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【出会い】 「BZM女子プロレスリング」は国内最大手の女子プロ団体。 13期生・黒田カズハ(26)は同期一の天才としてたちまちスターダムに駆け上がり、抜群の容姿とプライドの高い高飛車なキャラクターから「ブラック・クイーン」の異名をもつ、看板選手である。 誰に対しても高圧的で気が強く、プロレスの実力も折り紙つき。 廊下ですれ違えば後輩はおろか先輩たちですらも萎縮して道をあけてしまう様は、まさに団体の女王であった。 そんな彼女にはとりわけ気に食わない相手がひとり。 17期生として入団した後輩・藤本アイカ(22)である。 天真爛漫でいつも明るく、何よりもプロレスが大好き。 モットーに掲げる「明るく、みんなで楽しめるプロレス」は 多くのファンの共感を呼び、それまではカズハがトップに立っていた影響もあって殺伐とした雰囲気だった会場も、和気あいあいとした歓声あふれるお祭りムードに変わりつつあった。 この状況が、彼女としてはおもしろくない。 かつて自分がそうしたように、まるで後輩に時代を塗り替えられてきているような、潜在的な嫉妬と焦燥がカズハの中にあったのである。 当然、カズハの日ごろのアイカへの当たりはあからさまに強かった。 挨拶を無視するのは当たり前、自ら話しかけるのは買い出しのパシりに使うときか、もっぱら悪口を言うときという有様であった。 これは一例、団体の道場での一幕である。 「明るく楽しく?馬鹿じゃない?プロレスは潰し合いでしょ」 「だれを蹴落としてでもトップに立って誰よりも自分が輝く、アンタにはその考えがないから弱いのよ」 団体の女王からのこの扱い、通常であれば心が折れてしまっても不思議ではないのだが そこは「次世代の太陽」がキャッチコピーのアイカ。 「えへへ…かもですね!でも私はプロレスが大好きだしもっと盛り上げたい!だからファンの人が楽しんでくれてる今がすごく楽しいんです」 周囲の練習生たちが戦々恐々とするなか、まったく気にせず、笑顔でこう返す。 聞いていた練習生たちにも笑みがこぼれる。 事実、アイカはいまだカズハに勝ったことはないのだが、それでも持ち前の明るさはカズハが築いてきた地下闘技場のような雰囲気をあっという間に変えてしまったのだ。 そう、この道場という小さな空間の中ですら、その現象はこうしてまた起こった。 (なにこの子?本当に気に入らない…) 【マッチメイク】 このように、カズハがアイカに敵対心を燃やし募らせていたある日の興業。 この日のすべての試合日程を終えた会場は、それでもなお大盛り上がりを見せていた。 "コスチューム剥ぎ取りマッチ" 半年に1度行われるBZM女子プロレスリングの恒例イベントで、これは <クジ引きにて選ばれた選手2名が、コスチュームを先に脱がされたほうが負けという特殊ルールで戦う特別試合> であり、その抽選が今まさに行われようとしていたからだ。 全選手が控え室のモニターで、リング上でクジ引きを引くリングアナウンサーを固唾を飲んで見守る。 たまのファンサービスと思い納得はしつつも、やはり選ばれたくはないのが選手たちの本音であった。 『まずは1人目………おぉーーと!!!黒田カズハ!!黒田カズハ選手です!!』 名前の書かれた紙を広げて観客にアピールする。 「うおおぉーっ!!マジか!!」 「勝ってはほしいけど…カズハ様のパンティが見られるかもしれないってことか!?」 「やった!!カズハ様ぁーーーっ♡」 観客のボルテージはますます高まる。 黒のコスチュームに身を包んだセクシーかつグラマラスな女王様は、熱烈な男性ファンも多い。 『それではカズハ選手!!リングインをお願いしますっっ!!』 入場テーマ曲とともにカズハが花道から現れ、カズハコールを背中に受けながらリングにあがる。 「最悪……まあいいわ、どうせ誰が引かれても私が負けるわけないんだから」 余裕よとばかりに不敵に笑い、赤コーナーにもたれ掛かる。 『それではカズハ選手の対戦相手を決める2回目のクジを引かせていただきますっ!!』 『………なんと!!この試合はまさに、月と太陽の戦いになるでしょうっっっ!!』 「……っ!まさか」 『ブラック・クイーンに挑む戦士は…藤本アイカ選手だぁぁぁっ!!』 藤本アイカの名前が叫ばれると、会場は破裂せんとばかりの大歓声が巻き起こった。 「アイカちゃんだ!!」 「がんばれーーっ!!カズハなんかに負けんなよ!!」 「カズハが相手で大丈夫か…?アイカちゃんの下着が晒さられる姿なんて見たくない!」 「今度こそリベンジだ!アイカちゃんがんばれ!!」 今度はアイカのファンが、期待や心配とともにリングインする推しの背中を見守る。 「まさか私たちだなんて…すごい確率!きっと楽しい試合になりますね!」 「よろしくお願いしますね!カズハ先輩っ!」 「あーうるさ…相変わらず呑気ね」 (やった!!これならクジが引かれて大正解、アンタのコスチューム剥ぎ取って…客の前で大恥かかせてあげるわ!) 『試合は1週間後の○○武道館で行います!皆さま、どうかお楽しみにぃっ!!』 【アイカvsカズハ】 そうして迎えた試合当日。 この日も前座から数試合が組まれていたが、メインイベントはもちろん ブラック・クイーンvs次世代の太陽の コスチューム剥ぎ取りマッチ。 それまでの応援疲れもどこへやら、双方のファンはそれぞれ推しへの声援を飛ばす。 一方リングで対角線上に向かい合うカズハとアイカは、互いに別々の動機から微笑んでいた。 (ようやくこの子を潰せる日が来た……アイカはただ叩きのめすだけじゃダメ。あの減らず口も金輪際効けなくしてやるんだから) (カズハ先輩みたいな強い人と、こんな大歓声のなかで試合ができるなんて…やっぱりプロレスって楽しい!でもさすがに…おパンツは見せるわけにいかないかな笑) 『レディー……ファイッッ!!』 2人がそれぞれ胸中で意気込むなか、試合開始のゴングが鳴った。 【月が堕ちるとき】 試合序盤は完全にカズハのペース。 彼女を瞬く間に団体のトップに押し上げた打撃主体の空手殺法は攻めに特化し、早々に相手の体力を奪うと共に怒涛の蹴りや手刀でダメージも蓄積させる。 アイカはこれまでも、この猛攻を受けきれずに先輩越えを見送ってきたのだ。 (やっぱり弱い…このまま押し切らせてもらうわ!) 脚へのキックでふらついたアイカに半歩引いて助走をつけ、膝蹴りを叩き込もうとするカズハ。 だが、アイカもやられてばかりではない。 プロレスを愛する彼女は日々の鍛錬や研究を決して欠かさず、カズハらトップ層の試合映像は何度となく観て対策を練っていた。 飛び込んできたカズハのスネを掴んでその場でアイカが体ごと旋回する、いわゆるドラゴンスクリュー。 本来は自身も同じ方向に旋回することで受け身をとるのだが、初動が遅れたカズハは膝を捻り、その場で倒れたところに追い打ちで土手っ腹にニードロップをもらう。 「うっ………」 「私だって努力はしてるんですよ!今日こそ初勝利、もらいますっ!」 アイカは続けざまにコーナートップに昇ってボディプレスに移行しようとする。 いけいけ押せ押せというアイカコールのなか、いまだリングに寝そべるカズハのもとに決死のダイブで飛び込んだ。 「それが甘いのよ」 だがカズハはすぐさま横に転がってプレスをすかす。 何もない場所に腹をうちつけたアイカが自爆し、再度主導権を渡す結果となってしまう。 うずくまる後輩にこれでもかとストンピングの踏みつけ攻撃。 女王様の嫉妬がたっぷり乗った重低音の鈍い音が響き、アイカの背中にはカズハの靴跡がくっきりとつく。 痛々しい姿を見、客席からはカズハへのブーイングも飛ぶ。 だが意に介さず、今度は追撃のスライディングキックを横腹に叩き込むため反動を利用せんとロープまで走る…… と、そこでアイカが起き上がって自身に向かってくるカズハをカウンターの足払いで転ばせ そして、無防備なデカ尻にカンチョーを突き刺す。 「えいっ!」 ずぶりゅうっ!! 「んぎゅっ!?❤️❤️❤️」 彼女はストンピングで踏みつけられている間に呼吸を整え、猛攻を得意とする先輩が追撃してくることを読んで自身から遠ざかるのを待っていたのだ。 間抜けな声をあげて肛門を抑えるブラッククイーンをよそに、アイカはファンへすかさず指で輪っかを作って「心配いらないよ!」とジェスチャーでアピールする。 その笑顔に、ファンはまたまた大歓声。 (〜っっ!!//このガキっ……!!) イタズラのような技で己を辱め、ましてアイドルのように振る舞う姿にカズハは苛立つ。 "プロレスは楽しいもの"という自分とは対象的なスタンスをもつ後輩の躍進を、これ以上許すわけにはいかない。 「調子に乗るんじゃ……」 「ないわよっ!!」 起き上がると同時にエルボーラッシュで襲いかかる。 アイカの頬に、こめかめに、左右の肘打ちを打ち込んで脳天を揺らしていく。 とてつもない破壊力のコンボのはずなのだが、しかしアイカは日々の研鑽のなかで、本人の予想以上の打たれ強さを身につけていた。 カズハの肘を振り払うと、お返しのエルボー。 これが、アゴにクリーンヒットしカズハがよろめく。 アイカはそれを見逃さず、背後に回ってジャーマンスープレックス。 ヒップが天井を向く形となり、大きいゆえにもともとコスチュームからハミ出しているカズハの尻が、衝撃でぷるんと揺れながら照明に照らされ2階席からも歓喜の声があがる。 「うおぉっ!カズハ様のケツ!!」 「アイカちゃんナーイス!!」 (このっ……!!//) ピーピーと指笛まで鳴るような始末に、頭からリングに落ちて意識が朦朧とするなか、またも苛立ちが募る。 「まだですカズハ先輩!」 これでもまだ先輩越えには至らないとわかっていたアイカは更にジャーマンスープレックス。 そして起き上がらせるとその場でラリアットの一閃。 バタンと派手な音で倒れたカズハに、先ほどは失敗したボディプレスを今度こそ命中させた。 「おごっ……!?」 「まだまだまだーーっ!!」 拳を振り上げファンにもう1度アピールをすると、またもコーナートップに登るアイカ。 繰り出したのは初披露の大技………… ファイヤーバードスプラッシュ。 コーナーからリングまでのわずかな高低差の間に何度も前方に回転しながら相手のもとに自身の全身をプレスする、プロレスにおいてはフィニッシュ技にもなりうる必殺のムーブ。 「…………ぐっ……ふ……」 このサプライズともいえるアイカの新技に、会場は揺れんばかりの拍手が鳴り響く。 「嬉しい…私、やっぱり強くなってる…!」 「じゃあカズハ先輩…ごめんなさいですけど、コスチュームもらいますっ!」 ハァハァと息を切らしてプレスの直撃から立ち直れないカズハのショートパンツに手をかける。 「うっ、や…やめなさいっ…!」 しかしまだ意識のあるカズハはそれだけはさせまいと抵抗、アイカのみぞおちに的確な蹴りが入る。 「うっ!」 さらにこの機を逃すまいと立ち上がり、刹那、アイカを眼孔鋭く睨みつけると凄まじいスピードのハイキック。 残る体力を振り絞った起死回生の一撃はアイカの側頭部にバコォォン!!という音を立ててヒットした。 それまで大歓声の鳴り止まなかった会場の空気が一瞬にしてピンと張り詰める。 「今の、やばくないか」という意識が、絶句して言葉にこそ出ないものの全員のなかで共有された瞬間だった。 だが…………カズハも観客も信じられない光景を目にする。 アイカは、フラフラとおぼつかない足取りながら満点の笑顔を見せた。 「今の……めっちゃ効きました!カズハ先輩やっぱりすごいです…!」 「私、今日は絶対勝ちたくていっぱい研究して…練習もして、新しい技まで覚えてきたのに…まだこんなキックができるなんて……」 「あらためて思いました……今日の試合を盛り上げて…その上でカズハ先輩、アナタに勝ちたいッ!!!」 (は……………………????嘘でしょ????嘘よ、嘘よ、なんで倒れないの?) カズハはアイカの言葉など頭に入ってこなかった。 この瞬間、これまで彼女に感じていた嫉妬や焦燥の正体が"恐怖"だったことに初めて気がついた。 "私の築いてきた人気や殺伐とした雰囲気がすべて奪われ、プロレスは自分ひとりが輝くための潰し合いだというイデオロギーすら真っ向から否定されるかもしれない" 年下にそんな恐怖を抱いていたことを、カズハは無意識に誤魔化し、次世代の追い上げというプロレス的な視点での焦りに置き換えていたのだ。 しかしそんなことを認めたくは無い、なおも脳内で自覚が芽生えつつある恐れを懸命に振り払おうとする。 だが相当なダメージを追い、思考が勝負から逸れた時点で決着はついていた。 アイカの、その場飛びのドロップキックに吹き飛ばされると今度はリング上に大の字になったところをダイビングエルボー。 これでいよいよ決まりか、というところでデビュー以降、絶対王政を敷いてきた「ブラック・クイーン」は最後のプライドで、背後にあったロープを掴んで辛うじてフラフラと起き上がる。 「アンタ…なんかに…負けない……プロレスに…明るさなんて、いらないのよ…」 もはや打てる技もない。自慢の打撃を放つスタミナもなく、今やただ意地だけで立っていた。 その様子からすべてを汲み取ったのか、アイカはトドメの前に偉大な先輩に向けてそのバトンを受け取る決意表明をする。 「プロレスは楽しいものだから…みんなで熱くなったり笑ったりしながら、また来たいって思ってもらえるような試合を、私はこのBZMで作っていきます!!!」 「勝手に……勝った気で…いる… な、まで言い切ろうとしたところで、アイカは介錯の意を込めて脚を振り上げた。 ハイキック- トドメに選んだのは、何度となく自分をリングに沈めてきた先輩のフィニッシュ技だった。 スローモーションのようにカズハが倒れる。 そして、アイカは今度こそとカズハのショートパンツに手をかけた。 (負ける………イヤイヤイヤイヤイヤイヤッッッ………!!こんな奴に……こんな負け方………!?!?ありえないから………!!!) 諸行無常。 何年も先輩たちすら見下してきた女王・黒田カズハはここに屈した。 ぷりーーーんっ❤️❤️❤️❤️❤️❤️ 「っ………あぁぁあぁぁああああ!!!」 視界の斜め上…照明の逆光にあたる、大嫌いな後輩の背中と、天高く掲げた左腕。 その手には、今この時まで間違いなく自身の大きな尻を包み込んでいたコスチュームが握られている。 『試合時間21分53秒っっっ!!!』 『ただいまの試合、コスチューム剥ぎ取りマッチは……』 『勝者、藤本アイカーーーーっ!!』 大歓声。拍手喝采。 カズハファンの落胆や絶望の声はそれらに掻き消され、誰の耳も届かず。 そして…… 「うっ……うわぁぁぁぁぁんっ!!」 「こんなの……認めない…認めないからぁぁあっ!!」 心を守っていたプライドが崩れ落ち、負けを認めなくないあまり、まるで駄々をこねる子供のように悔し泣きするカズハの声が虚しくリングに響き渡った。

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