はそれを個人で制作し、限られた範囲で使用できるように調整を重ねていた。  なぜ彼がそのようなモノを自作しているのか。それは、彼が女性型アンドロイドや全身機械化した女性が、自ら壊れたり、誤作動を起こして機械的に壊れておかしくなる姿を非常に好んでいるからである。  どう見ても人間にしか見えないし、普段の振る舞いから生身の人間と違うところは殆ど見られないのに、そんな女性が時折見せる機械的な面や、破損やエラーによって見せる非人間的な挙動に、彼は興奮を覚える。  アンドロイドがそのような姿を見せる時点でも最高だが、それが元々人間だった人物が見せると、より興奮の度合いが上がる。彼はそんなタイプの人間なのであった。  元々中古品である、頭部だけ売り出されていたシノを購入したのも、その性癖を満たすと同時に自作のEMP機器の実験台にする為。  そして、彼がEMP機器を自作しているのは、いずれ出会えるかもしれないそんな相手に使用する為である。  そんな欲望を満たすべく、彼は同時にプログラミングなど、関連する事柄についても学びを進めている。  それによって、仕事にも良い影響は働いているが、そんなことは彼にとっては非常にどうでもいい。全ては己の性癖を満たすための糧でしかないのである。 「安定してるな。うまいこと調節できればいいが……」  現在彼が作っているのは、手元で起動可能な持ち運びタイプのモノと、一定範囲に向けて影響を及ぼすタイプのモノ。  そのどちらも、現時点では非常に上手く行っており、彼としてもこれならば実践的に運用させることは可能だろうという感想が浮かび上がる程になっている。  だが問題は、それを使える状況がまだ訪れていないということ。  それが来るまでは、シノを実験台にすることでその欲を満たすしかないのであった。  しかし、その時は唐突に、かつ突然訪れる。 「まだ眠いなあ……はぁ」  また別の日。EMP機器の開発とオカズとなる機械女性のネタを漁っているうちに睡眠時間が削り取られていっている明博は、眠気を押して道中でブラックコーヒーでも買うかと思いながら、いつものスーツ姿と鞄と、ゴミ袋を持って家を出た。 「あら、おはようございます市川さん」 「ああ、どうもおはようございます、遠藤さん」  すると、ちょうど隣の406号室に住む住人の女性と、同じようにゴミ袋を持った状態で出くわした。  彼女の名前は遠藤玲子。ある会社に勤めている事務職の女性である。  黒よりもややブラウンがかった、額出しワンレングスの、朝の日差しに美しく輝くさらさらとしたセミロングヘアーに、お淑やかで落ち着いた大人の女性の雰囲気を感じさせる、女性型アンドロイドと見比べても遜色ない程に綺麗な美貌。  現在身につけているスーツの下から盛り上がっている豊かな両乳房は、ボタンの隙間から谷間が見えることを思わず期待してしまいそうな程に豊満であり、一歩歩くごとにどこからでも色気に満ちた揺れを幻視してしまいそうになる。  それでいて彼女の全身はよく締まっており、鍛えていることを感じさせるようなくびれと美しいボディライン、そして女性の平均身長よりも高めの背と、それをもたらすしなやかな脚が、よりその容姿端麗さをさらに際立たせていた。   「ゴミ出しの日って大変なんですよね……そのまま下に持っていってくれる機能でもあればいいんだけれど」 「そういうマンションって大抵高いですからねー。ここよりももっとしそうですし。まあ、仕方ないとこはありますよ。それ抜きでも結構ここの環境って良いですし」 「ふふ、私もそれは同感です」  二人は気軽な雰囲気で会話を交わしつつ、ゴミ袋を持ったままエレベーターへと乗り込み、そのまま一階のゴミ捨て場へと降りていく。 「先どうぞ。あとから自分が入れるんで」 「あら、いつもありがとうございます。もう少し遅かったら、もういっぱいになっちゃってますものね」         「そうなんですよねー。幸い、これ以上の時間で早く出そうって人が少ないのが助かってる感じですし」  二人はそこまで深い仲というわけではなく、一応隣同士かつ会社への出勤時間も近い為、それなりに出会う回数が多いというだけの関係性である。  それ故に、多少は会話を交わしたり、その中でそこそこはお互いのことを知る間柄になっていた。  いわば隣人でありつつ、ギリギリ友人に入るかどうかという人見知りぐらいの関係性。  故に、ゴミ出しの後でマンションの敷地から出て、それぞれ別々の道に行くまでは、それなりに会話をするということもそれなりにあった。 「それじゃあ、頑張ってください」 「市川さんも頑張って」  二人はそれぞれの移動経路に分かれると、そこまで深く相手同士のことは考えず、思考をいつも通りのものへと転換していった。  だが、明博だけは、ちょっとだけひっかかるような思考のかすれを引きずっている。 (いっつも見る度思うけど、あの人美人だよなー。なんで人間なんだろ……実はアンドロイドだったとか、機械化してくれたらいいのに)  それは、玲子の中身が機械仕掛けだったらなという願望だった。  そのままでも、彼女は非常に魅力的な女性だということは、彼にも強く体感できているが、それはそれとして生身のない機械だったら、彼の中にあるボーダーを一気に飛び越えてくる。それくらいの壁を、生身という属性は作っていた。  これまで何度も話しているうちに、彼女が現在25歳で自分よりも歳上だということも知っており、それが設定だったりせずきちんと生身で生きていることもよく理解している。  どこかで機械化してくれないかと思っていても、そんなことをいきなり理由もなく勧めるわけにもいかない。  明博は度々残念に思いながらも、今はきちんと全身一式揃った女性型アンドロイドを購入する方が早いだろうなと思いながら、会社へと向かっていった。 「市川さんが一緒だと助かるわ。ゴミの時間も曜日も、間違ってないんだなーって思えますし」  一方の玲子は、そこまで彼に対して深い感情は抱いておらず、近い年代で途中まで話しててそこそこ楽しいし、ゴミ出しの二重チェックにもなってありがたいと、仲良い程度の認識を抱いていた。  そこまで大きな近所付き合いも彼とは無く、出会うタイミングも殆どが早朝ぐらいしかないのもあって当然ではあった。 「今日のスケジュールは…………予定通りなら余裕を持って終わらせられそうね。けど、こういう時って大抵、横からまた別の話が割り込んでくるから……」  玲子は明博と別れてから彼よりもかなり早い段階で、頭を仕事モードへと切り替え、早速今日のスケジュールと同僚社員の現段階での出社情報、現時間のニュースや天気予報など、携帯端末から様々な情報を得ながら頭の中で整理していった。  彼女の仕事ぶりは、所属している会社でも高く評価されており、まさしく才色兼備を体現した存在だと太鼓判を押されている。  だがそんな評価に甘んじることなく、常に己を高めつつ会社に貢献し、より自分にとって最良の道を進もうとしている彼女は、豊かでハリのある胸が突き出ていることをより強調するような、胸を張った綺麗な歩き姿勢で移動し、今日もまた己の仕事を全うしに行くのであった。              * * *  そんな日々がしばらく続いたある日。  明博は自作しているEMP機器二種が両方とも安定して動作する程まで、正常に機能するようになったのを確認し、ほぼ完成と言えるような進捗になっていた。  それに伴い、現在彼の開発は一旦停止し、次は何を作るべきかと日頃から思案している。  毎日のように実験台になっているシノは、彼の開発品が99%完成したと言えるような状態になった頃には、後頭部カバーが開かれ晒されたままの電子頭脳から、電源が入る度に火花が散るような状態となってしまっていた。  それ程の試行錯誤が進められた末の到達。彼にとっては感無量と言う他ない。だが、完成したとしてもそれを使用する機会がなければ意味がない。  もうすぐ実用に耐えうるレベルまで開発が進むというところで、プライベートをほぼそちらに傾倒させ、睡眠時間を削ることも厭わない期間が続いていた明博。  現時点ではこれ以上詰められそうなところは出てこないということで、久しぶりに普段の生活ペースに戻ってきた彼は、朝から二つも溜まっていたゴミ袋を両手に、出社しようとしていた。 「さすがにゴミ捨てサボったのは失敗だったかな……」  家内のゴミ整理やゴミ捨ての時間も惜しいと思っていた彼は、一週前のゴミ捨てを放棄して溜め込んでしまっていた。  出来合いの残骸が詰まったそれと共に家を出た直後、数週間ぶりにも感じられる、隣の406号室からのドアが開く音が耳に入ってきた。 「おっ、おはようございま…………す……?」  明博は、玲子が出てくるであろう方向に視線を置き、あらかじめ挨拶を向ける。  しかしそこから出てきたのは、以前と比べてかなり軽々と、まるでハンドバッグを扱うかのようにゴミ袋を持ち上げている、それまでと様子の変わった玲子だった。 「どうも明博さん。そういえばお久しぶりですね」  彼女の美貌そのものは変わっていない。が、明らかにそれまでとは肌の美しさやキメ細やかさが変わっているように見える。  体型は以前より引き締まりつつ、両胸のボリュームや脚線美は一切衰えていないどころか、魅力がさらに高まっているように感じられる。  そして何より、彼はアンドロイドや機械化した女性が大好きな彼は見逃さなかった。玲子の手首や首元に、とてもうっすらとした分割線が走っていることに。  明博はあまりにも予想外な不意打ちに同様をなんとか隠しながら、直球で質問をぶつけに行く。 「えっ……あの、遠藤さん? 何か、雰囲気とか色々変わりました?」 「ふふ、よく気づきましたね。実は二週間程前に有給を取って、全身機械化手術を受けたんですよ。なので、私の身体は今、全て機械で出来てるんです」  それは彼にとって、完全に予想外でしかない出来事だった。  隣に住んでいる美女が、何の前触れも無しに突然、全身を生身から機械へと置き換えていた。  二週間前は、ちょうど明博がゴミ出しには出ていたが、同じ時間なのにも関わらず玲子とは出会わなかった時間。  その一週間後は、明博がゴミ出しに出ず二人が出会わなかったタイミングとなるので、おおよそ三週間近くの隙間が空いていることになる。そんな期間の間に、美しい隣人は機械になっていたのだ。  明博は思わず露骨に目を丸くしながら、共にゴミ捨て場へといつも通り向かっていく。 「でも、よく気づきましたね。皆さんには、なんか前より綺麗になった? くらいのことは言ってくれたんですけど、明博さんみたいにすぐ何かが違うって言ってたのは初めてな気がします」 「まあ……手首とか首のとこに継ぎ目があるじゃないですか。そこが目に入って……」 「あら……よく見てますね。機械になってから、頭とか腕や脚とか、自由に取り外せるようになったんです。それを別の機器に接続して動かしたりで、結構便利なんですよ。あ、その荷物持ちましょうか?」  玲子の声は、どこか今まで話してきた時よりもどこか浮ついているように聞こえる。  生身だった頃と比べて片手で軽々といっぱいのゴミ袋を持ち上げている彼女は、せっかくだからと明博のゴミ袋も片手でひょいと持ち上げ、人間の頃よりも大きく出力が上がっている様を披露した。  明博は、そんな素朴な性能向上ぶりよりも、彼女の細かな機械らしい部分へと視線が傾いていた。  瞳の奥で動作する絞りの挙動や、スピーカー式になっているであろう音声の変化、全身制御の精密なバランスぶり。今までは一度たりともそのような方向で注目してこなかった彼女に対して、思わず彼の目は釘付けになっていた。 「本当に首外せたりするんですかそれ……?」 「もちろんできますよ? ほら、どうですか?」 「えっすげえ……無線接続で身体と繋がってるんですよね?」 「そうなんです。最初は私も、首と身体が離れ離れになるなんてすごく変な気分だなって思ってたんですけど、今はもう当たり前みたいに慣れましたね」 「へえ……じゃあ、後頭部も開いたりとか?」 「よくご存知ですね。メンテナンスとか部品交換の時に、私の後頭部が開くようになってるんです。こっちは結構怖くてあまり動かしてないんですけど、本当に開くんだ……って、一人の時に開けて電子頭脳を触ってみたりとか」         この日の、別れるまでの話は、今までの中でも非常に濃密なものになった。  がっつくように聞きたい欲を制御しながら、会話の中でどういうことができるようになったか、などを色々と質問していく。  その中で、まるで手品を披露するような感覚で、玲子は頭部を自ら180度回転させて取り外し、断面を見せたりしながら頭と身体が離れ離れになっても平然と動作している姿を披露したり、また接続してから自身の体験を気軽に話していった。    「それじゃあ、私はこの辺りで。頑張ってくださいね」 「……ああはい、遠藤さんも頑張ってください。それじゃあまた」  いつも通りの分かれ道で別れた後、背後から見る玲子の歩く速度は、以前よりもちょっとだけ速くなっているような気がした。  体幹も整っており、バランスも取れている。スーツ姿ながらもその全身の線は改めて完璧で魅力的な女性と言わざるを得ない。  数十秒ほどその場で立ち止まった後、明博は今まで自分でも出したことのないような早歩きの速度で、会社へと向かい始めた。 「嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ!!!! マジかよこんなこと!!! 起こっていいのかよ!!!!!」  周囲に声が聞こえないような囁き声で、叫ぶように脳から出てきた気持ちをストレートに垂れ流していく明博。  こんな千載一遇のとてつもない好機が起こってしまって良いのか。こんな豪運が起こっていいのか。行き場のないあまりにも都合の良い展開に、彼は今にも雄叫びを上げてしまいそうな喜びを抑えることで精一杯だった。  以前から美女だと思ってはいたが、彼にとっては惚れるという水準にまで行くことはなかった。  が、全身機械化が行われた瞬間に、彼にとっては機械仕掛けの女神のようにすら見える程の超好みな女性へと印象が180度切り替わった。  これまで日常生活で感じたことのない程の心臓の高鳴りが、胸の奥を叩きつける。  同時に、彼の中にひとつの強い確信が生まれた。今こそ、自分が開発したEMPを使用する時だと。  だが、隣人に使用することまでは流石に想定していなかったため、もう少し準備を重ねる必要がある。つまりそれは、新たな開発の方向性が生まれたということでもある。 「こんなことになったんだったら、やるしかねえよなもう……!」  いつの間にか、自分の分野へと自ら降りてくれた隣人の玲子。  これまで自作していた、積み上げてきたいくつもの開発品は、この時のためにあったのだと彼は確信した。  思考は既に、仕事が終わった後どうするかへと、朝の時点でシフトしている。  脳内で何度も、首が外れてデュラハンのような状態になっていた玲子の美しくエロティックな姿を反芻しながら、明博は今までで一番余裕のある時間で目的の駅へと到着したのであった。     * * *  隣人が全身機械化したことを知ってから数日後。  明博は、白目を向いて力なく口を開いているシノがちょっとだけホコリ被っているすぐ側で、ひたすら新たな作業に没頭していた。  本来この日は出社日となっているが、彼は有給を消化し、己の欲望に身を任せて頭の中で構築した新たな機材の製作と、計画の実行に向けて動いていた。  その計画とは、玲子にハッキングを仕掛けて自分のものにしてしまおうというものである。  全身機械化したならば、生身が残っていない以上、存在そのものにはアンドロイドと同様の法則が適用される。  たとえ元人間だったとしても、極端に言えば今は家電製品とたいして変わらなくなっているのである。  ならば、EMP攻撃を直接行い電子頭脳にエラーを生じさせ、動作異常が発生している間に色んなことをしてしまおうというものである。  それ自体は以前から実行しようとは考えており、だからこそ彼は二種のEMP機器を開発していた。その上で現在彼が作っているのは、ポータブル型の磁気情報読み取り装置。  アンドロイド、または腕や全身を機械化した者の大半は、手をかざすだけでほぼ全てのタッチ系の処理を完了できる機能が搭載されている。  今の玲子は、手をかざすだけで改札を通ることもできるし、電子マネーによる決済も完了させられるし、自宅のオートロックを解錠することができる。  そこで、彼女の手から磁気情報を読み取り、玲子の自宅へいつでも入れる準備を整えておくことにした。 「…………よし、これでいけるはずだ。もうそろそろ帰ってくるはずだよな」  おおよその玲子が自宅へと帰ってくる時間は把握している。2〜3回程度だが、今までちょうどお互いが帰ってくる時間にかち合い、家に戻ってきたことがあった。  今回はそのタイミングを見計らって玄関から出て、磁気情報を引き出してこれからの行動をスムーズにしやすいようにする。  これは、小型EMPの実践も兼ねており、こんなにも早く誰かに使用する時が来るとは思っていなかったが、もう手を止める理由もない。  読み取り装置と小型EMPを手に取り、玄関前でずっと待機していると、ドアの向こうから、エレベーターの到着音の後で靴の足音が聞こえてきた。 (よし、今だ!)  ターゲットがやってきたと確信した明博は、彼女が自宅のドアを開ける前にと家を飛び出した。 「あら、市川さん珍しいですね。今日はお休みですか?」  足音の主は、まさしく玲子本人だった。家のドアまであと四歩程度。まさにギリギリのタイミングだった。 「そうなんですよ。久々に有給取ったんです。せっかくだし、何か夕飯を持ち帰りで買ってこようかなって」 「ああなるほど。良いですよねそういうの。私も何度かやったことあります。今は食事の必要も無くなったので、私一人ですることは無さそうですが……」  話している間に、明博は足を動かして彼女の背後を取れるようにポジションを取り、ドアに手をかざす瞬間を狙う。  そして、玲子が何の警戒も無しに、手のひらをかざしてオートロックを解除しようとした瞬間、彼は小型EMPを起動し、それを彼女の後頭部に当てた。 「でも、食事って楽しい娯楽のひとつだったんだなって、今になってちょっと思っ、と思っ、と思っ、と思っ、と思っ、と思っ」  すると、玲子はオートロックのセンサー箇所と手のひらの間に少しの間を作った状態で硬直した。  表情や言動も、その時点で最後に出したものが何度も繰り返され、規則的なタイミングで身体がかくん、かくん、と震えている。  人間であればまずありえない、機械的な誤作動らしい挙動。それすなわち、機械に効力を発揮するEMPが、彼女の頭に効いているということである。 「上手くいった! 今のうちに……」  玲子が硬直したその隙に、かざした右手のひらを読み取り装置に触れさせ、鍵の情報を手に入れる。  欲しいデータが手に入り、これで用は全て完了したが、明博はここで、硬直している彼女の顔や胸に触れてみたいという衝動が溢れ始めた。 「…………………………」  今まで時折対面していた元人間の美女が、こうして簡単に誤作動を起こして人形らしい挙動を起こすようになっている。  今この、時が止まっているような状態でべたべたと触れてみたい。そう思ったが、ここは我慢し、頬に指で触れるだけに抑えて、小型EMPを切った。  彼の人差し指に、人工皮膚の心地よく扇情的な感触が刻み込まれる。 「と思っ、と思っ、と思っ、と思っ、と思っ、と思ったりするんですよね……」   継続的な電磁パルスから開放された玲子は、そのまま何事もなかったかのように続きから喋りを再開し、手を直接ドアに触れて解錠する。  だが、後遺症からか、彼女の左眼球が、ぴくっ、ぴくっ、と、小さいながらも痙攣するように動いていた。 「それって、手にカードキーの機能入ってるって奴ですか? 本当にそういうの出来るんだ……」 「そうなんです。私、いつもちゃんと持ってててはいたけど、無くしちゃわないかちょっととと不安だったんですよね。なので、今はその心配が無くなって安心してます。腕が取れたりしない限りは、無くすこともないですから」  明らかな異常が発生していたにも関わらず、まるで日常がそのまま普通に続いているかの如く会話を継続する明博と玲子。  彼女の言動の中で、時折不自然に音がダブついていたり、手指が密かに意味なく跳ねたりしているが、気づく気配はなかった。 「噂通り相当便利そうですね……じゃあ、自分は夕飯買いに行ってくるので」 「ええ、ではまた〜」  結局、二人はそのままご近所付き合いらしい会話のみで一旦何事もなく対話は終了し、それぞれの行動に戻っていった。 「これでカードキーのデータは手に入った。あとは……」  一旦夕食を買いに行きながら、明博が手に入れた成果を携帯端末側から確認する。  確かに彼の手元には、一旦欲しかったデータがあった。  これでいつでも彼女の家に入り込める。だが、今のままではまだお隣さん同士であり、勝手に入ることなどどう考えても常識以前の問題で言語道断。  ならば、間柄を変更してしまえばいい。彼の計画は、次のフェイズへと入っていく。                 次の日の夜。彼が取った有給最後の日。明博は一日の間に、手に入れた磁気データから解錠装置を作成。  それに伴い、彼はすっかりと周辺も日が落ち一日の終わりが近くなった時間に、もうひとつのトランクサイズのEMP機器をリビングに動かし、406号室側の壁に正面を向けてくっつけていた。 「あとは向こうに遠藤さんが来るのを待つだけだな」  彼はこの一日の間に、もうひとつのガジェットを開発していた。それは、一定範囲内の電子機器をサーチし、それとの位置関係を画面内に表示するというものである。  どこかに無くした電子機器を探せるという利点もあるが、これの目的はもっぱら、隣の部屋で暮らす玲子が今どこにいるかをサーチするためである。  玲子が狙った位置へ来た瞬間に、406号室を狙ってEMPを起動し、彼女の動きを止め、その隙に様々な手を加えようとしている。  これが、彼が今考えている計画の最終段階。これによって、玲子という機械を名実ともに自分のものにしようという魂胆である。  いつ頃彼女はその地点にやってくるか。心待ちにしながら待ち構えていたところに、トランクサイズEMPの範囲内に入り込んできたのを確認した。 「今だ!」  明博はそこで迷わず電源を入れてEMPを起動。壁の向こうでどうなっているかまだわからないが、彼女の動作が止まっていることを願った。  すると、サーチマシンの画面内に表示されていた動く点が、起動とほぼ同時に動かなくなっていた。  これは間違いなく彼女のことだ。そう確信した明博は、すぐさま携帯端末と解錠装置、ノート端末とケーブル各種、その他諸々が入った鞄を急いで持ち、家を飛び出した。  外には誰も外出している気配はなく、マンションの明かりと道路を走る車両の音が聞こえるのみ。  明博は、解錠装置をドアにかかげる。まだ一度も試したことはない、試せるわけもないぶっつけ本番だが、見事鍵は開けられた。  ひとつの大きな関門を突破した彼は、誰かに見られないようすぐさまドアを開け、中に入りドアを閉じた。 「……ここが玲子さんの家の中かぁ」  機械の彼女をモノにしたいという気持ちがいっぱいで意識していなかったが、この時が初めて、玲子の自宅の中を覗いた瞬間でもあった。  おそらくは人間だった頃からそうなのかもしれないが、非常に整理整頓されており、玄関からほのかにアロマが香っている。  既に機械化してからある程度の日にちが経っているにも関わらずこのような香りにこだわっているということは、彼女が自身の室内にそういうプロデュースを敷いているのである。  汚れているところや荒れている様子はどこにも見当たらず、まるで最初からアンドロイドであったのかと思えるくらいに、清掃や整理整頓が行き届いている。  思わず感心の声が漏れてしまいそうになりながらリビングの方へと進んでいくと、彼は一番の目当てである玲子の姿を発見した。 「でいいわ、でいいわ、でいいわ、でいいわ、でいいわ、でいいわ……」  これからソファーに身体を沈めて、しばしの間ゆったりとした時間を過ごそうとしていたのか、腰をほんの少しだけ落として膝が僅かに曲がった、いかにも途中で時が止まったような姿勢で硬直してしまっている玲子。  一人の時間で気が緩んでいるのがわかる、落ち着いていてかつ美しさが損なわれていない表情。  しかし、口が開いたまま震えながら固まっているため、口元から口内に溜まっている人工唾液のしずくがこぼれ始めている。  明博は、自身の所有する機器がEMPの影響を受けないように、少し離れた位置で機材の準備を整え、そして、遠隔操作で、自宅のEMPの電源を切ると、すぐに走り出し、玲子の首筋の皮膚カバーを開いて電源ボタンを長押しした。 「でいいわ、でいいわ、でいいわ、でいいわ、でいいわ、でいi……………………」  玲子の音声は、強制終了によってぶつ切りになり、そのまま物言わぬ機械人形と化した。  全身の震えは止まったが、ポーズはまだ日常の途中で硬直したそれのまま。眼球の光は失われ、まさしくその姿は人形そのものである。  明博は、自宅から持ってきたドライバーを手に取り、後頭部の頭皮にほんのわずかに存在する窪みにそれを差し込み、強引に後頭部カバーをこじ開けた。  その奥には、彼女が以前恥ずかしがって見せてくれなかった、今の遠藤玲子という存在の全てが詰め込まれている電子頭脳があった。 「これが、玲子さんの電子頭脳か……本当に生身全部無くなってるんだな」  美女の頭の中を物理的な意味で覗くというのは、シノ以外では初めてのこと。興奮が収まらないが、ずっと長居しているわけにもいかない。  これからもっと、彼女とお楽しみが出来るようになるのだからと気持ちを切り替え、明博はノート端末と携帯端末を近くまで運び、首筋と電子頭脳の端子にそれぞれケーブルを接続する。  ノート端末を動かし、事前準備を整えたところで、明博は一度立ち上がった。 「さて、ちょっと色々物色してみようか」  こうなればあとは流れ作業も同然。すぐにでも彼女のことをものにしたい気持ちはある上に、長時間ちんたらしているわけにもいかないが、それはそれとして確認しておきたい、確認しておかなければならないことがある。  明博は、果たしてそれがあるのかどうか、と疑問を抱いているものの存在を確認すべく、他の部屋へと一旦移動した。 「まさに落ち着いた人の部屋って感じだな……ところどころ可愛い小物とか置いてたりして」  彼が向かったのは、デスクトップ端末のモニターが置かれている机などがある自室と思われる部屋。  いわゆる家での作業やゲーム、ネットの娯楽を楽しむ為に使われていた部屋という雰囲気があり、今日までも使われた形跡がある。  ここも同じく非常に整理整頓されているが、ところどころに物が動いた跡が見られるのが、生活感を覚えさせる。  だが、明博が知りたいのはそういうところではない。 「おっ、やっぱあるんだなこういうのって……一本でもいいから欲しいって思っちゃうな」  まず彼が見つけたのは、彼女の予備パーツの数々だった。  無数の両腕や両脚、眼球や、人工体液と思われるボトル、女性器ユニットなど、何かしらの要因で一部部品が壊れてしまった際の替えとなる部品が、棚の中に部位ごとにまとめて積み上げられている。  その様はまるで、猟奇的なコレクターのそれのよう。だがそれも、彼女の身体の一部だと思うとより魅力的に思える。 「あとは…………あった、たぶんこれだな」  だがそれらは目当てのものではない。彼は机の方を物色していくと、あることに気づいた。  それは、おそらくメインの物として使用しているであろうデスクトップ端末のすぐ側に、別の新しいデスクトップ端末の機器が設置されていたことである。  汚れも全くついておらず、新品同様であるにも関わらず、最低限のケーブルしか伸びていない上に、そのうちの一本はすぐ側のデスクトップ端末に繋がっている。  だがそれこそ、目当てのものだと見当をつけ、運良く電源がついたままだったモニターから操作を行い、その中身を確認した。 「やっぱりそうだ。こいつがバックアップを取るためのストレージなんだな」  そこにあったのは、電子データ化した遠藤玲子の全データのバックアップファイルだった。  しかもそれはリアルタイムで取得され続けており、最終更新時間は、電源が切れた直後となっている。  全身機械化した者は、様々な方法で自分のデータのバックアップが行えるようになっている。  有線接続で何度か手動で行うか、無線やネットワークでストレージと繋がり、常にリアルタイムで取得し続けるか。自分にあった方法を選択できる。  玲子が選んだのは、リアルタイムでのバックアップ取得。そのおかげで、仮に彼女の内部データが破損したとしても、バックアップから復帰することが可能となっている。  明博は、今の彼女のバックアップデータをこっそりと、自分が持ってきた小型の外部ストレージにコピーしつつ、知りたいことも知れたからあとは彼女に手を加えるのみ。と思った矢先、彼はバックアップ用デスクトップ端末から伸びているもう一本のケーブルの存在を発見した。  そのケーブルは、予備パーツが無数に入った棚の横の、マンションに最初から備わっている収納スペースの中へ伸びている。  明博はそれを辿り、興味本位でそれの中身を開いてみる。 「うおっ!? びっくりした……でも、こんなのまできちんと用意してたのか……いいじゃん……」  そこに入っていたのは、玲子の全身全てが揃っている予備機体だった。  下着一枚すら身につけられていない玲子そのものな身体が、マネキンのような直立不動の姿勢で真正面を向き、首筋に先程たどったケーブルが接続されている状態で立ち尽くしている。  収納スペースの壁に向かってアルカイックスマイルを向けているその様は、まさしくそっくりな人形と呼ぶに相応しかった。 「バックアップがあればそれで最高と思ってたけど、まさかさらに最高があるとは思ってなかったわ……」  元々彼がバックアップの存在を確認しようと物色していたのは、いつでも復帰可能な状態であることを確認することで、これからどれだけ彼女の内部データや部品を破損させても、改竄や改造をしても問題ないか判断するため。  壊れてもらいたい上で、事前に修復できる環境がなければ、機械であろうと元には戻らない。その保険が効いているかどうか、確認しておきたかったのだ。  明博は、今この瞬間、まだ玲子にもなっていない、玲子の形をしているだけな機械仕掛けのラブドールをべったべたに触りたい気持ちに駆られそうになるが、流石に本物の方をこれ以上放置するわけにもいかないし、何より本物がメインターゲットなのだからと思い直し、収納スペースのドアを閉めてコピーが終了した小型ストレージを取り出すと、ようやくリビングの方へと戻ってきた。  ノート端末から伸びるケーブルに接続されたまま放置されている玲子は、電源が切られたままのため、当然ぴくりとも動いていない。  まずは予定通りの操作に向かうべきだが、明博は先程の予備機体の美しく魅力的な肢体と無機質な姿を見て、我慢の限界に近づいていた。  今、何をしても問題はない。明博は、玲子への改竄を加える前に、動かない彼女の乳房や顔を、思いっきりべたべたと触れまくった。 「うわっ、柔らか……こんなに触り心地いいんだ……!」  部屋着の中に手を滑らせ、直に豊かな乳房の感触と、一日ぶりにちょっとだけ触れた頬の質感を味わう。  人工皮膚+αの触り心地は想像を超えており、性的興奮と共に、いつまでも触っていたくなるような情動が湧き上がっている。  シノの頬や唇も、確かに人間以上の心地よさを持っていたが、最新式であろう玲子のそれは、過去の体験を一気に塗り替えた。  このままずっと、クッションを扱うように触っていたくなるが、両手が塞がったままでは先に進まない。  明博は、左乳を揉み続けている左手のみを残し、利き手の右手でノート端末を操作。  玲子の電子頭脳へ操作を加える準備が整ったところで、再び首筋のボタンを右人差し指で長押しして起動した。  開放されたままの電子頭脳から動作音が鳴り、玲子の瞳に光が灯り始める。 「…………電源が入力されました。登録名 遠藤 玲子 起動を開始します…………起動がかか、完了しました。前回の終了時、正常に終了していませんでした。破損したファイルをチェックします…………」  何度も玄関前や通勤時に話していた人間の女性の口から出てくる、家に置いている中古の女性型アンドロイドの起動メッセージと一字一句違わないセリフ。それはまさに、彼女が中身まで生身の人間から機械へと生まれ変わったことを如実に表す証拠だった。  EMPの影響がまだ若干残っているのか、システムメッセージにも少々誤作動が見られるが、明博はその間にハッキングを仕掛ける準備を整え、人格エミュレートが起動する直前を狙いすます。 「システムチェックが完了しました。人格エミュレ、エミュレ、レレ…………セットアップモードが起動されました。セットアップメニューの操作を受け付けました」  そして、彼女の本来予定されていたシステムメッセージは途中でキャンセルされ、新たなメッセージに塗り替えられた。  ノート端末の画面には、遠藤玲子という名の機械に関する設定の数々や内部情報、プロフィールや使用パーツなど、ありとあらゆる情報が表示された。  ハッキングは見事成功。玲子は現在、一時的ながら彼のノート端末の支配下に置かれたのだった。 「よーし、ここまでくればあとは……その前にちょっと遊んでみるか」  今の彼女は、彼のノート端末と繋がった外部機器に過ぎない。  ぽかんとした魂のない表情で虚空を見つめ、剥き出しの電子頭脳から動作音を鳴らす。  明博が操作すれば、今の時点でもその通りに動く。まずはそれを確認するべく、軽く自己紹介を喋らせてみた。 「私の名前は遠藤 玲子 と申します。生年月日は○○○○年、9月14日。現在の年齢は25歳です。現在私が所属している会社は……」  画面内の入力を行うだけで、玲子は言葉で頼んでもいないのにペラペラと、自分に関する情報を虚空に向かって垂れ流してくれる。  自我のない機械的な挙動が行われている姿に、思わず左手の乳房を握る手に力が入ってしまう。  乳を揉みしだかれながらも、淡々とした喋りを一切変えない玲子。現在は人格エミュレートが全く行われていないため、胸をいじられ声を漏らしたり、何かしら特別な反応を見せるようなことはない。  彼女がまだ、己のことについて喋っている間に、明博は本題の設定に踏み込んでいく。 「あーやっぱそうだよなー。元人間だとしても、機械オンリーのが単体で動くのなら、自分自身をマスターに設定するよな」  玲子の設定では、彼の言う通り自分自身がマスターとなるように登録されており、自分で自分に従うような形で自律稼働している。  彼はそこに、強引に自分自身も同じマスターとして登録させた上で、明博のことをマスターとして登録されていることを認知できないように追加の設定を組み込んだ。 「私がこれまでに行った性行為は設定の変更が適用されました。性行為は、17歳の時に自室にて」  自身の性行為の遍歴を垂れ流すように喋っている最中、システムメッセージに割り込みが入り、それが終わるとまた自己開示が再開される。  まるで羞恥プレイのような状況だが、これを以て、玲子は自覚無く、彼の制御下に置かれることになった。      これで玲子は、明博の命令をなんでも簡単に聞くようになる。何をしても思いのままであり、従順な機械人形となったのだ。  明博はそこに最後の仕上げとして、アンドロイドに使用される管理制御アプリを玲子にインストールし、ノート端末と携帯端末の両方で、彼女をいつでも操作、制御できる環境を整えておく。 「新しいソフトウェアがインストールされました。自慰行為を行い新しい外部機器が接続されました。それ以降は一ヶ月に一度の頻度で、現在に至るまで自慰k新しい設定が適用されました。oう為を継続しています。他者との性行為は」  玲子自身の性遍歴の自己開示に、何度もシステムメッセージが割り込み、少しずつ明博の為の玲子が完成していく。  携帯端末からも操作できるようになり、本格的にロボットとして扱えるような土台が固められていく。 「…………よし! これで設定終わり!! これでようやく玲子さ……玲子が俺のモノに……!」  そしてついに、明博が予定していた全ての改変作業が完了した。  これから先は、今のように首筋や電子頭脳に有線接続している状態じゃなくても、無線操作によって遠隔操作が可能となる。  彼が登録した外部機器はどれも、明博というマスターが所有している機器として登録されている為、その操作を拒絶することはできない。  仮に無線の範囲外でも、ネットワーク経由で内部データの確認や操作も可能となっており、全ての通信が遮断されたところでもなければ、玲子はどこからでも彼に操られるようになったのだった。 「にて、性行為を行いセットアップモードを終了します。設定の適用が保存されました」  明博は、携帯端末から彼女のセットアップモードを終了させ、性遍歴の開示をぶつ切りにする。  それからケーブルを二本取り外し、皮膚カバーと後頭部カバーを閉じると、彼女は再び元の人間らしい姿を取り戻した。  人格エミュレートの起動前に割り込まれたことで、他の無感情なアンドロイドと変わらないような状態のままになった玲子。  満足行くまで胸も揉みしだき、明博の目的は既に完了したが、せっかくならば最後にきちんと命令を聞いてくれるのか確認してみたい。  そう思い、明博は自ら動こうとしない彼女に口頭で命令を与えた。 「玲子、一回俺とセックスして膣内に出させろ」 「かしこまりました」  まるで購入したばかりのセクサロイドを使うかのように、この場でいきなり性行為をするように投げかけると、玲子はマスターからの命令に従順に従い、自らその場で部屋着を脱ぎ始め、己の裸体を曝け出した。  衣服に擦れて揺れる乳房に、しなやかで艶々とした肢体。先程の誤作動の際に連鎖してしまったのか、股間は既に若干濡れている。  玲子は下着まで脱ぎ捨て一糸まとわぬ姿になると、すぐさま明博のもとへと近づき腰を落とした。  まだ下半身を晒しきっていない彼の手を手伝い、途中からもう勃ちっぱなしになっていた男性器を露出させると、それを眼球ユニットで捉えて腰を浮かせ、合図や宣言もなしにそのまま自ら抵抗なく挿入していった。 「どうですか明博様? 気持ちいいですか?」 「うっ…………やば…………かなり良い…………」 「ありがとうございます。現在の女性器ユニットのパターンを登録します」  言動もまるで、一人の生きた人間ではなくただのセックス専用ロボットのよう。淡々とお礼を口にしつつ、人工的に温められた膣肉を動かして男性器を刺激し、深々と受け入れた女性器ユニット全体で、マスターの性欲を煽り立てていく。  肉棒の根元がほぼ見えないくらいに受け入れている今、玲子はほんの少しだけ上下に動くのみで、性行為としての動作はほぼ女性器ユニットのみで行っている。  それだけでも人間以上の快感をもたらせる程に、機械化した生殖器官は極上の性玩具として機能していたのだった。 「れ、玲子……お前も、気持ちいいのか……?」 「はい。とても気持ちいいです。人格エミュレートが実行された場合、即座に人格データの反応に快楽信号がフィードバックされます」  玲子としての人格データが動いていない彼女は、ずっと感情のない淡々とした喋りで話し続けている。  気持ちいいとは言っているが、見た目にはずっとそうは見えず、クールビューティーの表情を保ち続けている。  だがよく見ると、唇が小さく動いており、視線もずっと明博の顔に集中している上、膣肉の挙動がセックスの中で細かく変化している。  これが機械なりの快感への反応なのだろうかと思っていた直後、明博は一気に性感が奥底から昇り、今にも射精しそうになり始めた。玲子の機械らしい姿を改めて見返して目に刻んだことで、興奮が噴き上がってしまったのだ。  玲子はそれを膣内センサーで感知し、女性器ユニットの動作を変更。一気にラストスパートを煽り立てるように動かし、小刻みに腰を振って射精を促した。  同時に、腰を上下に動かしながら前のめりになり、豊満な両乳を潰すように押し付けながらキスを重ねる。  マスター登録された相手への、機械としての奉仕的な挙動。それらが愛している相手に行う行為だというのを、これまでの玲子の経験に元づいてシステム側が機械的に理解しているのもあって、それは明博への最後の一撃にもなった。  明博は子宮口を突くように腰を浮かせ、彼女の膣内へとこれまでの機械相手への情念を全てぶつけるように精を吐き出した。

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